2億円で国主導の晩餐会プロジェクトを![小山薫堂の妄想浪費 vol.19]

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放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第19回。「食」は国境や文化を超える、究極のおもてなし。和食が世界遺産のいま、日本の料理人に晩餐会を体験させるプロジェクトを国主導でいかがでしょうか?

徳川慶喜が大坂城で外交晩餐会を開いたことをご存じだろうか。1867(慶応3)年3月25、26、27、29日の4回にわたり、慶喜は英蘭仏米4カ国の公使たちに、フランス料理をふるまった。

接待方式をそれまでの日本式から西洋式へとあらためたのは、神戸開港交渉を円滑に進めるため、欧米人の琴線に触れるものにしようと考えたから。横浜の「オテル・ド・コロニー」オーナーのラプラスが饗応一式を請け負い、大坂城の御殿「白書院御次之間(しろしょいんおんつぎのま)」に椅子やテーブルが運び込まれ、20皿を超える本格フレンチコースに、シャンパーニュ、ボルドー、ローヌ、果てはラングドックのデザートワインまで用意されたという。

この慶喜の卓越した外交センスと豪華なフランス料理に、各国公使は舌を巻いた。慶喜の国家代表としての面目は保たれたのである。

ノーベル賞でもサミットでも、晩餐会はほとんど必須項目だ。これは全世界共通して、「食」がその場にいる人々を感動させ、胸襟を開かせ、心を結びつける、究極のおもてなしになるからだろう。

実は僕もアメリカン・エキスプレスの「プラチナ・カード会員様限定 ダイニング・イベント」というかたちで、晩餐会をワンシーズンに1回(年4回)プロデュースしている。日本の食レベルが全世界の頂点にあるいま、さらなる美味しさを追求するために、”一夜限りの幻”となるような美食の宴を開いてみたいと思ったのだ。

たとえば以前開催した「世界遺産と老舗料亭、奇跡のコラボ晩餐会」では、会員50名様限定で閉門後の下鴨神社を貸切散策。次にギタリストの鳥山雄司さんがサプライズ登場し、テレビ番組「世界遺産」のテーマ曲を演奏。重要文化財の「供御所(くごしょ)」で下鴨神社の包丁人として創業した料亭「下鴨茶寮」の料理長に腕を振るってもらった。

また「天空の銀座」の回では、六本木ヒルズクラブのバンケットにコの字型のカウンターテーブルを配し、寿司幸の杉山衛(まもる)さん、鮨青木の青木利勝さん、鮨あらいの新井祐一さんに鮨を振る舞っていただいた(鮨が回転するのではなく、職人が回転する鮨屋とでもいいましょうか)。3つの銀座の名店の味を一晩で味わいつくすというのは、かなりスペシャルな宴だったのではないかなと思う。

工夫ひとつで忘れられない時間になる

食に新しい感動を与えるのは、何も資金力だけではない。誰もやったことのない工夫ひとつで、それは忘れられない時間になる。

昨年末、アンジャッシュの渡部建くんと僕の故郷である熊本県の天草で食べ歩きの旅をした。実は彼を連れて行きたい場所があった。次の世界遺産と目される「崎津集落」だ。ここは隠れキリシタンの漁村で、村にはゴシック様式の崎津教会があり、暮らしている漁師さんもクリスチャンが多い。漁に出るときは、大漁と航海の安全を願って、崖に水染みで浮かび上がったマリア像に手を合わせていたという。

だが、あるとき台風で崖が崩れ、マリア像が消失。そこで信者のひとりが地元漁師や消防団に協力を求め、その場所に「海上マリア像」を建てた。いまではこのマリア像を見るための観光漁船ツアーもある。僕はそのマリア像を渡部くんに見てもらおうと漁船を借り、そこに港の「海月(くらげ)」という鮨屋の大将を呼んで、鮨を握ってもらった。

夕日が沈むころ、海辺に佇むマリア像を見ながら船の上で食べる海の幸の味は、本当に格別だった。

でも、もしこれを海月の大将本人が日々の仕事としてやろうとしたら、経済的に苦しくてすぐ破綻するだろう。だからぜひ地元の資産家にバックアップしてもらいたい。「海の上の鮨屋」というひとつの名物ができることにより、メディアから注目され、結果として観光名所になるのではないだろうか。そういう採算度外視でおもしろい店をつくってくれる資産家がもっと増えるといい。

もうひとつ、京都の「空(そら)」という店の話をしたい。ここは食道楽の6人が資金を出し合ってつくった3年間限定のプライベート・レストランだ。メンバーのひとりがもともと持っていた祇園の町家を、カウンター8席だけの割烹に改装して始めたのだが、そのコンセプトがおもしろい。

まず、全国の人気レストランや料亭の料理人に、「1週間だけあなたの好きなことをしてみませんか?」と声をかけた。料理人たちは存外喜んだ。そのうえ、和食の料理人がバスク料理を、フレンチのシェフが中華を、と専門外の料理にチャレンジしたいという申し出まであった。

いまでは週替わりで料理人がやってきて、その時だけのスペシャルな料理を出す。6人の創設メンバーは日にちを分け合って、大事な人を招待して8席を日々埋める。ゲストは舌の肥えた人ばかりだし、料理人は普段はできないことに挑戦できるという、素晴らしい遊び心に満ちた空間だと思う。

皇帝が芸術家の絵を描かせたように

僕はこれまで何軒か飲食店を手がけているけれど、正直いってさほど儲からない。特におもしろい店をやろうとしたら儲からない(笑)。初めてオーナーになったのは、連載第9回に書いた、東京タワーの下(ふもと)にある自動車修理工場を改装したバー「ZORRO」。いまは「月下」という名だが、ここも現場スタッフの給与と家賃でとんとん。でも、それでいいのです。

資産家の方々にとって、食は腹を膨らませるためのものではなく、感動を得るためのものだ。その感動を純粋に追い求めていくと、儲けのためではなく、人を集めたり喜ばせたりするためにお金を使うようになる。かつて皇帝が芸術家に絵を描かせたように、資産家が料理人にギャランティを支払って思う存分料理をつくらせたり、そこにさまざまな人が集まってサロンが形成されたりしていく。

なんならこれを国レベルでやってみたらどうだろう。農林水産省が10年から料理人顕彰制度「料理マスターズ」というのを行っている。これは地域の活性化、食の貢献・向上を行っている料理人を選んで、ブロンズ賞(現44名)、シルバー賞(現5名)、ゴールド賞(現0名)で表彰するものだが、それをさらに進めて、料理人に腕を振るう場を与えるのだ。

場所は迎賓館、料理人は毎週交代として、1年で52人。平日5日のうち、1日は国賓、1日は若い料理人、1日は生産者、残りの2日は一般の人などと決め、希望者はふるさと納税的なかたちで全国の生産者から何か購入すると抽選に参加できる。

予算だが、準備費用100万円、料理人へのギャラ100万円、計200万円が52週で、1億400万円。運営費や空間改装費、システム構築費を入れて、1年で2億円あれば運営できるだろう。シェフは紅白歌合戦のように年末に52人を発表したら盛り上がるかもしれない。皆さん、そんなところがあったら行きたいですよね?

有意義なお金の使い方を妄想する連載「小山薫堂の妄想浪費
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