「トローチ」は本来、歯で噛み砕いてはいけない薬である。
そもそも「トローチ」とは何なのか。そしてなぜかみ砕いてはいけないのか。かみ砕くことで、どのようなリスクがあるのか。そんなトローチにまつわる素朴な疑問を薬剤師に聞いた。

トローチとは何なのか


トローチといえば、風邪を引いて喉が痛いときに処方されたり、ドラッグストアや薬局などに売られていたりする錠剤である。ここ最近ではコンビニエンスストアでも見かけるようになった。

トローチとは、医薬品の規格基準書「日本薬局方」 によれば、口腔用錠剤の一つで、正式には「トローチ剤」と呼ぶそうだ。

(1) トローチ剤は,口腔内で徐々に溶解又は崩壊させ,口腔,咽頭などの局所に適用する口腔用錠剤である.
(2) 本剤は,服用時の窒息を防止できる形状とする.
日本薬局方


口の中で溶かして服用する薬だと明記されている。このトローチ、どうやらかみ砕いてはいけないようだ。スギ薬局の薬剤師 明田恭輝さんに詳しく聞いてみた。

「トローチ剤は、口腔・咽頭での局所作用を目的とした剤形です。口腔内に長く留まらせることで効果を発揮します。噛み砕いてしまうと、薬剤が溶けきらないまま飲み込んでしまう可能性があります」

トローチをなめていると、思わずかみ砕いてしまうことがある。どんなリスクがあるのかと尋ねると、かみ砕くと「薬剤の効果を十分に得られず、治癒が遅れます」とのことだった。

かみ砕いていい「チュアブル剤」との違い


ところで、薬の中には、かみ砕いていい「チュアブル剤」というものもある。このチュアブル剤とトローチ剤との違いはどこにあるのだろうか。

「トローチ剤は局所作用を目的とし、噛み砕かず、口腔内で溶かす必要がある剤形。軟膏やうがい薬と同じ『外用薬』に分類されます。
一方、チュアブル剤は全身作用を目的とし、噛み砕いて服用することで、体内で吸収されやすくなる薬です。錠剤やカプセル剤と同じ『内服薬』に分類されます」

薬の作用する場所が体の外か内か。これがかみ砕いていいかどうかの違いのようだ。

トローチの穴は窒息防止の穴だった


ところで「日本薬局方」 には、もう一つ気になる記述がある。トローチの形は「窒息を防止」する役割があるという。いったい、どういうことなのだろうか。

「トローチは、口の中で溶けるのに長時間かかるため、誤って飲み込んでしまうこともあります。万が一喉につまっても、喉がふさがれて息がつまらないように、真ん中に穴が開いています」

トローチは、長時間口の中に留まらせる必要がある、服用にはちょっとむずかしい薬であるがゆえに、飲み込んでしまってもできるだけリスクが減るよう、十分に対策が考えられていた。

今後トローチを服用する際には、かみ砕かず正しく服用したい。
(石原亜香利)

取材協力/
スギ薬局 薬剤師 明田 恭輝さん
星薬科大学卒業。2016年にスギ薬局に正社員として入社。
http://www.sugi-net.jp/