映画に対する熱い思いを語った杉作J太郎

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 19日、マンガ家、タレント、映画監督などマルチな才能を発揮する杉作J太郎が、およそ9年の歳月をかけて完成させた映画『チョコレート・デリンジャー』のプレミア上映が千葉市生涯学習センターで開催中の「第9回ちば映画祭」前夜祭内で実施された。“幻の映画”だった同作がついにそのベールを脱いだ。

 「不条理探偵ギャグの金字塔」と呼ばれた吾妻ひでおの同名コミックを鬼才・杉作のメガホンで映画化した本作。2007年12月にクランクインして以来、資金面、撮影素材の互換性といった問題が次々と襲いかかったことで制作は長期化。さらには「吾妻ひでおらしさ」を追求する杉作のこだわりなどもあり、制作は混迷を極め、いつしか9年以上もの月日が流れた。しかしその間に本作主演を務めるグラビアアイドル松本さゆきが結婚・出産を発表するなど、9年という歳月は決して短いものではなかったようだ。

 探偵でありながら銃(レミントン ダバルバレル デリンジャー)を所持する私立探偵チョコ(松本)が、サラマンダー警察署内で勝手に私立探偵業を開始する……という不条理劇となる本作。原作者の吾妻が「私は何も期待してませんので好きに作ってね」と語った通り、本筋の物語が展開していると思ったら突如、杉作監督らによる演出風景、NGカット、シュールな寸劇、さらには杉作監督がアポなしでアイドルへの出演交渉に挑むシーンなどがところどころで突如織り込まれる。ドキュメントとフィクションの境目があいまいで、その一筋縄ではいかない、自由で奔放な作品世界に、観客も思わずあ然、興奮などが入り交じった不思議な感覚に包まれていたようだ。

 そして上映後の舞台あいさつには音楽担当の北村早樹子、助監督の土屋大樹と共に杉作監督も来場。観客と一緒に映画を観ていた北村は「こんな映画は観た事がない。なんと言うんでしょうか。スタートから終わりまで無駄な瞬間が一秒もないんだぜと感じました。ああ、ボンヤリとしたこと言って恥ずかしいわね」とその思いをうまく表せずにもどかしげな様子。

 当初の上映時間も「90分だ」「120分だ」「DEATH & REBIRTHで前後編だ!」と二転三転していったというが、この日の上映の数日前にようやく完成させたばかり。次なる上映は4月22日から、杉作の故郷である松山のシネマルナティックで行われるとのことだが、しかしこの日の上映版で織り込めなかった素材がまだまだあるとのこと。そこで今後もさらなる追加、編集が加えられ、作品はさらなる進化を遂げることを宣言。つまりこの日の「千葉バージョン」はこの日限りしか観られない特別版となるのだという。

 「ただ、原作をご覧になった方はお分かりだと思うんですが、これが一番吾妻さんに近い感じかもしれない」と切り出した杉作は、「原作も未完ですし、最後までキッチリとキレイに終わっているわけではないですから。吾妻さんのマンガって不思議なライブ感というか、ハプニング性があるんですよ。だからもしかしたら今日観たバージョンが一番良いのかもしれない。そう考えるとゾッとしますけどね」と吾妻作品の魅力を力説する杉作に対して、北村が「でもこれだけひとつの作品に情熱をかける人もなかなかいないんじゃない」と杉作にエールを送るひと幕も。

 その後、ひとりの観客から「映画って自由でいいんですね」と感想が飛び出すと会場は拍手で同意。「そうなんです!」と興奮気味に返答した杉作は、「この映画は現実と空想とNG集が同時に進行していくんですが、例えばジャッキー・チェンの映画でNG集を途中で見せると怒られるかもしれない。でも僕ら『男の墓場プロダクション』はヤケクソの経営状態でやっている完全な独立組織。そういうグループがやらなかったら、誰がやるんですか!」と熱い思いを観客にぶつけた。(取材・文:壬生智裕)

「第9回ちば映画祭」は3月20日まで千葉市生涯学習センターで開催中