子どもを産まない女性はIQが高い?

日曜日の朝、二度寝をしながらボーッとiPhoneでネット記事をチェックしていると、こんなタイトルの記事が目にとまりました。

「子どもを産まない女性はIQが高い」

へーっと思いながら、記事を開きました。

確かに、今の世の中、頭がよくて損得勘定にさとい女性ほど、「子供を産んでもトクなことは一つもないし」と判断するかもしれないという予想はついていたので、特に違和感のあるタイトルには思えませんでした。

出典として紹介されていたのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの進化心理学者・金沢聡博士の研究でした。実は、この人、以前「黒人女性は最も魅力に乏しい人種」と発言して物議を醸したちょっとエキセントリックな学者。もちろん、今回の「出産意欲のない女性はIQが高い」も非難轟々だったそうです。

記事は、「女性のIQが15ポイントアップするごとに、子どもが欲しいという欲求は25%ずつ低下する」という研究結果を引用しつつ、日本も「高学歴の女性ほど生涯で出産する子どもの数も少ない」と続けます。

みなさんもすでに感覚的にお気づきのように、IQ(知能指数)と学歴は無関係なので、そこからしておかしいんですが、そこは置くとして、「出生意欲」を「実際の出生数」とすり替えるような話をしていたり、「女医はIQが高いから子ども産まない」と言っていたり、首を傾げざるをえない部分がいろいろとありました。

本当のところはどうなんだろう?

とはいえ、この記事の筆者が最終的に言わんとしていることに違和感はありませんでした。

私も、日々アラサーの女性に向けてニュース記事を配信している者として、「頭がいい女性ほど、子どもを産むリスクに敏感になっている」と感じてはいたからです。

本当のところはどうなんだろう? ちょっと調べてみたい。二度寝を切り上げて、さっそく理系のデータに強い友人Rちゃんに協力を依頼するメールをしました。

今回は、その友人Rちゃんが収集してくれたデータをもとに、改めて「頭のいい女性ほど子どもを産まないのか?」という問題について考えてみようと思います。

「高学歴のハイスペ女性」に話を限れば

まず、ぶつかるのが「頭がいい」をどう定義するかという問題です。

「頭がいい」は、「IQが高い(地頭がいい)」と「有名大学を出ている(学歴が高い)」の2つに大きく分けられますが、現時点でIQと出産数の関係について信頼できそうなデータが見つからないので、ここでは学歴と出産数の関係について見ていくことにします。

つまり、「高学歴のハイスペ女性」は子供を産むのか、産まないのかという問題について考えていこうというわけです。

このテーマに関してまず気になるのが、2015年に日本総研が実施した調査です*。これはなんだかとっても嫌味な調査で、代々木ゼミナールの入試難易ランキング表に基づいて、女性たちが卒業した大学を4段階に分類しています。

で、その調査では、偏差値が一番高い大学グループを卒業した女性と、一番低い大学グループを卒業した女性で、一人あたりの産んだ子供の数を比べてみたところ、0.76人と0.99人という結果が出ました。わずか「0.2人」の差を持ち出して、ハイスペ女性の方が子供を産まない傾向が!と結論づけていいのかわかりませんが、統計的には有意な差と言えるんだそうです。

*2015年3月24日から3月31日にかけて日本総研がウェブ調査により実施したもの。調査対象は東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)に現住所があり、かつ東京圏に所在する四年制の大学又は大学院を卒業した25歳から44歳の女性。有効回答数は1828人。

とはいえ、0.2%の差を見せられて「ほら、ハイスペ女性ほど子供、産まないんだよ!」と言われても、なんだかつまらない。

アメリカのハイスペ女性の間では「子ナシ」が減少

日本に関してはあまりおもしろいデータが見つからないので、次にアメリカのデータを当たってもらったところ、出てきました!

「おっ、これは記事にしたい」と日曜の午後にカタカタとパソコンに向かいたくなってしまうようなデータが。

それは2015年に発表された論文*なんですが、アメリカでは、高学歴のハイスペ女性の間で、むしろ「子ナシ」が減って、「子アリ」が増えているんだそう。

*Childlessness Falls, Family Size Grows Among Highly Educated Women(高学歴女子の間で広がる「子ナシの減少」と「大家族化」の傾向),Gretchen Livingston, Kim Parker, Molly Rohal.

