DJ和(撮影=三橋優美子)

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 DJ和が、2月8日に『俺のラブソング -BE ESQUIRE.- mixed by DJ和』をリリースした。同作は、90年代を中心とするラブソングの名曲を巧みにつないだノンストップミックス作品。収録曲32曲のシングルCD総売上が3,600万枚を超える、ヒット曲ばかりの一枚となっている。これまでJ-POPのノンストップミックス作品(『J-ポッパー伝説』『A GIRL↑↑』)をリリースしてきたDJ和は、本作をどんなコンセプトで作り上げたのか。今回のインタビューの聞き手は、音楽ブログ「レジーのブログ」で様々なアーティスト/作品の批評を発信するレジー氏。世代の近い2人の“90年代トーク”を交えながら、90年代Jポップの特徴と、その現代的な意義について、じっくりと議論してもらった。(編集部)

「リアルに10年ぶりに聴いた!みたいな曲を入れたい」

ーー僕は81年生まれなので、『俺のラブソング -BE ESQUIRE.- mixed by DJ和』の曲目を見るだけでなんだか首のあたりがぞわぞわっとするんですけど……

DJ和:(笑)。

ーー90年代、つまりCDがバカ売れしていた時代のヒット曲を並べた今回の作品について、まずはリリースの背景について教えてください。以前『俺の応援歌 -BE ESQUIRE.- mixed by DJ和』という同じ時代の楽曲を使ったミックスCDもリリースされていますが、そのあたりとも関係があるんでしょうか?

DJ和:そうですね、『俺の応援歌 -BE ESQUIRE.-』の反響というか手ごたえを受けて、という部分はかなりあります。そもそもシリーズ化するつもりはなかったんですが、「懐かしめのJポップをまとめた作品って喜ばれるんだな」というのをすごく感じたんですよね。

ーーあの時代の音楽はいまだにテレビで流れることも多いですが、やっぱりリアクションが大きいんですね。

DJ和:日本の音楽のど真ん中、といえばああいう音楽なんだなというのを実感しました。

ーー収録されている楽曲の時代に統一感があることで、実際に聴く層・喜ぶ層もある程度は想定できますよね。どういった人に向けて選曲をする、というようなテーマは事前にあったんですか?

DJ和:今回の作品は、「結婚されている40代くらいのファミリー」「休日に車で聴く」「お父さんが運転していてお母さんが助手席、子どもは後ろ」「前の2人が歌ったり昔の思い出を話したりしつつ、子どもも知っている曲には反応して会話が生まれる」というようなシーンをイメージしながら選曲を進めました。自分が社内で働いていることもあって(注:DJとして活動する傍らでソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズの社員としても働いている)、僕のCDが車で聴かれることが多いというのは何となくわかっていたんです。そういう生活スタイルの中に馴染んで、かつ家族のコミュニケーションにつながるようなものになったらいいなと。

ーーなるほど。一方で、普段和さんがDJの現場で向き合うのはもっと若い層が多いですよね。そのあたりの方々のことは何かしら意識されていましたか?

DJ和:メインで考えていたのは今話したような人たちですが、自分がDJをすることの多い若い人たち、10代や20代の人にとっても「こういう曲をつなぐことの面白さ」みたいなものを提案したいという気持ちはありました。2010年代のロックとか中心にDJをする合間に今作に入っているような曲を流すと、意外と反応があったりするんですよね。そういうときにはこの時代の曲の力みたいなものを感じます。

ーー和さんは86年生まれとのことですが、今回収録されているような楽曲はご自身のルーツとして存在するものなんでしょうか。

DJ和:自分の家が「ザ・Jポップ家庭」というか、テレビのゴールデンタイムにやっている音楽番組がずっと流れているような環境で育ったんですよね。だから、「CDを買いたい」とか「かっこいい音楽を聴いて周りから注目されたい」とかそういうことを考える前からずっとヒット曲と一緒に生活してきたと思っています。自分のルーツと言ったらやっぱりこの時期の日本の音楽になりますね。

ーー「ルーツ」という点では僕もまさにそうで、自分で初めて買ったCDが今作に収録されているGAOの「サヨナラ」なんです。

DJ和:えっ!(笑)。ほんとですか!

