僧侶や参拝者が心身を清めるために宿泊する、お寺や神社の宿泊施設が「宿坊」です。宿坊はいろんなお寺や神社にあり、現在ではホテルのような近代的な施設も存在するのですが、京都の妙心寺には境内にある沙羅双樹の庭が有名な塔頭「東林院」で宿泊することができ、しかも精進料理人として有名な住職による朝・夕の精進料理も味わうことが可能ということで、実際に行ってきました。

東林院の宿坊に宿泊するには、まず電話(075-463-1334)で予約をした上で、往復はがきに宿泊日・宿泊人数・連絡先・夕朝食の有無などを書いて送る必要があります。しばらくすると、以下のような返信はがきが到着するので、これで予約は完了です。今回は一泊二食つきなので1人あたり6480円ですが、一泊朝食付だと5400円です。



東林院は京都市右京区花園妙心寺町にある臨済宗妙心寺の塔頭の1つなので、妙心寺の境内にあります。京都観光・旅行のウェブページでは以下のような地図が公開されていたりしますが、この地図に従うと、実は到着できません。

こんな感じで、お寺は見えているので行き止まりでたどり着くことができない……!という状態になります。近所の人に聞いたところ、上記の地図のB地点にはもともと東林院に行ける橋があったそうなのですが、現在は封鎖されているとのこと。



ということで、妙心寺の南門から入っていきます。



門をくぐってすぐのところに地図があり、見てみると……



南門から入ってまっすぐ進み、ぐるっと右回りしたところに東林院があるようです。



境内をまっすぐに進むと……



曲がり角を発見。矢印は「微妙殿」「花園会館」「涅槃堂」を指しており、東林院の文字がないので不安になりますが、とりあえず曲がってみます。



道なりに進んだところは……



行き止まり。



……かと思いきや、「東林院」「沙羅双樹の寺」の文字を発見。どこから入るんだろう……と戸惑っていると……



夜間入口が開くことが判明。到着する前から冒険っぽいわくわく感を味わえました。



中はこんな感じ。



入り口。



建物の中に入ると、お店に入った時のような「ピロピローン」という音が鳴り響きますが、特に何も起こりません。「ご用の方はこの鐘を鳴してください」ということで鳴らしてみると、宿の女性が対応してくれました。



ということで靴を脱いで中へ。建物の中は古く趣があるのですが、埃一つ落ちていません。窓も曇りなく磨かれていて、入った瞬間から「清らかだ……」という感想がこぼれ出ます。



ここが受付。宿泊の際はまずここで宿帳を記入します。



また、宿坊の女性は普段は奥の部屋にいるので、何か用がある場合は受付の壁に取り付けてあるボタンを押す必要があるとのこと。





東林院の住職である西川玄房さんは、精進料理人として有名で、何冊も本を出しています。この受付では西川さんの本を見たり購入したりが可能でした。



中はこんな感じ。精進料理といってもカレーのレシピがあったりと、家庭でも作れそうなメニューがずらり。夕方とあって、読んでいるとお腹がすいてくるとともに、夕食への期待が高まります。



