「山田孝之のカンヌ映画祭」芦田愛菜の死刑宣告、俺も言われたことある

写真拡大 (全2枚)

『山田孝之のカンヌ映画祭』最終話1つ前の11話。
いよいよパルムドールを目指す映画『穢の森』がクランクイン、クライマックス。


ドキュメンタリーなのかコントなのか、どこからどこまで仕込みなのかガチなのか、どう展開するのかさっぱり判らない。
そもそも何がやりたいのかわけの判らぬ番組なのに、ズルズルと(最初は、なんだこれ、つまんねって思ってましたごめん)惹き込まれて、
この最終話直前で、その思いが俺の中で爆発してしまった、すげぇよ、これ。

私は、ゲームデザイナーだ。
『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』『BAROQUE』といったゲームの企画監督脚本を担当した。
『ぷよぷよ』はまだ少人数だから良かったが、その後、どんどん制作に関わる人数が増えてきて、たいへんな思いもした。
『トレジャーハンターG』のときは、テストプレイヤーも含めると数百人の関係者で、顔も覚えられない、話したことのない人もいる。
こんな状態はヤバイと思っていたが、結局、次の『BAROQUE』でもヤバイ状態は続いた。
しかも『BAROQUE』は、歪んだ妄想たっぷりの世界観のゲームで、制作はさらに難航した。
ので、ここ最近の『山田孝之のカンヌ映画祭』は他人事ではないのである。

芦田愛菜が、母親を殺す少女を演じる。
殺される母親さちこ役を長澤まさみにオファーしていた。
だが、脱ぐ脱がないの話になって、執拗に脱いでほしいと懇願する山下監督と山田孝之の奮闘むなしく、長澤まさみは降板。

降板したのにナレーションやってる不思議は置いておくとして、そのかわりに登場したのがオブジェだ。
3メートルぐらいの大きな発泡スチロールの母の体。
芦田愛菜がナイフを突き刺すと、乳房から水がぴょーーーーと飛び出す。
何だそれは。
迷走の果てに成功から遠のいた状況にしか見えない。
狂い死にを表したというのだが、まったく意味不明だ。
さらに山田孝之は、大きさが足りないと言い出す。
山下監督も、いや、だから、その、と、乳房から出る水の勢いを激しくするからとかなんとか言うが、そんなことじゃない。
大きくするには三週間かかる、とにかく今日このシーンを撮ろう、無駄なシーン撮っても意味がない、カンヌを目指すより今このスタッフで撮りたいんだ、何言ってるかわからない。

芦田愛菜が蛇に噛まれるシーンも、ワンカットで撮りたいと望む山田。
持ち込まれた蛇に噛まれる山下監督は、カットを切って、他の人でやってもらう案を主張する。

険悪なムード。
さらに、全身燃えることをOKしていた役者がやっぱりできないと言い始める。
スタントを使う案を検討するが、それも山田孝之には妥協としか思えず、とうとう決裂。

山田孝之が「もう、いいです」と言い放ち、監督に「「帰ってください」と言う。
山田孝之は「妥協ばっかりじゃないですか」と怒りを露わにする。
「今まで通り、仲良しで妥協しながら撮ればいいじゃないですか」と山田孝之は酷いことを言う。
山下監督が妥協じゃないというのも通じない。
なんども、振り返り、戻ろうとする監督に、「帰ってください」「ありがとうございました」とにべもない。

完全に駄々をこねてるヒールだ。山田孝之は嫌なヤツだ。
こんなヤツいたら現場って大変だろうなと思いながら、観ているつもりだった。
が、いつの間にか、これは俺じゃないか、と疑念が浮かび始める。

『トレジャーハンターG』の制作のほぼ最終段階。
スタッフと打ち合わせてると、いきなり胸ぐらをつかまれた。
「おまえは自分で作れないくせに偉そうに言うな」
と怒鳴られ、
「いやいやいや、自分で作れないから頼んでるんじゃないか」
「じゃあ、偉そうに言うな」
「偉いとか偉くないとかそういう問題じゃない」
と言い合いになった。


『BAROQUE』のときは、もう周りのほとんどのスタッフが、何を作ってるのかわからない状態だったらしく
「米光は何を考えているんだ、おかしいんじゃないか」とヒソヒソ言っていた(ような気がした)。
頭の中にある完成形に従って、ここが違うのでこうして、と言うと、
「いや、この前はそう言ってなかった」
「いや、そんなことはない」
完成形が頭の中あるので、そんなこと言うはずがないのである。
「言ってなかった」
「だとしても、こうしてくれ」
とこれまた言い合いになり、しかも、周り中から「酷い酷い」と言われ、泣きそうになった。
ゲームが完成して、メインプログラマーがプレイして「わー、こういうゲームだったのか、はじめて分かった」とつぶやいたとき、腰からヘナヘナと崩れ落ちそうになった。
と、もはやいい思い出になっていてもいいのだろうが、思い出すたびに妄想が激しくなり、いま書いたことも、どれぐらい客観的な事実なのか心もとない。
「俺たちも全員坊主になろう!」と言った記憶すら捏造されているのだ。
被害妄想かもしれない。

芦田愛菜が山田孝之に「山田さん、何がやりたいんですか」と言ったシーンを観て、
「米光さん、何がやりたいんですか?」と制作の後半で言われたことを、はっきりと思い出した。

「山田さん、何がやりたいんですか」は、その場にいるスタッフの気持ち、視聴者の気持ちを代弁するカタルシスに満ちたシーンだ。
芦田愛菜、良く言った、ってなもんだろう。
だが、俺にとっては、これは、ものづくりの地獄から溢れ出てきた反乱軍からの死刑宣告だ。
第11話の山田孝之は、俺だ。
何がやりたいんですか?って聞かれて答えられるぐらいだったら、作品なんてつくんないんだよっ!
ほとんどの人が芦田愛菜に感情移入するだろうけど、俺は山田孝之に7割・山下監督に3割の感情移入して泣きそうになってる。
爆破されたのは俺だ。

次回最終話。もう観たくない。できなくて悔しいって終わり方なんか許さないからな。
ああ、観たら死ぬ。意地でも観る。(米光一成