ーーリリースが92年で僕は小学5年生だったんですが、このくらいの時期から音楽を聴き始めたんです。この年にリリースされた小野正利の「You're the Only・・・」も、当時ラジオで頻繁にかかっていたのでとても思い入れがあります。

DJ和:なるほど。

ーーこの2曲って、僕や同世代の人にとってはものすごく懐かしい曲なんですが、今では話題になることは少ないですよね。米米CLUBやKANだけでなく、こういう「当時かなり売れたのに今ではあまり言及されない人たち」をピックアップしていることに何かしらの意図があるかお聞きしたいです。

DJ和:今回のような世代を絞った作品をつくる時は、リアルに10年ぶりに聴いた! みたいな曲を入れたいと思っているんですよね。ずっと忘れていたけど、聴いた瞬間にその曲のことを思い出して「うおー! 懐かしい!!」ってなるような……(笑)。自分から検索したりすることはなかなかないし今ではCMソングに使われることもあまりないけど、特定の世代なら絶対みんな聴いたことのある曲。そんな曲は狙って収録しています。そういう音楽と期せずして再会できるのがこういうCDの良さだと思っているので。

ーーなるほど。さっきの車で聴かれるシチュエーションだと、そういう曲があったら盛り上がりますよね。

DJ和:そうですね。「超懐かしい! 知ってる?」って会話のきっかけになっていたら嬉しいです。

ーーそういった曲とは対照的な「Jポップ・クラシック」とも言うべき楽曲もたくさん収録されています。冒頭やラストにはドラマ主題歌として大ヒットした曲が並んでいますね。

DJ和:90年代のヒット曲にドラマの影響は大きいですよね。音楽番組と同じようにドラマもよく見る家だったので、ドラマの主題歌は生活に近いところにあるなあと子どもながらに思っていました。当時はまだ小学生低学年とかだったので、見ていてもストーリーはよくわからなかったんですけど(笑)。タイアップでヒットした曲は聴いている人にとっていろいろな絵が浮かびやすいと思うので、作品の最初や最後といった重要なパートに自然と配置されました。

「日本でヒットする音楽には、「歌謡」っていう視点がすごく大事」

ーー今作は90年代の楽曲が主体になっていますが、和さんにとって「90年代の音楽」と言われてまずイメージするのはどのようなものですか?

DJ和:自分の中では「ストレートな音楽」というイメージがすごくあります。深く考えなくても好きになれる、直感的なものが多いというか……売れる音楽って、歌詞も大事だと思うんですけど、やっぱりメロディなのかなと思っていて。そう考えたときに、あの時代の音楽はメロディがキャッチーすぎますよね。「歌詞は覚えてなくても鼻歌で歌える」みたいな感じって音楽がエンターテインメントになる時にすごく重要だと思うんですけど、そういう要件を兼ね備えていたのが90年代の音楽なんじゃないかなと。あとは、海の真ん中で風がバーンみたいなMVとか。

ーーT.M.Revolutionですね。

DJ和:はい。あとは「Winter, again」でGLAYのTERUさんが吹雪の中で歌っていたりとか、視覚的にも直感に訴えかけるものが多かったように思います。

ーー今お話しいただいた「ストレート」という印象はよくわかります。T.M.RevolutionやGLAYの時代に入るとまた少し趣が違いますが、90年代の前半だとまだ「Jポップ」という言葉自体もそこまで広がっていなかったですし、どちらかと言えば演歌や歌謡曲の延長線上にある音楽だったような気もするんですよね。だからサウンドとしての広がりはそこまでない一方で、すべてをメロディと歌詞で持っていってしまうような迫力があるというか。その辺が今の音楽とは少し違うように思います。

DJ和:今は「ロック」と一口に言っても「どのロック?」ってなるくらい細分化されていますし、全然違いますよね……ただ、サウンドとしていろいろなものが出てきても、やっぱり日本でヒットする音楽には今おっしゃっていた「歌謡」っていう視点がすごく大事だと思うんですよね。星野源さんの歌にもすごく歌謡性があると僕は感じるし、「Jポップ」というもの自体がビートのついた歌謡曲っていう側面もあると思っています。

ーー「ビート」と「歌謡」のバランスの変遷がJポップの歴史ということなのかもしれないですね。今はビートの作り方がどんどん多様になっている。

DJ和:そうですね。でもやっぱり日本の中だけで見ると、売れるものに歌謡性はマストですよね。さっき自分の家がいわゆるJポップが好きな家庭だったという話をしましたけど、「自分の母親に届く音楽ってなんだろう?」っていうことをいつも考えるんです。たとえば去年だと「恋」と「前前前世」はうちの母親でも知っていると思うんですけど、どちらもサウンドがかっこいいだけじゃなくて、ベースには歌謡性、言い換えれば日本人が遺伝子レベルで好きなメロディの良さみたいなものがあるんじゃないのかな。逆にそこを捨てると大ヒットにはならない気がします。