また、東林院は沙羅双樹の銘木でも有名。梅雨時は写真のような、雨に打たれて地面に落ちた沙羅双樹の華の風情ある様子が眺められるそうです。



受付を進むと回廊。木造建築と緑のコントラストの美しさにテンションが上がります。



回廊の隅っこには公衆電話が置かれていました。



この庭には「飛龍の宿木」があります。なぜこのような名前なのかというと……



木がまるで空を飛ぶ龍のように庭をぐるっとながーく伸びているから。



再び建物の中へ。



今回宿泊するお部屋は「蓬莱の庭」に面した突き当たりの「大徳」の間でした。





部屋はこんな感じの6畳一間。



部屋の隅っこには寝具が重ねてあり……





冷暖房完備。宿坊といっても修行のように寒さに耐える必要はないようで、一安心。



壁には非常灯・鏡・エアコンのリモコン。



「日々是好日」の掛け軸の前にコートをかけられるようになっていました。



コンセントも2口あったので、スマートフォンなどの電子機器の充電も問題ありません。



ちなみに、部屋の入り口のふすまは、左右両側にちゃんとカギがついています。





テーブルの上には建物の見取り図と、お茶、お菓子が置かれていたので……



お茶とお菓子を食べつつゆったりすごします。テレビもなく、本当に音のない静かな空間なので、読書にも持ってこいです。



夕食は6時となっていて、準備ができると館内放送で「○○さん、お食事の準備ができました。建物入り口のお部屋にきてください」というような内容が流れてきます。どこで食事できるのか不明のまま入り口付近に行ってみると、少しだけ明かりのついた部屋の戸が開いていました



中に入ってみると、真っ赤なお膳の上に、同じく赤い器に入った料理が並んでいます。この時点でふわりとだしの優しいいい香りがして、「普段の食事の肉!脂!のいい匂いとは全然違う……!こんな種類のいい匂いをかいだのは久しぶり……!」と感極まります。



お膳の上には「食事五観文」と書かれた紙が置かれていました。「食事に費やされた人の手数や労力を思い、天地自然の恩恵を忘れないように」「飲み過ぎ、食べ過ぎの心を起こさないように」「食事は心身の枯死を免れる良薬と思って」など、食事に対する心がけや作法が書かれています。作業と作業の間に飢えを逃れるために慌てて食べる、という生活を送っていると、忘れがちなことなので、改めて読むと「なるほどなあ」となりました。



メニューは一汁五菜の七品目。



ご飯はおひつに入っていて、自分で好きな分だけよそいます。



よく見ると箸袋にも沙羅双樹の花が描かれていました。



汁物は湯葉・みつば・しめじの吸い物。精進料理という言葉から、何となく薄味の料理をイメージしていましたが、だしが非常にしっかりしていることに驚きます。しかし、だしの香りは優しいので、三つ葉の香りを殺さず、「繊細ってこういうことか……」と思ってしまう一品。



がんもどきはしいたけやインゲンと一緒に煮られていました。



がんもどきにはれんこん・にんじん・ごま・ひじきなどが入っていて、シャキシャキとした根菜と柔らかな豆腐という複数の食感が組み合わさっています。お吸い物を飲んだ時も驚きましたが、これもご飯のよく進む味付け。いつもであればなんとなしに食べているがんもどきですが、ゴマの香りもよく、1つ1つの素材の味が感じられます。椎茸も、椎茸だけをおかずにご飯が食べられるほど旨みのあるしっかりした味でした。



厚揚げ・にんじん・ごぼうの煮物。



にんじんは皮付き。同じ出汁を使った煮物ですが、風味は違っていて、がんもどきよりも優しい感じでした。



さっぱりとした人参と大根のなますと……



菜の花のおひたし。



お漬け物など。これも、手前はたくあんなのですが、奥は刻んだ大葉のよい香りがするお漬け物でした。



とにかく全てがご飯に合う味付けなので、白米がどんどん進み、普段はそこまでご飯を食べない編集部員もついついおかわりしていました。お肉や卵など動物性食材を使っていないにも関わらず物足りなさは全くなく、毎日食べたいぐらいです。



最後はおわんをすすぐ意味も兼ねて、ご飯のお茶わんでお茶を飲みます。



食事を終えた頃にはすっかり暗くなっていました。



部屋に戻って作業していると、再び館内放送が流れます。「○○さん、お風呂の準備ができました。速やかに入ってください」とのことで、割と忙しいのですが、修学旅行感があって非常に楽しめます。



お風呂はこんな感じ。入浴は8時半までに済ませてください、とのことです。今回宿泊した時は、編集部員の他の宿泊者は1人でしたが、他にも宿泊者がいる時は少し時間に押されるかもしれません。



