大宮戦で今季初ゴールを挙げたウイルソン。さらなるゴール量産が期待されるストライカーだ。写真:徳原隆元

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 甲府の新エース・ウイルソンの今季初ゴールはやや難産だった。4節・大宮戦の70分、彼がPKスポットに立った時、山梨中銀スタジアムには”微妙な空気”が漂っていた。なぜなら彼は2節・鹿島戦の後半ロスタイムに”決めれば同点”というPKをクォン・スンテに止められているからだ。多くの甲府サポーターが、2週間前の悪夢を思い出していたはずだ。

【写真】ウイルソンのPK弾で中銀スタも歓喜!
 
 ウイルソンがPKを蹴ることは、チームオーダーとしてあらかじめ決まっていた。ただキャプテンの山本英臣はさり気ない”アシスト”をしている。彼はボールを手にウイルソンへ歩み寄り、こんな意図を伝えたという。
 
「鹿島戦の時に僕が後ろから見ていて思ったのは、ボールを置くのが早かったこと。相手の選手交代とかもあって、待つ時間があった。ボールをセットするのはもう少しゆっくりでいいと。それでも少し早めにセットしていましたけれど、自分のタイミングで蹴ってほしかった。そういう声はかけました」(山本)
 
 通訳の入らない会話で、どこまで山本の意図が伝わっていたかは分からない。とはいえ少なくとも山本の「ボアソルチ」という幸運を願うポルトガル語などから、ウイルソンに”思いやり”が伝わっていた。「自分もモチベーションが上がった」とウイルソンは振り返る。
 
 しかし大宮戦のウイルソンは「持っていない」プレーをしていた。61分に田中佑昌の決定的なクロスを受けたものの、シュートはGK加藤順大の正面へ。64分の決定的な飛び出しも、ぎりぎりでDFの足がボールに届いてしまった。今季の4試合を振り返ると、チャンスをモノにするという部分で、まだ物足りなさもある。
 
 甲府ではFWに求められる仕事が多い。まずボールを運ぶ段階からFWが絡まないとそもそもチャンスが生まれない。前線からのチェイシングや、パスを引き出すフリーランニングに労力を割かなければ、試合の釣り合いが取れない。ゴール前の”仕上げ”に力を溜めておけないクラブ事情がある。
 
 ただ彼の動き出しがあるから、DF陣はプレスを受ける前に攻撃のスイッチを入れられる。ボールを収めて不用意な奪われ方をしない判断力があるから、相手のカウンターを減らすことができる。ウイルソンはそういった試合のバランスを整える土台作りの貢献が大きい。そこが大宮戦の勝利はもちろん、G大阪や鹿島との善戦を下支えしていた。
 彼と2トップを組む堀米勇輝は「本当にすごく偉大な選手」という表現で、ウイルソンを称賛する。そしてウイルソンの強みをこう説明する。
「動き出しが本当に速くて、自分の目に入ってくる。カウンターになった時に、決定的なパス一本を出したい。その一本を逃さないようにしたい。ジャストでウイルソンに出せば、決めてくれる力がある」(堀米)
 
 21日に32歳の誕生日を迎え、今季は来日して6年目を迎えるウイルソンには大人の成熟と、周囲の日本人選手への発信力がある。堀米も「普段からコミュニケーションを取ってくれて、自分の中では手応えを感じている。ウイルソンと組むことで自信がついている」とその好影響を口にする。ピッチ内での動きを見ても、ウイルソンの”合わせやすさ”を感じることは多い。
 
 一方でウイルソンを活かすという部分に関しては、まだこれからだ。「もっともっとウイルソンに気持ちよくプレーしてもらうために、自分がもっと引き出していかないといけない」と堀米が述べるように、彼の動き出しを活かす精度、連係がチーム内ではまだ十分に深まっていない。ただそこは甲府の伸びしろとして、さらなる進化が期待できる前向きな課題といっていい。「ウイルソン効果」はすでに出ているし、攻撃面ではまだ大きな可能性を秘めている。
 
取材・文:大島和人(球技ライター)