プリンスへのトリビュートを思わせ過去最高にポップな、スプーン『Hot Thoughts』(Album Review)

写真拡大

 テキサス州オースティン出身のスプーンと言えば、捻れたポップ・マインドを表出することで、長らくオルタナティヴ・ミュージック・ファンの支持を集め続けてきたバンドだ。かつてはメインストリーム・ポップの華やぎとは一線を画す姿勢で、いかにもカレッジ・ラジオ映えするような作品の数々を残してきたわけだが、2010年代に入って何か狂い咲きするように、よりキャッチーで懐の深い表現を繰り広げるようになった。

 この3月17日にリリースされるスプーンの最新アルバム『Hot Thoughts』は、『Tranceference』(2010・USビルボード最高4位)、『They Want My Soul』(2014・同4位)に続いて、より多くの人々に訴えかけることになりそうな作品だ。リード曲のタイトル・チューン「Hot Thoughts」は、<君の白い歯が、今夜この渋谷の哀しきストリートを明るく照らし出す>と歌われる、意味深で悩ましいファンキー・ポップである。タイトなグルーヴといい、効果的に配置されるキーボード・サウンドの彩りといい、スプーンの批評性が絶妙に織り込まれた一曲となった。

 浮遊感たっぷりのシンセ・リフを巻いて突き進むロック・チューンの「WhisperI’lllistentohearit」。あるいは、ダンサブルなビートをキープしながらも深い情緒を湛えた「First Caress」や「Pink Up」。かつてないほど若々しくバイタリティに満ち溢れ、同時に奥ゆかしく人間臭い息遣いが、『Hot Thoughts』のスプーンには感じられる。「Can I Sit Next To You」の深いファンキー・グルーヴとファルセット歌唱には、胸をかきむしるような思いが立ち込めている。

 ここで思い当たるのは、昨年惜しくも他界したプリンスの表現世界である。プリンスは、狂おしく悩ましい思考とシンクロするグルーヴとしてファンク・ミュージックを捉え、民族性を越えたところでより普遍的な価値を見出そうとしてきたアーティストだった。長い活動キャリアを持つスプーンが、自分たちなりに、同時代に生きたスーパースターの遺志を解釈してみせようと試みることは、充分にありえる話だ。多様なキーボード・サウンドは、プリンスのミネアポリス・サウンドに寄せるトリビュートなのかもしれない。

 結果的に『Hot Thoughts』は、極めてフレッシュで普遍的なラヴ・ソング集となった。思慮深く、人間味豊かなポップ・ミュージック。それを、20年以上のキャリアを誇るスプーンが、過去最高にキャッチーな形で鳴り響かせたことが、とても感動的だ。若いリスナーにもぜひ触れてほしい作品である。(Text:小池宏和)


◎リリース情報
『ホット・ソーツ』
スプーン
2017/3/17 RELEASE
2,200円(plus tax)
※ボーナス・ディスク、解説書、歌詞対訳付き
http://apple.co/2jlWazF