得点型のサービスを構築しようとすると、さまざまな壁に突き当たる(写真はイメージ)


 多くのサービス企業が、サービス向上の取り組みのステップアップに挑戦しています。

 そうした企業の多くは、これまでお客様の不満やクレームに着目して、失点をなくす取り組みに終始していました。もちろん、失点をなくす努力は欠かせません。しかし、失点の少ないサービスであることはお客様にとってみれば当たり前です。そこで最近は、「失点の少ないサービス」から「得点の多いサービス」へのステップアップに熱心な企業が増えています。

 ところが、得点の多いサービスにステップアップしようとしても、「一体、何から手をつけたら良いのか分からない」という声をよくいただきます。

 ★また、いざステップアップに着手しても、さまざまな問題にぶつかります。★

 例えば、提供者側の都合による戦略論や目標管理でお客様にサービスを押し付けてしまったり、現場がそれで疲弊してしまっていることがよくあります。

 逆に「おもてなし」の解釈が行き過ぎてしまい、お客様に喜んでいただくために従業員や事業に犠牲を強いていることもあります。

 また、従業員の働き方の改善のために一方的にサービスの一部をやめてしまったりするなど、顧客や事業成長を犠牲にしかねないケースも増えています。

 目に見えないサービスを、★お客様、従業員、事業者の三者が価値を実感できるように磨き上げていくことは、★思った以上に難しいものなのです。

サービス向上の取り組みに立ち塞がる壁

 これまでサービス改革の専門家として、サービスに関する悩みや課題に触れているうちに、サービス向上の取り組みにはいくつかの壁があることが分かりました。★どのような壁なのか、具体的に見ていきましょう。★

【建前の壁】

 サービスが本業だという意識が薄いと、経営者が「サービス改革だ」「顧客志向だ」とメッセージを出したところで、現場は「建前で言っているだけだ」ととらえてしまい、取り組みが進みません。

 サービスの価値を向上させて競争力を強化しようとしても、当のサービス事業者の「おまけ」意識が壁をつくってしまっていることは意外に多いものです。サービスを自分たちの本業だととらえているかどうかで、大きな差がついてしまいます。

【闇雲の壁】

 とにかく取り組みを始めなければと思っていても何から手を付けたらいいか分からないため、現場や個人任せの取り組みを進めてしまう企業が目につきます。現場も必死に頑張るのですが、こういった闇雲な取り組みでは活動が前進しません。

【お客様不在の壁】

 多くのサービスは、「いいサービスは喜ばれるに決まっている」と思い込んで、勝手につくったサービスを一方的にお客様に押しつけてしまっています。お客様不在でつくられたサービスでは、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と言われかねません。提供者目線で考えていては、何をやってもお客様に響かないのは当然です。

【実行の壁】

 きれいな活動プランが描けても、それを実行できる人材や組織が育っていなければ絵に描いた餅に過ぎません。しかし人材や組織の育成はOJT(On the Job Training)に頼り切ってしまっていることが多いものです。「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」といった、経験だけに頼った育成では時間がかかり、個人差も生まれてしまいます。このような現場まかせの育成では、サービスを組織的に高めることはできません。

【継続の壁】

 活動が立ち上がった当初はとても盛り上がるのですが、しばらくすると忙しさに負けてモチベーションが低下してしまい、活動が続けられなくなってしまうことがよくあります。何度も活動が立ち上がっては消えていくという経験を重ねていると、「今回もどうせ成果が出ないのでは」「長続きしないのでは」と思い込むようになってしまいます。「継続は力なり」という言葉もあるように、「継続を力に変える」取り組みにしていく必要があります。

壁を乗り越えるためのポイント

 取り組みの内容や進み具合よって、ぶつかる壁の種類は変化します。しかもこれらの壁はそれぞれが絡み合っているため、壁を乗り越えるのは容易ではありません。そこで、この壁を乗り越えるためのヒントになればという思いで当連載の執筆をさせていただきました。

 これまで様々なメッセージをお伝えしてきましたが、要約すると下記のポイントに整理することができます。

「事前期待を中心に据える」
「進むべき道を示すサービスシナリオを描く」
「サービスプロセスを組み立てる」
「サービス人材と組織を育成する」
「価値ある成果を評価して実感する」。

 そして何より、この取り組みを進めている本人自身が、熱い思いを胸に抱いているかどうか、その思いを仲間にも伝搬させることができるかどうかがとても大切だと思います。

 当連載は今回で一区切りとなります。当連載の内容が、サービス向上に熱心に取り組む方々の思いを遂げるために少しでもお役に立てれば幸いです。

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筆者:松井 拓己