第1シードのアンディ・マリー(イギリス)は2回戦で129位のバセク・ポシュピシル(カナダ)に敗れ、第2シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)も4回戦でニック・キリオス(オーストラリア)の猛攻の前に姿を消す。ひとつの波乱はドロー全体の均衡を揺るがして、準々決勝4試合のひとつは第21シードvs.第27シードの顔合わせともなった。


相手のキックサーブに苦しみ、錦織圭は準決勝進出を阻まれた その混線模様のなか、ベスト8まで勝ち上がってきた世界ランキング18位のジャック・ソック(アメリカ)は、今季に入ってすでに2大会で優勝するなど、もっとも脂の乗っている選手のひとり。現在トップ10選手に3連勝中でもあり、191cm・84kgの屈強な身体に自信と実績を着実に収めつつあった。

 そのソックを錦織圭は「やりにくい相手。このサーフェスでは、彼の速いキックサーブもフォアも弾む」と警戒し、「彼との対戦では、やらなくてはいけないことはたくさんある」のだと言った。

 一方のソックには、錦織戦でやるべきことは明確化されていた。

「自分のプレーを貫くことが、勝利の可能性を高める最良の方法。攻撃的にいく。重いフォアハンドを打ち、チャンスがあれば前に出る」

 世界5位に挑む挑戦者には、迷いも、戦術を隠すこともなかった。

 キリオスの棄権によってもうひとつの男子準々決勝がなくなり、好ゲームへの期待が高まった錦織対ソック戦は、どちらもミスの多い立ち上がりとなる。スタジアムを巻くように吹く強風も、両者のプレーから安定感を奪っていた。

 その落ち着きを欠いた攻防から、先に抜け出したのはソックである。第2ゲームでブレークを許した錦織は、以降は相手の4度のサービスゲームで3ポイントしか奪えない。

 特に錦織が手を焼いたのが、戦前から警戒していた高く跳ねるキックサーブ。第1セットのソックは、ファーストサーブの確率こそ51%と低かったが、セカンドサーブでのポイント獲得率が85%でファーストサーブのそれを上回った。そのセカンドサーブの大半でソックはキックサーブを打ち、ファーストサーブでも時にスピンサーブを混ぜてくる。

「サーブに対応しきれなかったのが、一番大きい」。錦織も認める、苦戦の最大の理由だった。

 第2セットは、2度のブレークに成功して奪い返した錦織だが、相手のサーブを攻略できたという感触はなかったようだ。

「2セット目も相手がくれたようなものだったので、リズムを掴むのが難しかった」という錦織に対し、ソックは第2セット終了時にトイレットブレークを取り、シンプルに「集中力を高め、ふたたび攻撃的にいき、自分のベストのプレーをする」ことに意識を集中させた。

 迎えた第3セット最初のサービスゲーム。大きくラインを割った錦織の2本のフォアハンドが、この一戦を象徴する。剛腕を振り抜き、ボールを叩きつぶすように放つソックの高く跳ねる強打の前に、錦織は攻めの形を築けなかった。

 3-6、6-2、2-6の敗戦が重くのしかかるのは、互いに相手の長所や戦い方をわかっていたなかで、攻略できなかった点にあるだろう。

「サーブとフォアハンドが僕の最大の武器なのは、みんなもよく知ってのとおり。特にこのコートでは、キックサーブは相手に致命傷を与える。僕の狙いは、圭に腰のあたりで打たせないこと。そのためにも今日は、ファーストサーブでもキックサーブを多用した」

 キャリア初の「対トップ5勝利」を手にしたソックは、そう言って勝因を明瞭に振り返る。

「この風のなか、彼のボールがすごく弾んだり、横にぶれたりして、打ち抜くのが難しかった。特にスピンサーブは、ここは跳ねるサーフェスでもあるし、いろんなことが混じってより取り難くなっていました」

 錦織が省みる敗因は、ソックが語る勝因と対を成した。

 昨年の錦織は79試合戦って、敗れたランキング最下位の選手は当時43位のサム・クエリー(アメリカ)だった。15位以下に負けたのも、クエリーとバーナード・トミック(オーストラリア)に2度、そして突発的なケガで途中棄権した34位のジョアン・ソウザ(ポルトガル)の4回のみ。それが今季、ここまで敗れた相手は、すべて15位以下の選手。全豪オープン時に17位だったフェデラーは別としても、金星やタイトル獲得に牙をむく挑戦者の勢いに飲まれる試合が続いている。

 もっとも、このような状況に面しているのは、マリーやジョコビッチも同様だ。

「この2〜3年、彼らがどれだけのことをやってきたかを選手もよく知っている。神でもないので(勝利が)続くわけもなく、これが普通なのかなと思うし、いずれまた強く戻ってくると思う」

 上位2選手の現状を分析し、未来を予測する言葉は、自らに向けているようでもあった。

 当の錦織は今の自身の状態を「今大会はすごく調子がよかった」と言い、その好調をすべての試合で出せなかったことを悔いた。

「その点を直し、次のマイアミ(マスターズ)でがんばりたい」

 インディアンウェルズの戦いを終え、彼は次の大会に目を向ける。昨年は準々決勝で5本のマッチポイントをしのぎ、最終的に準優勝したマイアミで、彼はふたたび勝負強さを取り戻せるか?

 当面の目標である、5月の全仏オープンをランキング4位以上で迎えるためにも、ここが正念場だ。

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