ロンドン世界陸上選手権の男子マラソン代表が、川内優輝(埼玉県庁)、中本健太郎(安川電機)、井上大仁(三菱日立パワーシステムズ)の3名に決まった。


福岡国際を日本人トップでゴールし、代表に内定した川内優輝 福岡国際マラソンと東京マラソン、びわ湖毎日マラソンの日本人3位以内と、別府大分毎日マラソンの日本人1位が対象になる世界選手権男子マラソンの代表選考。世界のトップから大きく水を開けられている中、どういった代表争いが繰り広げられるかが注目されていた。

 その第1弾となる昨年12月4日の福岡国際で、印象に残るレースをしたのは川内だ。その2週間前に出場した上尾シティハーフマラソンは、右ふくらはぎの痛みもあって1時間30分 以上もかかり、福岡国際の2日前には左足首を捻挫するなど満身創痍の状態だった。

 しかしレース本番では、力を発揮した。10km地点を過ぎてからの5kmのペースが15分25秒に落ち込んだ上に、ペースメーカーが23kmまでしかもたないという難しいレースになる中、25 km手前から仕掛けてペースを上げ、自らレースを作った。元世界記録保持者のパトリック・マカウ(ケニア)や15年世界選手権2位のイエマネ・ツェガエ(エチオピア)らとは30km過ぎまで並走。33kmでスパートしたマカウとツェガエには引き離されたものの、アマヌエル・メセル(エリトリア)とムラク・アベラ(エチオピア・ 黒崎播磨)をかわす。そして、36km過ぎにメセルを引き離して2時間09分11秒の全体3位でゴールした。

 優勝したツェガエには23秒差をつけられたが、2位のマカウとは14秒差。2時間9分台というタイム自体は期待を裏切るものではあったが、それ以上に、アフリカ勢を相手に自分でレースを作った積極性と、最後までトップにくらいついた執念は評価できる。

 続く2月5日の別府大分は、中間点のトップ通過タイムが1時間04分37秒と福岡より遅い展開 になった。その後、30km地点からの5kmを15分0秒台に上げた中本とデルジェ・デベレ(エチオピア)が、次の5kmも15分10秒台を維持して抜け出す。そして、38km 過ぎでスパートをかけた中本がデベレを振り切って2時間09分32秒でゴール。13年モスクワ世界選手権で5位になって以来苦しんでいた中本だが、14回目のマラソンで勝利への執念を見せ、初優勝を果たして代表選考のテーブルに乗ることになった。

 だがタイムをみれば、この時点で川内と中本が代表入りする確証はなかった。コース変更で終盤のアップダウンがなくなった東京で、好記録が続出する可能性もあったからだ。しかし、それは不発に終わる。2月26日の東京マラソンでは、元世界記録保持者のウイル ソン・キプサング(ケニア)が世界記録を狙う1km2分54〜55秒のペースと、日本人選手を対象にした2分58秒で引っ張る第2グループ、3分01〜02秒の第3グループ で展開すると思われた。だが、序盤は下り基調のコースということもあり、最初の1kmが2分46秒、5km通過は14分15秒という超ハイペースの展開に。そのまま30kmまで 14分40秒前後のペースを維持したキプサングが、2時間03分58秒の国内最高タイムで優勝する結果となった。

 一方で日本勢は、予想以上のハイペースに加え、2分58秒で刻むはずのペースメーカーもいなくなる状態になったが、それでも複数の選手が積極性を見せ、井上と設楽悠太(Honda)が10 kmを29分10秒台で通過した。そして、次の5kmを15分10秒前後まで落として自重した井上が、Y・ゲブレゲルギシュ(エリトリア)と最後まで並走できた幸運もあって、先行していた設楽を38kmで逆転。日本人トップに立ち、2時間08分22 秒で全体8位に入った。

 井上の他にも、積極果敢なレース運びをみせた設楽が2時間09分27秒、前半を1km3分前後のグループで走った山本浩之(コニカミノルタ)と服部勇馬(トヨタ自動車)が、それぞれ2時間09分12秒、2時間09分46秒を記録。4人が「サブ10」を達成したが、「あわよくば7分台を」という期待は挫かれた。

 さらにその1週間後に行なわれたびわ湖も、中間点通過こそ1時間03分19秒と好ペースで進んだが、30kmから失速し、優勝したエゼキエルキプトゥ・チェビー(ケニア)も2時間09分06秒にとどまるレースになった。日本勢も期待される選手が多かったが、リオ五輪代表の佐々木悟(旭化成)が2時間10分10秒で日本人トップ(全体の4位)と低調な結果に終わった。結局は今季も、低迷に風穴を開けるような選手は登場しなかったことになる。

 これらの選考レースを経て発表された世界選手権の代表は、川内と中本、井上という順当な顔ぶれになったが、注目されるのは外国勢と戦う姿を見せた川内が、「最後の日本代表」と公言する世界選手権でどう戦うかということだろう。

 彼が目標とするのは、昨年のリオデジャネイロ五輪を2時間08分44秒で優勝したエリウド・キプチョゲ(ケニア)のレースだ。25kmまでを5km15分30秒以上のタイムで進み、そこから徐々にペースを上げて頂点を掴んだキプチョゲの走りを見て、「30kmからの5kmを、14分30秒を切るようなスパートに対応した上で、そこからの5kmの落ち込みを15分台前半に抑える走りができれば、金メダルは無理でも銅メダル獲得の可能性はある」と分析し、練習を続けていたと言う。

 その思いの通りの走りをして結果を出せれば、もう残された時間も少なくなってきている20年東京五輪へ向けてひとつの指針を示すことになるだろう 。

 また、12年のロンドン五輪と13年の世界選手権で2度の入賞経験のある中本は、マラソン初優勝という経験を糧に、どこまで調子を上げられるかが課題だ。さらに、世界選手権の出場が初となる井上は、マラソン2回目ながら初回の2時間12分56秒からしっかりと力をつけてきた。その成長力に加え、東京での10kmまでをハイペースで突っ込んだ勇気と、その後はゴールまでを考えて2時間08分台でまとめた冷静さが光る。

 8月の世界選手権では、川内が後に続く選手に何を示してくれるのか。そして中本と井上が何を得てくるのか。それが、日本男子マラソンの未来にとって重要になる。

■陸上 記事一覧>>