腕時計の黎明期である1905年に誕生したロレックスは、瞬く間に信頼性の高い腕時計を作り上げることに成功しました。現在に通じる数々の栄光は、果たしてどのように築かれたのでしょうか。

 

先見の明に優れた創業者ハンス・ウイルスドルフ

↑クロノメーター認定を受けた初の腕時計

 

ロレックスの創業者ハンス・ウイルスドルフは、24歳のときにロンドンに時計販売の専門会社を設立しました。当時の腕時計は決して性能が良いとは言えず、すでに彼の頭には手首に着ける時計の構想があったと言います。

 

間も無く彼は、スイスのビエンヌにある時計メーカーが製造した高精度の小型ムーブメントを搭載した時計を手がけることになります。

 

現在の社名になったのは1908年のこと。ハンス・ウイルスドルフの回顧によれば「アルファベットのあらゆる組み合わせを試し、数百の候補が挙がったが、これぞというものがなかった。ある朝、ロンドンのシティで乗合馬車の2階席に座り、チープサイドを走行しているとき、天啓のように『Rolex』という名前がひらめいた」と残されています。

 

ムーブメントの品質向上に力を注いだ結果、1910年にはロレックスの時計がビエンヌにあるスイスクロノメーター歩度公認検定局から、クロノメーターの公式証明書を獲得します。これは、腕時計で初めての出来事でした。

 

さらに4年後には、イギリスのキュー天文台よりロレックスの腕度消えにA級証明書が与えられます。この証明書は通常、航海用のクロノメーターのみに与えられるもので、ロレックスの精度の高さを物語っています。

 

 

ロレックスが開発した2つの世界初「オイスター」「パーペチュアル」

↑完全密閉の防水ケース「オイスター」の性能を讃えた全面広告。メルセデス・グライツは「私の知る限り、完全に防水で、砂や潮風からもダメージを受けない唯一の時計です」という内容を創業者に送っていたと言われている

 

精度を獲得したロレックスは、そのムーブメントを保護するケースの強化に乗り出します。そして完成したのが、かの有名な「オイスター」。世界で初めて実用レベルの防水性・防塵性を備えた腕時計です。

 

完全密閉ケースでムーブメントを保護した腕時計の性能は、完成から翌年の1927年に早くも実証されます。着用者は、イギリス人スイマーのメルセデス・グライツ。彼女は、ロレックス・オイスターを着用した状態でドーバー海峡横断にチャレンジし、これを成功させます。10時間以上も水中にあったにも関わらず、腕時計は完璧に動き続けていたそうです。

 

この偉業は、ロレックスが英国紙「デイリー・メール」に展開した一面広告によって世間的に広まることとなります。

 

ただし、完全な防水時計であっても、ゼンマイを巻くためにリューズを引いていたのでは人為的な操作による故障が生じてしまうもの。

 

そのことも見抜いていたロレックスは、1931年に世界初の自動巻きメカニズムを持つパーペチュアルローターも開発。オイスターの性能を最大限の状態で保つばかりか、メインスプリングのエネルギーが安定することで精度向上も実現したのです。

 

 

オイスター パーペチュアルから生まれた数々の名機

↑1953年に発表されたエクスプローラー(左)と、サブマリーナー(右)

 

高級時計としての上品さを損なうことなく、防水性・防塵性を保ち、かつ高精度を誇るオイスター パーペチュアルは、短期間のうちに様々なデザインで発表されることとなります。

 

それらはただ量産されるだけではなく、メルセデス・グライツのようなスイマー、レーシングドライバー、飛行士、登山家、探検家など、様々な人が実際に愛用して、その優秀性が認めてきたのです。

 

1953年には、ロレックスの初期プロフェッショナル オイスターウオッチの代表作となるエクスプローラーが登場。同じ年には、深海潜水のために特別に開発されたオイスター パーペチュアル サブマリーナーも発表しています。

 

これらは、プロフェッショナルが挑む環境が想定された、機能追従型のデザインが特徴。のちに続くGMTマスターやコスモグラフ デイトナなども、これにあたります。

 

一方で、革新的な日付表示機構を持つオイスター パーペチュアル デイトジャストを1945年に発表して以降、デイデイトやスカイドゥエラーのようなエレガントなクラシックモデルも数多く手がけています。

 

 

最高の実用時計であり続けるために革新を続ける

スイスレバー脱進機の効率を最大限に高める研究を進めて2015年に発表した、特許取得の「ロレックス クロナジー エスケープメント」。主要部品の効率を15%も向上させた

 

腕時計に限らず、時代の移り変わりと共に技術が進歩すれば、これまでできなかったことができるようになります。ロレックスも、そうした流れの中で段階的に進化を続けてきました。

 

最新モデルに関して言えば、極めて傷がつきにくく、耐蝕性に優れ、紫外線による影響も受けにくい「セラクロムベゼル」を独自に開発しています。

 

ムーブメントにおいてもニオビウムとジルコニウムと酸素を混合した独自合金「パラクロム・ヘアスプリング」を2000年に発表。2005年にこれを改良するための新しい特許技術を導入し、多くのモデルに搭載しています。

 

ヘアスプリングに関して言えば、2014年にシリコン技術を用いた「シロキシ・ヘアスプリング」も開発。この部品は5件の特許を取得しており、標準的なヘアスプリングの10倍の耐衝撃性を持っているそうです。

 

 

時代を超えて語り継がれる信頼性

↑1953年にヒラリー卿がエベレストを制覇した際にはロレックスのオイスター パーペチュアルが活躍。こうした偉業は数多く、ロレックスの信頼性の裏付けとなって現代まで語り継がれている

 

これまで見てきたとおり、現在のスポーツウオッチの源流を作ったのはロレックスと言っても過言ではありません。

 

その堅牢性は、現在もロレックスの時計が飛び抜けて多くアンティーク市場に流通していることからも証明されてきました。

 

圧倒的な信頼感が時代を超えて広まった結果、ロレックスは世界的にも圧倒的な知名度を誇る時計ブランドとなったのです。