今年8月にロンドンで行なわれる世界選手権の女子マラソン代表が17日に発表され、重友梨佐(天満屋)、清田真央(スズキ浜松AC)、安藤友香(スズキ浜松AC)の3名が選出された。選考会を振り返っても順当なメンバーが選ばれたと言っていい。


名古屋国際女子マラソンで結果を残し代表に選出された安藤友香(左)と清田真央(右) 選考会の第1弾となった昨年8月の北海道マラソンで、優勝した吉田香織(TEAM RXL)の記録は、2時間32分33秒。第2弾の11月の埼玉国際マラソンでは、全日本実業団駅伝を2週間後に控えていたため有力選手は出場せず、日本勢は5kmで先頭集団から大きく遅れる展開で日本人トップが2時間33分16秒と、選考タイム(2時間22分30)には遠く及ばない結果となった。

 こうした状況を受けて、女子マラソンオリンピック強化コーチの山下佐知子氏を中心にレース展開を再考し、”ネガティブスプリット”を大阪国際女子マラソンから採用。これは前半のペースに余裕を持たせることで、後半に勝負ができるようになる走りだ。

 その結果、大阪では2012年ロンドン五輪代表の重友梨佐(天満屋)が2時間24分22秒で5年ぶりの優勝を果たした。しかし、これでも世界選手権出場に向けてギリギリな記録。リオデジャネイロ五輪代表の伊藤舞(大塚製薬)は2時間32分15秒で11位と期待を裏切った。さらに、リオデジャネイロ五輪代表の福士加代子(ワコール)と田中智美(第一生命)は世界選手権出場を目指さず、選考レースにも出てこないという状況。20年東京五輪も控える中、日本女子マラソン界に暗雲が立ち込め始めていた。

 そんな暗い雰囲気を一変させたのが、3月12日の名古屋ウィメンズマラソンだった。

 大阪と同じく”ネガティブスプリット”で、ハーフを1時間12分00〜30秒で通過するペースメーカーと、2時間21分台の大会記録を目指すリオ五輪銀メダリストのユニスジェプキルイ・キルワ(バーレーン)を引っ張るペースメーカーがいる、2段構えのレースになった。

 昨年の名古屋を2時間24分32秒で4位になった清田真央(スズキ浜松AC)に加え、清田のチームメイトで世界ハーフ日本人1位になっている安藤友香(スズキ浜松AC)と石井寿美(ヤマダ電機)という初マラソンのふたりも、ハイペースで走るキルワが率いる先頭集団について積極的なレースをした。

 その中で石井が9km過ぎから遅れ始め、19km付近では清田も遅れ出した。だが安藤だけは「15〜20kmの間で苦しい時もあって、不安になった」と言いながらも、ラップタイムを気にせず、キルワにつくことだけを考えて、中間点を1時間10分21秒で通過。ふたりだけになったあとも27km過ぎと30km過ぎのキルワの揺さぶりに耐え、途中ではキルワから「横に並べ」と手で合図されるほどだった。

 高橋尚子は00年シドニー五輪で26km過ぎからリディア・シモン(ルーマニア)との並走になった時のことを、「一緒に走っているのがすごく気持ちよくて、このままずっと並んで走っていきたいと思った」と話していたが、安藤も初マラソンでそんな気持ちよさを感じて走っていたのかもしれない。

 結局、33km過ぎからキルワが1kmを3分15秒に上げた仕掛けには対応できず、35km通過時には7秒差をつけられた。しかし、そこからも大崩れすることなく、ラスト2.195kmもキルワに1秒遅れるだけの7分21秒で走り、19秒遅れの2時間21分36秒で2位ゴール。

 坂本直子が03年の大阪国際女子マラソンで出した、初マラソン日本最高記録を15秒上回る、日本歴代4位の記録だった。日本陸連の派遣設定記録2時間22分30秒を大きく上回り、即時内定も決まった。

 今夏のロンドンを考えると、安藤、清田、重友の3人の中で、最も期待されるのはやはり安藤だろう。2時間21分36秒は昨年の世界ランキングでは6位に相当する記録になる。足と地面の接地時間が短いことでブレーキがかからず、ロスのないフォームはまさにマラソン向きの走り。名古屋では欲を持つことなく、キルワについていくことだけを意識して走れたことが好結果につながった。世界選手権では、スローペースになった場合に揺さぶりも激しくなる前半を耐え、名古屋と同じような気持ちで淡々と走って最後まで失速しなければメダル圏内に入れる可能性は高い。

 だが、世界選手権で恐いのは無欲で臨めた初マラソンと違い、心の中に「結果を出したい」「結果を出さなければ」という気持ちが生まれてしまうことだ。それはレース本番だけではなく、そこまでの練習過程にも出てきてしまう。もちろんそんなプレッシャーを乗り越えて結果を出すのが本物の強さだが、世界選手権へ向けての練習をいかに初マラソンのときと同じく淡々とこなせるかがカギになる。

 日本勢がメダルの常連だったころは、選考レースでの好結果がそのまま選手たちの自信につながり、本番でも結果を残せていた。ところが近年は、アフリカ勢の強さがクローズアップされる上に日本がメダルから遠ざかっていることで、選手たちも国内レースでの結果を自信に変えられていないように見える。1回の経験で自信を持つことは難しいかもしれないが、自分が残した結果への信頼感をより高めることが、本番で結果を出すための重要なキーポイントになるはずだ。

 清田も名古屋の走りを再現できれば、世界選手権での入賞も見えてくる。また、重友はまだ完璧な練習ができていない中での復活劇だっただけに、ここからどう仕上げていくかが課題になる。12年ロンドン五輪では、故障の影響もあって79位と惨敗した。今回の世界選手権がロンドン開催ということもあり、メディアは「リベンジの大会」と言うだろう。それでも重友には、リベンジではなく「新たな大会」という気持ちで臨んでほしいと思う。

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