通信業界の世界最大級のイベント「Mobile World Congress(MWC)2017」が、2月末から3月初めにかけてスペイン・バルセロナで開催されました。MWCというと、スマートフォンなどの新端末が発表されるイベントという印象が強いかもしれませんが、今では通信で “つながる”新しい世界のショーケースといった意味合いが強くなっています。もちろん、IoTもその大きなソリューションの1つ です。今回のレポートでは、MWCで見られたIoT関連の展示からトレンドを見ていきたいと思います。

テレビやインターネットのニュースでも話題になることが多いMWCは、GSMAという携帯通信事業者の業界団体が主催するイベントで、毎年2月から3月ころに開催されています。昨年のMWC 2016でもIoT関連の技術やソリューションの展示は数多くありましたが、今年のMWC 2017では一段と増えてきました。その理由の1つは、後で説明することにして、展示の様子からご紹介していきましょう。

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家庭内から人やモノの見守りまで、生活を支えるIoT

まずは、パーソナルな生活に関わるIoTソリューションの展示からチェックします。韓国の通信事業者であるSKテレコムのブースでは、パーソナル向けのIoTソリューションを複数展示していました。1つは家の見守りソリューションで、温度センサーなどの情報を外部から確認できるほか、近接センサーによって家に一定距離よりも接近する人物などがあった場合に自動的に写真を撮って メールで利用者やセキュリティ会社に通知するとの説明がありました。

低消費電力で広いエリアをカバーするLPWA (Low Power Wide Area)通信方式の1つ、LoRaWANを利用したサービスの展示も ありました。小型のGPS内蔵のタグ型端末を使って位置情報を確認できるサービスです。デモでは、幼稚園の送迎バスに端末を付けるだけで送迎バスの位置がスマートフォンなどから確認できるサービスへの応用や、持ち物にタグ型端末を付けることで紛失時の位置確認ができるサービスへの応用ができることを示しました。LoRaの利用により、LTEなどのモバイル通信方式よりも低コストでサービス提供が可能で、韓国では月額100円程度の低コストで利用できるサービスとして提供するという説明がありました。

LoRaWANの規格を定めるLoRa Allianceや、同様のLPWA方式であるSIGFOXを提供するSIGFOXも、MWCにブースを構えています。LoRaのブースには家庭から産業まで幅広い用途の様々な種類のセンサーにLoRa通信モジュールが組み込まれている例を展示していました。

SIGFOXのブースでは、ボタンを押すだけで商品購入などのサービスを受けられる簡易端末や、小さな太陽電池パネルで発電した電力だけで通信ができる省電力性能を示すデモもありました。こうした展示からは、国内ではようやくサービスが立ち上がってきた段階のLoRaやSIGFOXといったLPWAが、世界ではすでに様々な用途で実際に利用されていることが体感できます。

スマートフォン向けのシステムチップの最大手、クアルコムのブースでは、LTEベースの通信方式を採用IoT向けの端末規格「Cat-M1」「NB-IoT」に対応するモデムチップの展示がありました。Cat-M1やNB-IoTはLTEをベースにすることから「セルラーIoT」といった呼び方をすることもあります。LTEの通信方式を使って、低消費電力、長時間のバッテリーの持ちを実現する方式です。クアルコムのブースではCat-M1対応のモデムチップを2017年の早期に提供し、ソフトウエアアップデートでNB-IoT対応を行うとの説明がありました。

日本でもトイレのドアの開閉から空き状況をスマートフォンで確認するソリューションや、スマート電球のオン/オフで遠隔地の家族の見守りなどに役立てるソリューションが増えています。これらのソリューションにIoT向けのLTE通信チップが使えるようになると、クラウドなどとの通信にゲートウエイのような通信機器を使わずにセンサー単体でサービスを利用できるようになり、利便性が向上しそうです。

IoTを推進する通信モジュール大手のテリットのブースでは、Wi-FiやBluetooth、LoRa、既存のLTE端末を搭載した通信モジュールに加えて、開発が終わって市場調査段階に入ったというCat-M1、開発中のNB-IoTといったセルラーIoTのチップを備えた各種の通信モジュールがずらりと並んで展示されていました。テリットのブースでは、これからセルラーIoTのチップの価格が安くなっていくと、IoTの通信の主流になるのではないかという説明もありました。免許不要帯域で様々な電波が混在する環境で利用するLoRaやSIGFOXに比べて、免許帯域でセキュアな通信が可能な点もセルラーIoTのアピールポイントであり、今後は用途によって使い分けが進む可能性もあります。

 

通信事業者へのサービスと融合が進むIoT

実は、Cat-M1、NB-IoTのセルラーIoTの方式が2016年の半ばに3GPPという移動体通信方式の標準化団体で規格化されたことが、今年のMWCでIoTが一段と多く取り上げられるようになった1つの要因といえます。LPWAには前述のLoRaWANや、SIGFOXといった無線局免許が不要で利用できる通信帯域を利用する方式がありますが、Cat-M1やNB-IoTを使ったサービスはスマートフォンなどで使うLTEと同様に免許を持った通信事業者が提供するものです。IoTソリューションが通信事業者の新しいサービスとして具体的な方向性を見出してきたことから、今年のMWCではセルラーを中心にIoT関連の展示が増えてきたという一面があるのです。