マスター(修士号)かそれ以上の学位を有しているハイスペ女性(40〜44歳)に限ると、2014年時点で全体の20%が子ナシですが、その割合は20年前の1994年と比べて15%もダウンしているとのこと。

つまり、20年前は3人に1人以上が「子ナシ」だったのが、今は5人に1人になっているんですね。先ほどの「0.2%」の差ではふーんと冷ややかに反応する他ありませんが、これほどの差なら俄然興味が湧いてきます。

産むなら「1人より2人」の傾向が

さらに学歴別に見ていくと、スペックが上がるほど「子ナシ」はここ20年で劇的に減少しています。

学部卒:24%→19%
修士課程修了:29%→22%
博士課程修了:35%→20%

特にドクター(博士課程)の女性の変化には目を丸くしてしまいます。

なんで!?

アメリカでドクターを取得するのは並大抵のことではないはず。とてもじゃないけど、子供を産んだり育てたりするヒマなんてないでしょう……。

読み進めていくと、ハイスペ女性の間では「子供を持たない」と考える人の割合も顕著に減っているんだとか。キャリアの邪魔になるから子供は産まない。そういう価値観は最近のアメリカでは廃れ始めているみたいです。しかも、アメリカのハイスペ女性は、ただ産むようになったのではないんです。「1人」ではなく「2人」産む傾向が強まっているというからさらに驚きです。

「キャリアか子供か」の二択はもう古い

残念なことに、日本に関しておもしろいデータは見つかりませんでしたが、今回紹介したアメリカのデータには深く考えさせられました。

「ハイスペ女性ほど、子供を産むようになっている、しかも2人も!」

この、自分の直感と真逆の現実について、どう考えたらいいのでしょうか。自分の中ではうまく消化できないので、Rちゃんの連絡してみました。

私:「このアメリカのデータ、どういうこと?」

R:「うーん、たぶん、ハイスペ女性ほど『キャリアか子供か』の二択で考えなくなってるってことじゃないかな」

私:「つまり、キャリアを捨てないことを前提に、子供も産んで育てるようになってると?」

R:「そうそう。着々とキャリアアップもしながら、何歳までに1人目産んで、2人目は絶対に3年以内に産むというふうにキッチリ計画的にやることで、ハイスペ女性は、自分のキャリアを守るようになったんだと思う」

私:「なるほどー! 妊娠・出産・育児もキャリアを続けるプロジェクトの一部として、着々と遂行するってことか」

R:「まさに、プロジェクト化。何を隠そう、私もそうだったんだよね」

私:
「わかる〜、私もキャリアの邪魔にならないように綿密に計画して産んだもん。3ヵ年計画、立てました」

R:「でしょ。だから、それが2017年を生きるハイスペ女性の心理なんじゃないかな」

女性の中で思考が反転し始めている?

私は京大の学部卒で修士課程中退、Rちゃんは国立大学で博士号を取得したリケジョです。世の中的にはハイスペ女性に分類されるであろう、そんな二人が口を揃えた「妊娠・出産・育児のプロジェクト化」。

「妊娠・出産・育児がキャリアの邪魔になる可能性」を、持ち前の綿密な計画性と慎重な実行力によって徹底的に取り除いて、欲しいものはすべて手に入れてみせる。子供の頃から自分に課されるありとあらゆるハードルを、努力によって着実に乗り越えてきた、ハイスペ女性特有の執念がそこには現れていると言えるでしょう。

「子どもを産まない女性はIQが高い」は本当か?

冒頭の話に戻れば、この問いの立てかた自体がもう古いのかもしれません。

「頭がよくてリスクを計算できるから、産まない」ではなく、「頭がよくてリスクを計算できるから、計画的に産む」というふうに、女性の中で思考が反転しつつあることを、今回紹介したデータは示していると言えそうです。

(ウートピ編集長・鈴木円香)