「スパイダーマン」宣伝イベントで発生した衝撃の「虚無」

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虚無が生まれてしまった。しかも一番生まれてはいけないところで。

3月17日、日本橋のマンダリンオリエンタル東京で映画『スパイダーマン ホームカミング』の宣伝イベントが行われた。内容としてはジャニーズのアイドルグループである関ジャニ∞が『スパイダーマン ホームカミング』のジャパンアンバサダー(なんだそれ?)に就任し、日本語吹き替え版の主題歌アーティストに選ばれた、というものである。


それだけなら昨今話題になる「洋画の日本における謎な宣伝」でしかない。異常だったのは、WEB上での記事における写真だ。



例えばこの『スパイダーマン ホームカミング』の公式ツイッターアカウントの写真ではド正面に写っているのがマネキン(!)である。関ジャニ∞のメンバーは映画のジャパンアンバサダーであるのにひとりも写っていない異常なものだ。こちらはシネマトゥデイの記事だが、本文中では横山裕がジャニー社長との思い出を告白しているのに、こちらでも写っているのはマネキンと看板。どちらも映画の宣伝のはずなのに掲載写真に写っているのはまぎれもなく「虚無」。映画がどうのこうのというより、空空しさの方が強く感じられる。

トンデモ映画宣伝、芸能界の事情に負ける


いまや一部の洋画ファンにとって定番の話題となった「映画のトンデモ宣伝問題」。記者発表で映画と全然関係ないタレントが出てきて全然関係ない質問に答える、ポスターのデザインが改悪される、吹き替えが声優ではなくタレントになる、変な日本版主題歌がエンドロールにくっつく……と、実例は山ほどある。それらに対してツイッターやブログで映画ファンが怒りを表明するのは、すでに新作映画が公開される際の風物詩になっている

今回の『スパイダーマン ホームカミング』での関ジャニ∞起用も、その一種と言えるだろう。謎の役職をつけて映画本編と関係のないタレントを宣伝に引っ張り出してテレビに映り、日本版主題歌に彼らの楽曲をはめ込むという、非常にスタンダードな日本の洋画宣伝。言ってしまえばその内容自体は「ありがち」な範囲だ。

では何が奇怪なのかといえば、ジャニーズ事務所によるWEBでの画像使用に対しての規制と、そこから生じるねじれだ。有名なところではジャニーズは自社のタレントが掲載されている雑誌の表紙をWEB上に掲載する際に人物だけ塗りつぶしたようになったりCDのジャケットが文字のみになったりするが、イベントなどのWEBニュースの記事でも画像掲載はNGである。

という事情が重なって、あろうことか公式のツイッターアカウントや映画ニュースのWEBサイトという宣伝の場で、冒頭に述べたような「虚無」が写った写真が掲載されてしまったわけだ。テレビに映ればいい、既存のアナログな媒体に映ればいい、という発想もあるが、映画の配給や宣伝の立場から言えばチャンネルは多ければ多い方がいいはず。そして、シネマトゥデイのような映画ニュースサイトというのはチャンネルとしては相当に太いものだったはずだ。そこでの宣伝が「虚無」になってしまったのは痛手でなくてなんであろうか。

たかだかひとつの芸能事務所の都合に『スパイダーマン ホームカミング』のWEB上での宣伝は振り回されたのである。

MCUの稼ぎ頭、スパイダーマンはつらいよ


前述のように、関ジャニ∞の起用に関してはありがちな話だし、宣伝としては目新しさはない。が、マーベルのアメコミ映画という観点から『スパイダーマン ホームカミング』を見てみると、意外に悪条件が重なっているように思う。

まずこの『スパイダーマン ホームカミング』は今までの映画版スパイダーマンと違い単独で成立しておらず、膨大な量のシリーズ物の一作である。なので、ちゃんと理解しようと思うとマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の一連のスーパーヒーロー映画を通して見る必要があるのだ。これは宣伝にとってなんとか超えなくてならないハードルだろう。

加えて、今後公開されるMCU作品に日本での知名度の低いヒーロー(『ブラックパンサー』や『インヒューマンズ』など)がそこそこ含まれていることを考えると、今後が期待できない以上スパイダーマンという有名ヒーローの映画は是が非でも当てておきたい、手段は選んでいられない、という事情もなんとなく透けて見える。

8月公開の映画なのに3月の時点で「日本版主題歌決定!」と打ち上げているのには、そんなシリーズ物スーパーヒーロー映画独特の事情も絡んでいるように思う。そんな切羽詰まったMCU映画の稼ぎ頭が、ジャニーズ事務所に振り回されてしまったのだ。

「映画の宣伝」の明日はどっちだ


断っておきたいのが、筆者は「トンデモ」と言われている映画の宣伝方法に対して決して反対ではないという点だ。そもそも映画ファンというのは放っておいてもある程度勝手に映画を観にくる人種である。そしてそんな人種の人数はたかが知れている。

宣伝というのは「その気がない人を振り向かせる」ためのものだ。だからそのためにはなりふり構っていられない。使えるものはなんだって使う、というのは間違った姿勢とは思えないのである。個人的には映画の内容を改変せず、字幕版が本国と同じものであれば他の宣伝方法はどうでもいいと思っている。どのみち『スパイダーマン ホームカミング』も初日に観に行くだろう。

今回の『スパイダーマン ホームカミング』と関ジャニ∞の一件の問題はあくまで、WEBという宣伝の主戦場のひとつで、映画を宣伝する側が想定した絵面ではなく間抜けな写真だけが配信されてしまった点、そしてその原因がひとつの芸能事務所の都合にある点だ。

こんなにコテコテの「大人の事情」にまみれた映画の宣伝を、我々は一体いつまで見せられればいいのだろうか。
(しげる)