「『英語公用語化』は突然降ってきた……ドメスティック社員たちの慟哭」(http://president.jp/articles/-/16036 )より。

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■英語の社内公用語化の「現場」で起きていること

グローバル化の影響で英語を社内公用語にする企業が珍しくなくなりましたが、実際問題、社内でどれくらい英語が使われるようになったのか? また、社員の英語学習への意識・レベルはどれくらい向上したのでしょうか?

◆社内公用語を英語にする目的とは?

そもそも日本企業にも関わらず、なぜ英語を社内公用語にするのでしょうか? それは、海外展開に積極的であること、そして各国での現地スタッフとのコミュニケーションを重視しているなどの理由が挙げられます。

例えば、大事な決定事項のある会議を行う場合、細かなニュアンスの違いで誤解が生まれることも考えられます。

「あの頼んでいた仕事、どう?(Have you finished making the document?)」

と聞かれたとして、作業の進捗状況を英語で正確に答えるのは意外と難しいです。大事な仕事ほど、細かな誤解が結果的に大きなミスを生みかねませんから、表現には神経を使わねばなりません。

「Almost done」(ほとんど終わったよ)
「I’m doing right now」(ちょうど今やってるよ)
「It’s WIP(Works In Progressの略)」(進行中です)
「Not started yet」(まだ未着手です)

など、返事の仕方はたくさんあります。こういった違い(ニュアンス)を意識しながら業務を進めるのは負担が大きそうです。時には「大事なことなので日本語で失礼します」とやむなく日本語で伝えるケースもあり、英語の公用語化実現には超えなければいけないハードルがいくつもあるのが現状と言えるでしょう。

しかし、それでも英語を使うのは、やはり海外からの売上なしには企業が成長戦略を語れなくなってきているという事情があるから。

逆に言ってしまえば、いっそのこと社内で使う言語を英語にする、とルールにすれば、外国人で英語と日本語の両方できる人が話し相手の際、どちらの言語で話せばいいか気を揉む必要がなくなります。日本人同士でも英語で話すことで、外国人スタッフにいちいち議事録を翻訳したり、別途説明したりする必要もなくなります。

また、会社としては、メールも会議も電話も、すべて英語に統一してしまえば、マネジメントの観点から言えばとても効率的です。そういう意味では、長い目で見た時の業務効率アップにもつながってくるでしょう。公用語を英語にすると踏み切るのは、やはり悪い話ではないように思えます。

英語公用語化ユニクロ社員はペラペラになったか?

ただ、先ほども少し触れたように、現場のスタッフの立場になって考えると、対応するのはなかなか骨の折れることです。日々の忙しい業務に加えて、英語でコミュニケーションを取れるようそれなりの準備をしなければいけないわけですから、負担は小さくありません。

◆英語公用語化「丸5年」でも、社員は「困っています」

実際に英語が公用語となることでどんな変化があったのか? 「ユニクロ」を世界展開しているファーストリテイリング(2012年3月に英語公用語化への移行を実施)の社員に聞いてみました。

【社員Tさん(20代男性)】

英語に対する意識は確かに上がりましたが、同じ部署の日本人同士は日本語で会話することがほとんどです。日本人同士で英語を使うことは、めったにありません。(会議などでは)頑張って英語を使いますが、日本語に比べると言いたいことが表現できず、困っています。

(社内の英語)研修などで学ぶ機会はあるのですが、業務をこなしてから勉強となると、正直、やる気も上がりきらないことも多いです。TOEICも受けていますが、仕事で使う英語だけでスコアアップはできないので、参考書を買って自習しています。これからは英語ができないと、昇進にも影響しそうですから、必死です。

【社員Aさん(30代女性)】

私は海外支社の人とメールでやり取りをすることが多く、その時は英語を主に使っています。ただし、直接会うわけではなく、メールで使う程度の英語が理解できればいいので、それほど苦労はしていません。メールなら、わからない英単語があっても辞書で調べて理解する時間がありますからね。

会社全体を見ると、公用語を英語にしても、部署によってその浸透度はかなり違いがあります。海外の支社や取引先と連絡をよく取る人は英語必須ですが、日本人同士だと会議をしても日本語で進めてしまうことがほとんどです。大人数であったり、上司が同席したりする会議であれば頑張って英語を使いますが、言いたいことの5割も言えないのが正直なところです。

他にも数人に聞きましたが、多くが似た内容の回答でした。国内にいて、日本人同士であれば日本語で話してしまう。まあ、それは仕方ありません。ただ、全社員を調査したわけではないですが、どうやら完全公用語化への道は険しいと言わざるをえません。

*編注:ジャーナリスト溝上憲文氏がユニクロの30代の管理職業務の女性に取材したところ、「目標のTOEIC700点をクリアするまでオンライン学習が義務づけられている」「文書の日英併記などの業務も加わり、生産性は落ちた」「国内の店舗従業員にとって日常業務での英語の必要性も感じず、忸怩たる思いで辞めた人もいる」といったコメントが返ってきたという(PRESIDENT 2015年9月14日号・数値などは取材当時のもの)

とはいえ、現状のまま(英語公用語に今ひとつ馴染めない感じ)でいい、とユニクロの社員たちが考えているわけではなさそうです。

業務が慢性的に忙しい中でも、英語力アップの時間を作ることを放棄せず、前向きに努力していきたいと願う声も聞かれました。会社に対して今以上に英語研修の機会を増やしてほしいという声や、自分自身で英会話スクールに通ったり自宅でTOEIC対策の勉強をしたりする社員は周囲にも多い、というのです。来るべき本格的な英語公用語化に備えようという気持ちの表れでしょうか。

■英語勉強するかしないかで悩むフェーズはとっくに過ぎた

非英語圏である日本人はグローバル化という観点から見ると、とても不利な立場にあります。世界では英語を母語ないし第二言語としている国が多くあります。たとえば、フィリピンをはじめ東南アジアの各国では、英語を使うことでシンガポールなど別の国で仕事を得ることができます。

お隣の韓国でも、国内大手メーカーに就職するためにはTOEICで高スコア(800点以上)を取らなければ、そもそもエントリーができないといわれています。また、ヨーロッパの各国は隣国の言語を話せる人が多い。フランス人なら、英語、スペイン語に堪能ということが珍しくないように。

言語の世界には、こんなジョークがあります。

「2カ国の言語を話す人はバイリンガル(bilingual)、
3カ国の言語を話す人はトリリンガル(trilingual)、
では1カ国の言語を話す人は?」

正解:アメリカ人

この場合、ふつうならmono=1つの、という意味なので、正解は「モノリンガル(monolingual)」となるのですが、これはアメリカ人は英語しか話さないという意味のジョークです。つまり、「アメリカの人は外国語を学ばない」という皮肉なのです。

これは言い換えれば、英語が世界のほぼどこでも通じるため、アメリカ人は第二言語を学ぶ必要がない、という意味です。つまり、世界的に見たら「英語を使える」ことは常識化しつつあるということ。となると、公用語が英語になっていくのは、グローバル企業を目指す企業に勤めている以上、もはや待ったなしなのかもしれません。

問題は、いかに乗り切るか。

英語の勉強をやるかやらないか、で悩むフェーズは、もうとっくに過ぎたのです。

( 「English Hacker」編集長 佐々木真=文)