バルセロナの快晴の空の下、フェラーリのサインボードには「L65」の文字が掲げられた。メインストレートを通過するマシンに「残り65周」、つまりこれからぶっ続けのフルレースシミュレーションを行なうことを示すサインだ。


バルセロナ合同テストで最速タイムを叩き出したのはフェラーリ 計8日間にわたって行なわれてきた2017年の開幕前テストの「最後の2日間」。コース上ではいくつものチームがこのレースシミュレーションを行ない、バルセロナは疑似レースの様相を呈していた。

 連日タイムシートの上では驚異的な最速タイムを叩き出していたフェラーリだったが、余計なバラスト(重り)を降ろし、規定重量以下にしてブラフをかけているのではないかという声も少なからずあった。スポンサー獲得のためや社内の政治的理由から、非公式セッションである開幕前のテストでは昔からしばしば行なわれてきたことだったからだ。たとえば10kg軽くすれば、ラップタイムは0.3秒ほど速くなる。逆に、ライバルを油断させるため意図的に燃料を多く積んで”三味線を弾く”ケースもある。

 しかし、フルレースシミュレーションともなれば、そんなブラフは通用しない。規定違反状態のマシンで1時間半にも及ぶ時間を丸々無駄にするような馬鹿げたことはできず、そもそもタンクいっぱいの燃料を搭載して走り出すしかないからだ。

 つまり、レースシミュレーションのタイムを見れば、各車の実力はほぼ丸裸になってしまうのだ。

 そんな裏側を知っているパドックの関係者たちは、そこでフェラーリがどんな走りを見せるのかに注目していた。

 3日目にセバスチャン・ベッテル、4日目にキミ・ライコネンがステアリングを握ったフェラーリSF70Hは、ここでも驚異的なタイムを並べてみせた。

 1分24秒652でレースをスタートしたベッテルは、そのまま10周にわたって24秒台を並べ、1分25秒フラットから1分25秒255まで落ちた16周目にピットイン。ほぼ同時に同じソフトタイヤで走行を開始したレッドブルのダニエル・リカルドは、1分26秒307から始まり、1分26秒前後のペースで走行するが、10周目からペースが鈍り1分26秒844まで落ちて、13周目にはピットインを余儀なくされた。

 この時点でベッテルはリカルドより毎周1.0〜1.5秒も速く、第1スティントだけで12.5秒もの差をつけたことになる。まさに、昨年のメルセデスAMGとその他大勢のような差だ。

 翌4日目のライコネンも、スーパーソフトを履いて1分24秒510から始まり、1分25秒台中盤を安定して刻んで17周目までもたせてしまった。

 レース本番さながらのピットストップでタイヤを交換して走り始めた第2スティントでは、フェラーリがソフト、レッドブルがミディアムと分かれたこともあって、差はさらに開いた。ライコネンが1分23秒台中盤から24秒フラットのタイムを刻んだのに対し、リカルドは依然として1分26秒フラットのタイムしか刻むことができなかった。フェラーリの圧勝だったのだ。

 レッドブルはルノー製パワーユニットの信頼性に問題を抱えており、パワーユニットの設定をかなりコンサバティブなモードにしていた可能性が高い。テスト2日目にMGU-K(※)のトラブルに2度見舞われながらも、レースシミュレーションを残り2周のところまで走破したマックス・フェルスタッペンは、リカルドよりは幾分マシなタイムを刻んでいた。

※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギー回生システム。

 それでも走り始めは1分25秒589で、11周目には1分26秒台まで落ちて13周目にピットイン。ミディアムを履いた第2スティントでは1分25秒342から始まって、リカルドより0.4〜0.5秒ほど速い1分25秒台後半のタイムに終始した。最終スティントでは、フェラーリがミディアムで1分23秒台中盤のタイムを並べたのに対して、フェルスタッペンはソフトでも同じタイムが精一杯。リカルドは1分24秒台でしか走れなかった。

 このタイムを見たメルセデスAMGのルイス・ハミルトンの表情は曇っていた。

「フェラーリがとてもポジティブに見えるのは明らかだし、あれがブラフだとは思わないよ。本物の速さだと思う。彼らはそれだけすばらしい仕事をやってのけたということさ」

 それでもベッテルは、あくまで慎重な姿勢を崩さなかった。

「僕らは自分たちのプログラムをこなそうとしているだけだよ。そのなかで速いタイムを記録するときもあれば、少しゆっくり目のペースのときもある。みんなは1日の終わりにベストタイムのタイムシートだけを見てあれこれ言うけど、それで何かが得られるわけじゃない。もちろん上のほうにいるのは悪いことじゃないけど、ここで最速だったとしてもポイントはもらえないんだからね(苦笑)。目的は自分たちのプログラムをすべてこなすことなんだ」

 では、王者メルセデスAMGのレースペースはどうだったのか?

 彼らはテスト第1週の2日目から早々にレースシミュレーションをこなした。しかし、この第2週には大幅にアップデートしたマシンの評価作業だけを淡々と行ない、手の内を明かさなかった。本格的なタイムアタックも行なわなければ、レースシミュレーションも行なわなかったのだ。

「僕らはこのテストの期間中、このクルマを理解し、最大限の性能を引き出すことだけに集中してテストプログラムを進めてきた。完了できなかった項目はないよ。タイムは僕ができるかぎりの走りで出したものだよ。これ以上速く走れるなんて思いながら走ったことなんて一度もなかった。でも、もちろんそこには燃料搭載量やエンジンモードといったようなタイムを遅くしている(テスト項目による)いろんな理由があるんだけどね」(ハミルトン)

 前週のハミルトンのレースシミュレーションは ソフトで1分25秒384から始まり、25秒台前半を刻んで21周も引っ張っても1分26秒180までしか落ちなかった。ミディアムの第2スティントは1分25秒フラット前後を刻み、最終スティントはソフトを履いて1分22秒216という非常に速いタイムで始まり、4周後から23秒台をキープしてフィニッシュ。

 これは、前半がフェラーリよりわずかに遅く、終盤は速いというペース。彼らが全力で走ったときにフェラーリ以上の速さを見せることができるのか。それについてハミルトンは「わからない。そう願っている」とだけ答えた。

 アタックラップのベストタイムを比べてみると、フェラーリはあらゆるコンパウンドのタイヤで最速で、その次にメルセデスAMG、少し差があってレッドブルとウイリアムズがほぼ同等。そして、その後ろの中団勢ではトロロッソがやや抜け出し、フォースインディア、ルノー、ハースと続き、振り向けばマクラーレン・ホンダの後ろにはザウバーしかいないという状況だった。

 レースシミュレーションを行なったチームだけでいえば、レースペースではフォースインディアとウイリアムズがほぼ同等、トロロッソはそれらよりやや遅く、ハースはやはりレースペースでも彼らには敵わない。トラブル続きで十分な走り込みができていないルノーやマクラーレン・ホンダは、本格的なロングランができないまま開幕前のテストを終えてしまっている。

 バルセロナでぼんやりと見えてきたこの勢力図のなかに、王者メルセデスAMGの実力がどう描き加えられるのか――。来週末の開幕戦オーストラリアGPですべてが明らかになる。

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