楽しく生きてるだけ――連続投資小説「おかねのかみさま」【第一部完】
みなさまこんにゃちは大川です。

『おかねのかみさま』70回めです。

今回で第一部完結です。

※⇒前回「イイヤツ」

〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
村田(村) 健太が師と崇めるノウサギ経済大学の先輩。元出版社勤務
ママ(マ) 蒲田のスナック「座礁」のママ。直球な物言いが信条
学長(学) 名前の由来は「学長になってもおかしくない歳のオッサン」の略

〈第70回 ラストチャンス〉
---0:41 スナック 座礁

死「ゴメンクダサーイ」

マ「あらいらっしゃい!」
学「お!けんたのともだち!どうしたんじゃ。ひとりか?」

死「ハイ」

村「ひさしぶり。まぁすわんなよ」

死「アリガト!!!」

ヨジヨジヨジヨジ…

マ「やっぱりかわいいわね…」
村「あぁ…」
学「まったくだ…」

村「で、健太はちゃんと働いてるか?」
死「ンー、ソウネ」
村「そりゃよかった」

マ「今日は一緒じゃないの?」

死「オキャクサンニ、ノマサレテ、ツブレタ…」

マ「あー」
学「ま、そういうこともあるじゃろ。彼らしいといえば彼らしい」
マ「そうねぇ…」

村「ガミちゃん、なにのむ?」

死「リョクチャハイ!!!」

マ「はーーーい♡」

死「アリガト♡」

学「がみちゃん。なんか、こう、銀座のおもしろい話とか聞かせてくれるかの。わしゃもうこいつらのトロンとした話題に付き合うのに疲れてたとこなんじゃ。なんかこう、企業戦士の最前線とか、政財界の癒着とか、ガーターストッキングから拳銃をちらつかせる女スパイの話とか」

村「ジジイ。おまえの銀座観ってなんか昭和っぽいんだよ」

学「そ、そうかな」

死「ンー…」

村「…」

死「ムラタ」

村「な、なんだよ」

死「シバラクイッショニクラソウ」

村「は?」

死「シバラク」

村「いっしょに?」

死「クラソウ」

学「………」
マ「………」

死「……………」

村「………たしか…あれだよな。お前はシニガミで、人生が波乱万丈になる奴の横にくっつく…」

死「コクリ…」

村「………そうか」

マ「そんな、ね、まぁ、別に、あれでしょ!なにもひどいことばっかり起きるようになるってわけじゃないでしょ? だってほら、健太くんだってまだ生きてるし!」

学「そうじゃ。けんたくんはどうするんじゃ?」

死「ンー、キープ」

マ「似合う…」
学「似合うなー」

村「……そうか。実際な、俺心配してたんだよ」

マ「なに?」

村「俺な、このまま特になにもなく、死んでいくのかなって思ってた。会社いって仕事して、酒のんで、朝起きて、会社いって、仕事して、酒のんで、朝起きて。俺さ、出版社つとめてただろ。いろんな派手な連中見てきたんだよ。もちろん尊敬できる奴ばっかりじゃないけどさ、正直どっかで羨ましかった。その度に自分が守られてる世界を言い訳に納得してきたんだけどな、そんな世界も突然なくなって、気づいたらかろうじて生きてる感じになったんだ」

死「……」

マ「でも楽しく生きてるだけじゃだめなの?そりゃさ、お金持ちってわけじゃないけどさ、むらちゃん私から見てもまいんち楽しそうよ」

学「ママな、ちがうんじゃ」

マ「なぁに? なにがちがうの?」

学「村田が巻き込まれようとしてる世界はな、自分に言い訳もしなくていい世界なんじゃ」

死「オー」

マ「なぁにそれ?」

学「例えばな、いいくらしとか、いいくるまとか、いいおうちとかは結局誰かと比べるだけの話なんじゃ。勝ったとか負けたとか、小さい池の中で優劣を競ってるだけのことじゃ。つまりその小競り合いに勝つために貴重な時間を割いて、いろんなモノや立場を自分が費やした時間の言い訳にしてる。世の中はそんな連中の佃煮じゃ。でもな、いまここでガミちゃんが現れたということは、このアホ面中年ボーイにはじめてのチャンスが訪れたということじゃ。つまりあれじゃ。何言うか忘れた」

死「エヘ」

マ「なんとなくわかるような気もするけど、平和が一番なんじゃないのかしらねぇ…」

学「それもわかる」

村「まぁ…あれだな…。これはきっと…最後のチャンスなのかもな……。よろしく」

死「オウ」

第一部 完

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

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〈イラスト/松原ひろみ〉