Mobile World Congressの初日には、AT&T、KDDI、KPN、NTTドコモ、オレンジ、テレフォニカ、テレストラ、TELUS、ベライゾン・ワイヤレスといった世界の主だった通信事業者がCat-M1を早期に世界中に展開していくことに合意したというアナウンスがありました。技術の発展だけでなく、国際的なIoTサービスのスムーズな利用に向けて、通信事業者が動き出すことになったのです。

そうした状況を反映して、通信事業者のブースにもIoTソリューションの展示が多く見られるようになりました。ボーダフォンのブースでは、薬品の管理に重量センサーを使ったIoTを活用するソリューションや、旅行用のスーツケースにNB-IoTの通信モジュールを内蔵して空港などでの荷物の追跡を容易にするソリューションが展示されていました。

テレフォニカのブースでは、エリクソンと共同で開発したNB-IoTモジュールを付けたマンホール管理ソリューションのデモがありました。日本ではあまり考えられませんが、マンホールの蓋の盗難が多発する国や地域では、マンホールの蓋が予期せず動かされたときに通報するような仕組みが必要だとのことです。NB-IoTを使うことで、マンホールの蓋ように広域に散らばる社会インフラのIoT化を、容易に進められることがわかります。

通信事業者といえば、日本のNTTドコモのブースでも、新潟で実証実験を行っている農業のIoTソリューションが展示されて多くの来場者が説明を聞いていました。稲作の実証実験で、地上に設置したセンサーやドローンで撮影した画像データなどを使って人工知能(AI)で病害虫の発生状況の監視や収穫時期を予測するソリューションです。

日本では稲作が農業の代表的な作物ですが、ところ変わって欧米だとワインヤードにおいてIoTによるぶどうの生育管理や収穫予測といったソリューションが注目されるようです。ベライゾン・ワイヤレスのブースの展示や、エリクソンのブースにあったオーストラリアのテレストラとの共同展示では、ワインヤード管理のIoTソリューションが見られました。これまで情報化が難しかった農業のプロセスが、IoTの普及によって着実に情報化を始めています。生産効率を向上させるだけでなく、より付加価値の高い作物の生産へとIoTが農業の変化を促しているといえます。

今後のIoTを占う次世代移動通信方式「5G」

通信関連のイベントであるMWCでは、次世代移動通信方式の「5G」(第5世代移動体通信方式)に向けた取り組みも多くの展示やデモがありました。実は、この5GはIoTを強く意識した移動体通信方式なのです。

5Gでは、もちろん現行のLTEやLTE-Advancedといった通信方式を超える高速データ通信が要件に挙げられています。ピークレートで10Gbpsといいますから、NTTドコモがこの3月に一部地域で開始した国内最速の600Mbps超のサービスであっても足元にも及びません。一方で、IoTや様々なモノの通信を想定し、通信の遅延を抑えることや、LPWAと同様に超低消費電力で数多くの端末を収容できるようなネットワーク作りも要求されています。

今回のMWCでは、実際に電波を使って5Gの通信を実演する「ライブデモ」が多く行われていました。IoTに関連しそうなところでは、低遅延の性能をアピールするデモが注目されていました。産業用ロボットの制御や自動車の遠隔制御、遠隔医療診断などでは、ネットワークによる情報の伝達に遅れがあると、重大なトラブルが起こるリスクがあります。5Gでは、1ミリ秒といった超低遅延の性能が要件として挙げられており、実際にライブデモでは1ミリ秒から数ミリ秒といったネットワーク遅延の性能が得られることを示していました。例えばドイツテレコムでは、5Gの低遅延性能を活かしてタイムラグを生じることなくロボットの遠隔操作ができることを示すデモが行われていました。

また、筆者も実際に、エリクソンとテレフォニカのブースにあった5Gによる遠隔運転のデモを試してみました。遠隔地のカートに取り付けられたカメラによる3画面の4K映像を見ながら、シミュレーターのハンドルとアクセル、ブレーキを操作して運転したところ、遅延の影響を感じることはありませんでした。通信では数ミリ秒程度、システム全体で50ミリ秒程度の遅延とのことで、遠隔地にあるカートのセンサーから得られる振動の状況などもリアルに再現され、ほとんど実際に乗車して操作しているのと同じ感覚で運転できました。5Gの要件の1つである低遅延性能は、遠隔地の機器の操作や、離れた場所でのコラボレーションに実際に有効であることが、ライブデモを通して感じられました。

通信の技術や環境が進化することで、さらにIoTの適用範囲が広がり、利便性も増していく可能性があることを、2017年のMWCでは体感することができました。この流れはとどまることなく、来年のMWCまでにはさらに具体的なIoTのソリューションや事例が増えていくことを感じさせるイベントでした。

筆者:Naohisa Iwamoto (ITジャーナリスト)