ーー去年は今挙げていただいたようないろいろなタイプのヒット曲が出て、音楽シーン全体が再び元気になっているような雰囲気がありましたよね。その盛り上がりの一つの側面として、「90年代ブーム」とも言うべき動きがあったように思いました。宇多田ヒカルやTHE YELLOW MONKEYが久々の作品を出したり、あとこれは少し前からですがインターネット上では渋谷系に関する議論が盛り上がったり。ただ、自分の観測範囲だと、今回の和さんの作品に登場するような楽曲って、最近の「90年代ブーム」的な話の中にはほぼ出てこないんですよね。

DJ和:ああ、確かに。

ーー渋谷系のあといきなり「98世代」が出てきた、くらいの極端な歴史観で語られる話もあったりして(笑)、結構違和感を覚えることも多いんです。そんな中で和さんのCDを聴かせていただいて、個人的には「正しい90年代がここにある!」と思いました。

DJ和:なるほど(笑)。自分の印象としては、最近よく言われる「90年代の音楽は良かった」というような話の多くはあの時代の一番尖っていた部分を取り上げているものだと感じています。今音楽に関わっている人がそういうものをピックアップしていて、そこに説得力があるからそんな流れになっているのかなと……たとえば渋谷系の音楽はかっこいいし、それが一つの文化だったのは間違いないですけど、時代の真ん中にいたわけではなかったよなとは思います。

ーーそれこそ和さんのお母さんはその時代を生きていたけど、もしかしたらご存じないかもしれない。

DJ和:かろうじて「今夜はブギー・バック」は知ってるかも、くらいの感じでしょうね(笑)。90年代という時代の真ん中には今回選曲したような楽曲があって、それを本当にたくさんの人が聴いていて、そういうものがあったからこそそこから少し外れたところにおしゃれでかっこいい音楽がたくさんあった、ということなんだと思います。だから『俺のラブソング -BE ESQUIRE.- mixed by DJ和』に入っているようなミリオンセラーの曲と渋谷系の音楽、両側があってこその90年代ということなんじゃないでしょうか。

ーーともすれば「尖っている」ものを取り扱う方がかっこいいと思われる風潮もあるように感じますが、それでも今回選曲したような楽曲にこだわる理由があれば教えてください。

DJ和:確かにベタな曲をかけ続けるというのはDJとしては評価されないかもしれないですけど……でも、こっち側の音楽を聴いていた人たちのボリュームはめちゃくちゃ多いぞ! って思うんですよね。その人たちはもしかしたら今はクラブやフェスの会場には行っていないかもしれないんですけど、そういう人たちを巻き込むことができたら音楽を聴く人って一気に増えるじゃないですか。「今音楽が好きな人」だけではなくて、かつてこういう音楽が好きだった層のことも忘れちゃいけない、そこに向けて届けたい、という気持ちでやっています。

「日本の音楽を好きなDJがやるべき仕事」

ーー和さんは以前ヒップホップのDJとしても活動されていたとのことですが、そこに至るまではどういったリスナー体験を辿っているんでしょうか。

DJ和:小学生の頃からJポップが好きだったんですけど、中学生になってからはその中でもダンスとかR&Bっぽいものを特に聴くようになりました。前から好きだったSPEEDの島袋寛子(hiro)さんのソロとか、あとはCHEMISTRY、DA PUMPなんかも追っていましたね。そういう好みと多少は関係あったと思うんですけど、高校に入ってからは海外のR&Bやヒップホップに流れていきました。EMINEM、50 Centあたりを聴いて「洋楽かっこいい!」みたいな時代に突入していくんですけど……DJをやろうと思ったのは消去法です(笑)。ブラックミュージックを聴いているとダンサー、ラッパー、DJ、どれもかっこよく見えてくるんですけど、人前で踊るなんて無理、喋るのも苦手、でも後ろの方で音楽かけるならできそうっていう考えに至ったんですよね。それでDJに注目している中でその魅力に気づきました。

ーー「洋楽かっこいい!」のタイミングで「Jポップだせー」みたいなスタンスになる人もわりといるように思うんですが、そういうプロセスはなかったですか? 今の活動スタイルと当時のリスナーとしての変遷を照らし合わせると、偏見なくいろいろな音楽を聴いているなあという印象を受けるのですが。

DJ和:そういうのは本当になかったですね。高校のときは単に洋楽を多く聴いていたというだけで、Jポップがださいとかそういうことは考えていなかったです。もしかしたら、そういう「海外が偉い」みたいなことを思わなくなってきた最初の方の世代なのかもしれないですね。大学に入ってからはヒップホップを聴きつつ、ブックオフでJポップの8センチシングルをたくさん買ったりしていましたよ。

ーーわかりました。ここまで僕も和さんも「Jポップ」という言葉を特に注釈なく使ってきましたが、この先「Jポップ」というものがどのようになっていくのか、という部分で何かしら展望はありますか?

