小池百合子都知事

写真拡大

 次々に敵役を替えながら、勧善懲悪の三文芝居でファンを虜にしてきた「小池劇場」。だが、ヒロインである小池百合子都知事(64)すら知らぬ間にシナリオは狂い始めた。かつての名ゼリフの数々がいま、ブーメランとなって彼女の胸に突き刺さろうとしているのだ。

 ***

「敵役」に仕立て上げた石原慎太郎元都知事を完膚なきまでに叩きのめし、百条委で豊洲移転問題の責任を押しつけて、来るべき都議選に圧勝する――。

 そんな「小池劇場」第2幕のシナリオに、綻びが生じ始めたのは明らかだ。

 2週に亘って小誌(「週刊新潮」)の独占インタビューに応じた石原氏が、今月3日に会見を開いたのはご承知の通り。

 その席上、石原氏はこう述べている。

小池百合子都知事

〈当時の最高責任者として豊洲市場への移転を承諾した。行政の責任が裁可した最高責任者にあること、これは私も認めます。しかし、現在の混迷・迷走に対する責任はいまの都知事、小池さんにあると思いますね〉

 これに対して小池知事は、

〈都民の皆さまからすれば“石原さんらしくないなぁ”という印象だけが残ったのではないか。ひとの責任と仰るのは簡単だが、もう少し客観的にご自分を見つめて頂きたい〉

 と、バッサリ斬り捨てた。ここまでは彼女にとっても想定内だっただろう。

 だが、「波乱」はその翌日に起きた。

■基準の79倍に当たるベンゼン

 都政担当記者によれば、

「4日に開かれた都議会の特別委員会では、過去に“地下水モニタリング調査”を担当した業者が参考人招致されました。当初は、目新しい証言が飛び出すとは考えていませんでしたが、9回目の調査を請け負った、湘南分析センターの統括部長による爆弾発言で議場の空気は一変。小池知事の周辺も“寝耳に水だった……”と漏らしていた」

 昨年11月以降に行われた「9回目」の調査では、別の業者が担当した過去8回の結果を大幅に上回る、環境基準の79倍に当たるベンゼンが検出された。

 この驚くべき結果が、「黒い頭のネズミ」狩りにだけは熱心な小池知事を小躍りさせ、豊洲移転に「待った」をかける決定打となったのは間違いない。

 しかし、それほど重要な最終調査を担当した業者が、ここに来て、「都に指示され、適切ではない方法で採水を行った」と「暴露」したのである。

 その詳細に触れる前に、モニタリング調査のシステムについて解説しよう。

■過去の調査手法との違い

 まず、調査には豊洲新市場内の201カ所に埋められた、直径5センチのパイプ状の「井戸」が用いられる。井戸には無数の穴があいており、土壌から滲み出した地下水が溜まっていく。その地下水を汲み上げて有害物質の濃度を調べるわけだ。

 ただ、調査前から溜まっていた水には雨水なども混じっているので取り除く必要がある。この排水作業を「パージ」と呼ぶ。1〜8回目の調査では、パージの翌日以降に、井戸に溜まった純粋な地下水を分析対象としてきた。

 だが、「9回目」の業者の証言は、そうした大前提を覆す内容だった。概説すると、

1.パージ(排水)から20〜30分後に井戸から採った地下水を分析するよう、都の「新市場整備部」の担当者から指示された。

2.同じく都からの指示で、1カ所の井戸ではパージした水をそのまま分析に回している。

3.初期の段階で異常に高い数値が出たことを報告したが、都は「1月上旬に文書で伝えるように」というだけで再調査の指示もなかった。

 素人目にも過去の調査手法との違いは歴然としている。槍玉に挙げられた格好の都は、「スピード感は重視したが、国のガイドラインからは逸脱していない」と反論。ちなみに「スピード感」は小池知事が好んで使うフレーズでもある。

 一方、京大大学院の米田稔教授(都市環境工学専攻)は都の弁明に首を傾げる。

「土壌汚染の水質調査において、パージした水をそのまま分析することは特別な場合を除いてはありません。また、東京都は再調査では1時間以上をおいて採水するという手順を公表しています。これらが守られたとしても採水条件が異なる場合は、過去の調査結果との単純な比較は困難となります」

 この点だけでも調査の信頼性を根底から揺るがす不祥事に他ならない。

■ガバナンスの欠如

 だが、それ以上に禍根を残しそうなのは、業者からの報告について、都側が「高濃度の値が検出されたことでの相談はなかった」と真っ向から否定している点だ。

「業者の発言が事実なら、構図としては小池知事が糾弾した“盛り土問題”と変わらない。あの時も担当者が情報を上層部に伝達しなかったことが事態を悪化させました」(先の記者)

 小池知事は盛り土問題が発覚した後の会見で、

〈最も大きな要因というのは、ガバナンス(統治)、責任感の欠如ということになります〉

 と述べ、市場長や新市場整備部長をはじめとする幹部職員を更迭している。

 だが、今回の不手際については、彼女自らが部長の交代を指示した、新市場整備部の関与が濃厚なのだ。

 無論、外部の業者によって、不適切な調査の実態が白日の下に晒されたこと自体、「ガバナンスの欠如」を非難されても仕方あるまい。彼女が好むもうひとつのフレーズ、「透明性」の観点からも疑問符がつく。

 かつて「都庁の女帝」は、

〈一旦発表した数値が違いましたという、そういうことを都庁がしたら致命的な話です〉

 と語り、石原氏にも、

〈細かいことは事務方がやっていた、他の者に任せていたという話でございますが、やはり細部のところも重要であって。いま問われているのは細部と、そして、リーダーの在り方の部分だろうと思います〉

 などと言い放っていた。

 いまやそうしたセリフの全てがブーメランとなり、華麗な放物線を描いてご自身に突き刺さろうとしているのだ。

 ちなみに、モニタリング調査を巡る不祥事について問われた小池知事は、

「今日は中に閉じこもっていたので(特別委での発言は)聞いていない。確認してみます……」

 と、いつになく歯切れの悪い回答。彼女の言葉を借りれば、都民の皆さまはこう感じているのではないか。

 小池さんらしくないなぁ、と――。

特集「インチキ調査!?『ベンゼン79倍』で小躍りの『小池都知事』に突き刺さったブーメラン」より

「週刊新潮」2017年3月16日号 掲載