『あたしアイドルじゃねぇし!!!』(東京ニュース通信社)

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 きゃりーぱみゅぱみゅのファンクラブの中心人物が13歳の少女にわいせつ行為をはたらき、逮捕された。きゃりー自身にとってはとんだとばっちりだが、今回の事件で彼女のストレスはさらに加速するかもしれない。

 きゃりーは先月、本格的に歌手デビューした2012年から続けている「TV Bros.」(東京ニュース通信社)での連載をまとめた単行本『あたしアイドルじゃねぇし!!!』(東京ニュース通信社)を出版したのだが、これを読むと、報道への怒りがそこかしこに書かれているのだ。
 とくに、きゃりーが標的にしているのはネットニュース。彼女は自身がSNS上に投稿した発言がすぐにネットニュースになってしまう状況をこのように綴っている。13年に書かれたコラムである。

〈あまりに暑くて、「山口のフェス暑すぎてライブ中に熱中症になってびびった......」ってツイートしたら、それがすぐにヤフーニュースのトップになって、むしろそっちのほうにびびりました。
 ヤフーニュースツイッター見すぎだって。
 以前、某アイドル熱愛発覚のときも「アイドルって大変だな〜」みたいなことツイートしたら、いつの間にか「きゃりー、熱愛アイドルに同情」ってトップニュースになってたしな〜〉(改行と句読点のみ筆者の判断で若干改めた。以下同)

「Yahoo!ニュース」はただ単に他社が発信したニュースを流しているだけで、記事自体を書いたのは別の会社なのだが(上記の2つのネットニュースはおそらく「シネマトゥデイ」が書いた記事を指していると思われる)、それはともかくとして、ブレイクした直後から発生したニュースサイトときゃりーの攻防はその後どんどん苛烈さを増していく、翌14年のコラムでは怒りを隠すこともなくこのように書き綴っている。

〈みんなでワイワイするのが昔からあまり得意ではありません。で、去年の年末の『FNS歌謡祭』の出演前に
 きゃりーが孤立!
 みたいな記事を書かれてしまいました。別に孤立してたわけじゃないし、それに勝手な妄想をいろいろ書かれてたので、それを読んだ私は
 大変ショック!!!
 を受けました。みんな勝手に妄想しすぎ! 安易に呟くと変に裏を読まれてしまいます。「足痛い」って呟いただけできゃりー今年は足負傷って書かれるし、とかくネットのニュースって無理矢理広げようとしてきます〉

 彼女がこの連載で綴っているネットニュース批判はこれだけではない。恋愛スキャンダルについてもこのように明け透けに語っている。

〈既に骨身に染みてご存知な人も多いかと思いますが、あえて最後に言わせてください。
 とりあえずバンドマンとDJはやめといたほうがいい〉
〈所属レーベルのアーティストの皆さんたちと撮った集合写真をインスタグラムに上げたところ、それにゲスの極み乙女。の絵音くんも写ってて、
「今度はきゃりーか?」
「きゃりーに幻滅しました」
 と叩かれた、きゃりーぱみゅぱみゅです。
 まだまだそういうこと言ってくる人っているんですね......。つーか言わせてください。バンドマンと撮った写真をアップするたびに、とやかく言われがちな私ですが、実際バンドマンたちにとって私は、Fukaseの元カノというイメージが強すぎて、そういう対象には入らないみたいです安心してください〉

 ツイッターに書き込んだら一発でネタにされて大炎上しかねないような挑発的な発言だが、この連載できゃりーがこのような原稿を書いていたのには理由がある。

〈よく「売れなくなった」と言われる雑誌などの紙メディアは、ネットとは打って変わって実に平和な世界が広がっています。というのも、紙メディアはコピペができなかったり、そもそもお店に行って買わないと読めないものなので、あまり炎上しないからです。紙自体はよく燃えるのに燃えにくいだなんて面白い話ですが、この自由さこそが、今の時代の紙メディアの良さなんだと思います〉

 それって、要は「雑誌が誰にも読まれなくなっている」ってことなのでは?と思ってしまわなくもないが、記者会見で何かを話せばネタにされ、SNSに何かを書けばネタにされ、ライブのMCですらネタにされる窮屈な状況にある彼女にとって、好き放題書いてもファン以外の外野からはいたずらにネタにされない「雑誌連載」というフォーマットは貴重なはけ口であったようだ。

〈そんなわけでTV Bros.で連載を続けていくうちに、だんだんいろいろ考えないようになって、好き勝手なことばかりを書いてしまうようになってしまいました。火の手が回ってこないここは、今では私にとってサンクチュアリーのような場所。そのまんまの素の私が、ここにいます。私はこの連載を愛しています〉

 確かに、連載開始当初は自分の趣味について書いていたりと割と当たり障りのない内容だったのが、回を重ねるにつれ、前述のネットニュースやスキャンダルに関するトピックのみならず、勝手に盗撮してSNSに上げる世間の人へ苦言を呈したり、エゴサーチして自分への中傷のコメントを確認していることを明かしたり、イベントによく来てくれるファンのツイッターを見ていてその人の個人情報を把握していると告白するなど、どんどん過激になっていっている。高校時代はクラスメイトと共にお笑い芸人を目指していたきゃりーぱみゅぱみゅという人が本来もっていたはずの「毒」。それがこの連載、単行本では全開になっているといってもいいだろう。

 一方で本書がおもしろければおもしろいほど、惜しまれるのは彼女がSNSやテレビではある時期からこうした「毒」を封印してしまっていることだ。

 そもそも〈そのまんまの素の私〉で〈好き勝手なこと〉を言ったり書いたりする発信力は、きゃりーの大きな魅力のひとつ。「あたしアイドルじゃねえし」という本書のタイトルにもあらわれているように、好感度に依存するアイドルとはちがって、孤立や嫌われることを怖れない自分のスタイルをもっているのが本来のきゃりーではなかったか。

 たしかに同調圧力や矯風会的な空気に支配され、少しでも世間とはずれた言動をすると苛烈に叩かれたり批判される昨今の風潮は、どうかと思う部分もある。でもだからこそ、きゃりーにはその空気に抗って炎上やネットニュースなんて怖れることなく、テレビでもSNSでもライブMCでも自由に発信してほしいのだ。
 
 それは、今回の事件についても同様だ。ぜひ、臆することなく、無責任な報道をしたメディアに文句をぶつけてほしい。

 ところで、最後に彼女に謝らなければならないことがある。実は、この連載コラムについて彼女はこんなことを書いていた。

〈そこで、これを読んでいるメディア関係の皆さんにお願いがあります。
 ここからニュース拾わないで〜
 これ挑発じゃないですよ〜!〉

 この記事によってきゃりーにとっての大事な「サンクチュアリー」を壊してしまう可能性があるのは忍びない。が、きゃりーの才能は、そんな閉じられた世界のなかだけにとどめておくのはもったいない。人目を気にせずいつでも、本書のようにやりたい放題に発信してほしいという願いを込めて、ここからニュース拾って記事にさせていただきました。
(新田 樹)