フランス大統領選(4月23日と5月7日の2回投票)は、ここに来て、右派でも左派でもない政治グループ「前進!」のリーダー、エマニュエル・マクロン前経済相の支持率が上がってきた。

 右派も左派も公認候補はパッとしない。また、これまで支持率トップの極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首が大統領になることを、「フランス共和国」の名にかけて阻止しようという動きも強まってきた。マクロン氏は「漁夫の利」を得ることができるだろうか。

往生際の悪さで支持を失うフィヨン元首相

 野党最大の右派政党「共和党(LR)」と中道右派政党「民主独立連合(UDI)」の公認候補、フランソワ・フィヨン元首相は、夫人と2人の子供を「議員助手」としてカラ雇用し、国庫から給与を支払った容疑で、起訴を前提とした本格的取り調べを受けることが決まった。

 フィヨン氏は、夫人らは実際に働いていると主張し、「自分は無罪」であるから候補を取り下げないと宣言。果敢にキャンペーンを続けている。

 だが、LR内からも批判の声が出てきている。1月25日のテレビ会見で「本格的取り調べの開始が決まったら候補を降りる」と宣言したにもかかわらず候補者の座に座り続けている往生際の悪さがマイナス要因となり、キャンペーンを手伝ってきたLRの大物議員の一部も離脱した。

右派でも左派でもマクロン支持者が急増中

 一方、支持者を増やしているのがマクロン氏だ。

 3月中旬には、アラン・ジュペ元首相を支持してきた若者グループ100人が「マクロン支持」を表明し、マクロンのキャンペーンを手伝うことになった。ジュペ元首相は、LRと中道右派の候補を決める2016年末の予備選でフィヨン氏に敗れている。

 マクロンの公約は、対テロなどの治安や財政政策などでジュペ氏の中道右派的な考えに近い。何よりも「ルペン氏に勝てそうなのは、今のところマクロン氏しかいない」との理由から、若者グループの支持を得た。

 右派を支持する若者たちの間でマクロンへの共鳴者は多い。ジャック・シラク元大統領の孫、マルタン・レイ=シラク氏は「前進!」の発足直後以来のメンバーである。シラク政権時代の閣僚の中にもマクロン支持者がいる。今後もLR議員や支持者からマクロン支持に転向する者が出てきそうだ。

 与党の社会党内では、1月末の予備選で公認候補に選出されたブノワ・アモン支持派とマクロン支持派に割れている。前パリ市長のベルトラン・ドラノエ氏は「ルペンに勝てるのはマクロンだけ」という理由でマクロン氏を支持している。アモン氏の公約が「ベーシックインカム」の導入など、「過激」(リヨン市長のジェラール・コロンブ氏)であることも、マクロン支持者を増やす要因となっている。

 フランソワ・オランド大統領が誰を支持するかは不明だが、今後の身の振り方を考えると勝利の可能性のあるマクロンに賭けるのではないかと見られている。オランド氏は2012年に大統領に就任すると、ロッシルド銀行のナンバー2だったマクロン氏をエリザ宮の事務局長に引き抜いた。そして2014年8月には、第2次マニュエル・ヴァルス内閣の経済・産業・デジタル大臣に抜擢した。オランド氏はマクロン氏のいわば政治の父である。

 従来は社会党支持者だった実業家、ピエール・ベルジェ氏も、マクロン支持を表明した。ベルジェ氏は「ル・モンド」紙、週刊誌「ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」の大株主だ。編集には口を出さないと言明しているが、影響力がないとは言えない。

マクロン氏を襲うスキャンダル攻撃

 3月5日に調査会社「Ifof-Fiducial」が発表した世論調査(大統領選の1回目投票の支持率)によると、ルペン氏は前回調査より0.5%増の26.5%でトップ、マクロン氏は25.5%と伯仲している。決選投票の支持率では、マクロン氏が61.5%に対し、ルペン氏は38.5%だ。

 選挙戦終盤に突入すると、マクロン氏に対するネガティブキャンペーンが増えていきそうだ。例えば、同性愛者説が囁かれたり(本人は大集会で否定した)、LRの広報はマクロン氏が「元銀行家の金持ち」であることを強調する反ユダヤ主義的な風刺漫画を発表したりするなど、風当たりが強まっている。

 フィヨン氏のカラ雇用疑惑をすっぱ抜いた風刺週刊紙「カナール・アンシャネ」は、3月15日発売号で、マクロン氏が経済相だった時代の公金流用疑惑を報じた。2016年1月にマクロン氏が米ラスベガスを視察し、フランスの技術を紹介するイベントを開催した。その際、経済省がイベント運営会社に38万1759ユーロを支払ったというのだ。イベント会社は、マクロン氏の大統領選キャンペーンを手伝っている大手広告会社だという。

 ルペン氏とマクロン氏の一騎打ちの様相を呈してきた大統領選。「フランス共和国」の良心がマクロン氏を勝たせるのか、それとも、ルペン氏がトランプ米大統領のように、あれよあれよという間に当選するのか、あるいはフィヨン氏がスキャンダルを跳ねのけて最後に笑うのか──? 第1回目の投票はいよいよ1カ月後である。

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筆者:山口 昌子