過去作品もまじえて考察

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 「哭声 コクソン」(公開中)を手がけたナ・ホンジン監督のオールナイト上映がこのほど、東京・シネマート新宿で開催され、松江哲明監督、「映画秘宝」編集部の岡本敦史氏、映画ライターの山崎圭司氏がトークを繰り広げた。

 「チェイサー」「哀しき獣」に続くナ監督の最新作。平和な小村で、突如として村人が家族を殺す謎めいた事件が多発。警察官ジョング(クァク・ドウォン)は、村に住みついたよそ者の男(國村隼)が事件に関与しているとにらんで調査を開始するが、事態は村全体を巻き込んだ大事件に発展していく。

 松江監督は「過去の2作品ともすごく好きなんですが、最初に『哭声 コクソン』を見たときにまず思ったのは、“この人は前の2作で本領を発揮していなかったんだな”ということでした」と圧倒された様子。「それまでの2作を通じての印象は、韓国の実録犯罪系、韓国ノワールの中で犯罪者の気持ちを伝えてくれるヤバい映画を作るというものだったんですが、この映画を見た後で2作品を見直したら印象が全く変わってしまったんです。この人はもしかしてデビッド・リンチをやりたいのかなって。それでナ・ホンジンはこの後のキャリアをどうするんだろうと。『ツイン・ピークス』みたいにおかしな映画ばっかり作っていくのかなって想像してしまいます」と嬉々として語った。

 「チェイサー」「哀しき獣」「哭声 コクソン」の3作品における“人を殴る道具”に注目する松江監督。「『哭声 コクソン』で襲撃に行くための道具をトラックの荷台に詰め込むのに、チェーンソーとかハンマーはわかるけど、なんで牛の骨を入れるんだと(笑)。『哀しき獣』でも牛骨でボコボコにするというのがありましたけど、あれは画期的でいいですよね」と指摘した。

 岡本氏は「クリスチャンであるナ・ホンジンには宗教というはっきりとしたテーマがあって、今まではあまり見えなかったけど、『哭声 コクソン』ではっきり描かれたことで明確になりました」とナ監督の作風を考察。「この人は別に悪いことをしているわけじゃないのになんでこんな災難にあわないといけないのか、どうすれば救われるのかというのは敬けんであればあるほどなぜだと考えてしまうと思うんです。その挑戦が映画を撮るごとにどんどんエスカレートしていくのは、ウィリアム・ピーター・ブラッティ(『エクソシスト』原作者)に似てますよね。彼はそんな問いかけをし続けて自分を傷つけるような作品をずっと作ってきました」と述べた。

 見る者によって解釈が変わる物語が話題を呼んでいるが、「主人公のジョングをとりまく人たちの言ってることには惑わしがあって、言ってることは両極端でありながら1つであるとか、なかなかこしゃくだな」(山崎氏)、「見るたびに解釈がどんどん変わっていくんですよね。人の話を聞いているうちに気づきもあるかもしれない」(岡本氏)、「作り手として、自分たちの言うことをあまり信じてくれるなよという思いがあるんです。僕が好きなのは、作り手もよく分からないけど観客を通してコミュニケートしたいという狙いが伝わる本作のような作品」(松江監督)とナ監督が観客に向けた“挑戦”を歓迎した。