脱衣所はこんな感じ。



扉を開くと、ふわ〜っと広がる木の香り。



湯船は一度に3〜4人が入れそうな大きさで、ちょっとした温泉っぽい感じ。



洗い場はこんな感じ。蛇口は3つありますが、シャワーは1つ。また、シャンプーはなくせっけんのみで、お風呂場には書かれていませんでしたが、洗髪はNGという情報もありました



お風呂に入ったら、あとは寝るだけ。就寝は22時となっており、「就寝も館内放送が流れるのだろうか……?」と思いきや、放送はありませんでした。もちろんうるさくするのはだめですが、その辺りは本人の裁量のようです。とはいえ、せっかくの宿坊体験なので、22時に布団に入って眠ることにしました。



ということで、早朝。起床は6時となっていましたが、これも特に放送があるわけではなく、起床時間は各自の自由の様子。しかし22時に就寝しているので、朝6時に起きるのもラク。しかも、空気が澄んでいて、起きるとむちゃくちゃすがすがしいです。



トイレはこんな感じ。



「昼間は電気不要 消してください」という張り紙が貼られています。館内にはこのような張り紙が至るところにあり、節水や節電など、とにかく無駄を省くことを徹底しています。



個室の扉は4つありましたが、うち2つは使用禁止となっていました。





女性用トイレには和式と洋式の両方がありました。



顔を洗ったり歯を磨いたりする洗面台はこんな感じ。これもタイルに曇り一つなく、「美しい」と表現したくなります。





ちなみに、トイレの近くには「添菜寮」という部屋があります。訪れた日は締め切られていましたが、ここで精進料理の料理教室も開かれているそうです。



宿坊というと、「朝のお勤めがあるのでは?」と思っていましたが、東林院の場合は、お勤めは自由・かつセルフでした。





お勤め道場の中には読経の心得ややり方が書かれていて……



般若心経の経文を見ながら、見よう見まねで読経します。



また、庭に面したところに十分なスペースがあるので、座禅したりヨガしたりと自由に過ごせそうでした。



扉には鍵が掛けられていますが、カギを外して自由に外出することも可能なので、朝のお散歩をしてもOK。



空気が澄んでいて、ほとんど物音がしない静かな空間なので、ぼーっと散歩したい人にぴったりです。



地面に敷かれている石畳は長方形と菱形が交互になっていてユニーク。



石畳に沿って進むと、宿泊している部屋が面している、蓬莱の庭に到着。梅が咲いていたり、鳥の声が聞こえたりという様子を満喫できます。



朝食は7時30分から。これも、館内放送が流れるので、夕食を取った場所へと向かいます。



朝食はこんな感じ。朝も夜と同じく、一汁五菜の七品目でした。



ご飯と……



水菜と油揚げをゴマであえたもの。水菜のシャキシャキした食感とゴマの香りが感じられる一品で、優しい味付けでした。



かんぴょうの煮物だと思われるもの。



里芋・ふき・高野豆腐の煮物。優しい色合いですが、味付けはしっかりしていて、特に里芋は中までしっかり味が染みているので、ご飯のお供です。



梅干し・たくあん。



のりとしょうゆ。



みそ汁の中には木綿豆腐・にんじん・大根が芸術的なまでの正確さでさいの目切りされたものが入っています。具材はみその茶色がうつるほどに煮込まれていて……



やはり朝からご飯がモリモリ進みます。



このほか、建物の中には美しい絵付きの扉があったり……



巨大な沙羅の数珠



こま犬も発見。



竹筒に耳を当てつつ水のしたたる音を楽しむ「壺天」



「放寛坐」というところには……



畳敷きの和式便所。



「ご自由に……」と書かれたハンマーなどもあり、一泊すると、歴史情緒のある建物を楽しめ、おいしい精進料理も食べられ、煩わしいことを全てを忘れてゆったりすることが可能。お寺などが好きな人であれば確実に満足できそうでした。