DJ和:個人的には「Jポップ」っていう単語が指し示す概念を再構築したいなと思っているんですよね。みんなが何となく知っていて世間の真ん中にある音楽のことを「Jポップ」と呼んできましたけど、そもそも最近はそこに含まれないものが多いと感じています。「Jポップ」というよりは「日本のロック」だし、「アイドル」だし、「アニソン」だし……で、それぞれのジャンルのメディアやチャートが存在して、その中でも「AKB48とそれ以外」みたいにどんどん細分化されていっているのが今の状況ですよね。さらにおすすめプレイリストやYouTubeの関連動画があって、その中から自分の好きなものだけをひたすら選んでいく。そういう状況が加速していく中で、「みんなが聴く音楽」ってなんだろう? ということをちゃんと考えていきたいと思っています。

ーーまさにそういうたこつぼ化は進んでいる印象がありますし、メディア環境的には今後もこの傾向は続きそうですよね。たぶんそういう状況が顕在化する前に成立したのが90年代の「みんなが知っている音楽=Jポップ」というものだと思うんですが、一方で「みんながどう思うか知らないけど、自分にとってものすごく好きなものだけがどんどん出てくる」という状況は中にいる人たちからすると素晴らしい環境ですよね。

DJ和:そうですね、楽しくて仕方がないと思います。

ーー「個々に最適化されていくのって最高じゃん、何が悪いの?」というような態度はすでにいろいろなリスナーから見え隠れしているように感じますが、そこで改めて「Jポップ」という「みんなが聴く音楽」のことを考えたいと和さんが思う理由はありますか。

DJ和:単純に「みんなが知っていて、その話題でつながれる音楽」を昔から聴いて育ってきてそういうものが好きだから、というのが大きいんですけど……ジャンルが細かく分かれてどんどんコアになっていくと、一つ一つの固まり自体の熱量が上がる一方で周りからは入りづらくなっていくような気がするんですよね。それでそこにいる人たちが年をとったら卒業していなくなって、でも新しい人は入ってこない、結果音楽を聴く人が全然いなくなってしまう、っていう最悪のシナリオが起こらないとも限らないなと。独自のもの、エッジの効いたものをやるのはかっこいいかもしれないけど、そういうものばかりになってしまったら自分が育ったような家庭には音楽が届かなくなってしまうかもしれない。そういう危惧みたいなものは強く感じていて、だからこそ「みんなが知っているもの」「誰でも聴けるもの」にこだわっている部分はありますね。特にDJって存在は尖ったものを追求しがちだからこそ、僕はその真逆にある間口の広いものを担当したいなと。そこを経由してコアな場所に行ってもらって全然かまわないので、音楽への最初の取っ掛かりや思い出すきっかけを自分が作れたらいいなと思っています。

ーー和さんのトライは、音楽への取っ掛かりと同時にDJへの取っ掛かりという役割も果たせそうですよね。

DJ和:そうですね。DJは若者向けのものじゃない、上の世代の人も楽しんでいいものなんだ、ということはあきらめずに伝えていきたいと思っています。以前サービスエリアでDJをして自分のCDを売ったことがあるんですけど、オールナイトじゃなくて日中とか、クラブじゃなくて屋外とか、そういう場面で「DJってこういうことをやるんだ」というのを見せたいです。「ピアノがうまい」とか「ドラムがうまい」とかっていうのは普通の人が見ても何となくわかると思いますけど、「DJがうまい」というのがどういうことか世の中的には浸透していないと思うんです。そういう状況も変えていきたいですし、有名な曲がどんどんつながっていく今回のCDは「DJが何をやっているか」ということの理解を促進する内容になっているんじゃないかなと。「わかりやすい曲をわかりやすくつなげる」というのは見る人が見れば邪道に思うかもしれませんが、僕はこれこそ日本の音楽を好きなDJがやるべき仕事だと思っています。

(取材・文=レジー)