『3月のライオン』(c)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

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 昨年の『ちはやふる』に続いて、今年は『3月のライオン』が春シーズンの邦画を賑わす前後編映画というわけだ。両作とも、題材が文化系スポーツで、主人公がその天才的な才を持ち合わせているという点が共通している。ところが『ちはやふる』は仲間たちと奮闘する前編と、主人公が強敵を前に孤高の戦いに足を踏み入れていく後編に分けられていたが、『3月のライオン』はそれとは逆のアプローチだ。

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 若くしてプロ棋士になった孤独な主人公と、彼を取り巻く人物たちをさらりと流す前編を経て、後編ではより深く人物描写を掘り下げて、主人公を“個”から“全”へ成長させていくのだろう。もっとも、前後編の映画二作で原作漫画をまとめるのであれば、こちらの流れの方が自然なように思える。

 その主人公、神木隆之介演じる桐山零を取り巻く人々の中で、本作の大きなカギとなるのは川本家の三姉妹。零がひとりで暮らす町の川向こうの家で、姉妹三人で暮らす彼女たちとの出会いが、この『3月のライオン』という物語を、単なる将棋ドラマではなくあたたかいヒューマンドラマとして成立させていくのである。

 道端で零が倒れているところを助ける長女のあかり、中学生の次女ひなた、そして幼く無邪気な姿が印象的なモモと、年が離れながらも息の合った彼女たちの光景が、対局シーンや、零と義理の姉・香子とのギクシャクした関係などの緊迫感を和らげてくれる。その中でも、次女・ひなたを演じる清原果耶はとくに注目すべき存在だ。

 芸能界入りと同時に「アステラス製薬」と「三井不動産」のCMで注目を集め、ニコラの専属モデルになった現在15歳の彼女。初演技がノイタミナ系の劇場映画『台風のノルダ』での準主役の声優、その次には朝ドラ『あさが来た』で主人公の家に仕える女中と、キャリアの滑り出しから大きな仕事を任されてきた彼女は、間違いなく今後大きく成長を遂げる逸材だ。(しかもその『あさが来た』では、視聴者の要望によって、これまで演じてきたキャラクターの娘役として、再登場するという話題の集めようだ)

 そんな彼女の実写映画デビューとなったのは、昨年末公開の映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』。小松菜奈演じるヒロインの、中学時代(といっても回想シーンではないというのがこの映画の複雑なところだ)を演じているのだが、出番はごくわずか。それまで観客が見てきたヒロインを想起させるだけの見事な立ち居振る舞いは印象には残るものの、何せこの映画での小松菜奈の存在感が立ち過ぎていて、今ひとつピンとくるものはなかったのが正直なところだ。

 そうなると、今回彼女が演じる川本ひなたという役柄が、彼女の映画キャリアでの最初の大役となる。登場シーンでは、寝坊して慌てながらご飯を食べて、急いで学校に向かう彼女。それまでの辛辣な空気感漂う作中を、一瞬で破ってホームドラマに転換させるのである。とりわけ大きく個性的なキャラクターではないにしろ、その自然体な姿に好感を持てずにはいられない。しかも、有村架純演じる主人公の義姉とのコントラストも絶妙で、中盤で零にお弁当を手渡す場面で有村をキッと睨む表情もなんとも言えない。

 もちろん、長女・あかりを演じる倉科カナ、三女・モモを演じる新津ちせも忘れてはならない。先日放送を終えたテレビ朝日系の連続ドラマ『奪い愛、冬』で主人公として、実に奇特な愛憎劇を演じ切った倉科は、2009年の朝ドラ『ウェルかめ』以降でようやく再ブレイクの兆しを見せ始めている。そして、CMや映画などで出演作を増やしている子役の新津ちせは、なんと『君の名は。』の新海誠監督の娘であると、本作の公開直前になって報じられた。大友監督も、『君の名は。』でも主人公を演じた神木隆之介ですら、撮影が終わるまで知らなかったというのだから面白い話だ。

 4月22日に公開となる後編では、彼女たちを捨てた父が帰ってきたり、ひなたの学校で大きな問題が発生してしまったりなど、川本三姉妹のドラマが大きく取りあげられることになる。前編では、徐々に距離を縮めていくだけだった零と彼女たちの関係も、より深く描かれていくことだろう。再ブレイクへの試金石、超注目株としての真価、そして天才子役の証明、それぞれ異なった課題を持ち合わせた川本三姉妹の姿に、後編では目が離せない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。