専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第96回

 東京オリンピックの『ゴルフ会場問題』が佳境を迎え、当初の予定どおり霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)で決まるのか、はたまたどんでん返しがあって若洲ゴルフリンクス(東京都)に変更されるのか、手に”クラブ”を握る展開となってきました。

 テレビや新聞などでは、ふたつのコースをアクセスや収容人員、コースの規格などで比較していますが、正直言って、どっちもどっち、という感じです。それでも、霞ヶ関CCのほうが日本を代表するチャンピオンコースだと思いますが、ある人たちにとって、それはどうでもいいことなのです。

 その、ある人たちとはいったい誰か?

 それは、オリンピックのゴルフ中継を見る、視聴者のことを指します。特に、欧米の方々ですね。多くのオリンピック視聴者は、テレビ中継を見て、単純にエキサイトしたがっているだけです。

 じゃあ、どうやったらゴルフ競技を興奮して見ることができるのか?

 それは、視聴者と選手が難易度を共有し、一緒になって感動を味わえるかどうかが重要です。具体的に言うと、誰が見てもスリリングだとわかる、ウォーターハザードなどの巧みな配置です。

「580ヤードのロングホール。残り260ヤード、池越えで2オンなるかぁ〜!」

 こうした実況が聞かれる状況なら、非常にワクワクします。

 あるいは、周囲360度のうち、320度が池に囲まれているアイランドグリーン。これは、誰が見てもスリリングです。

 そういうレイアウトのほうが、白黒ハッキリして、見ている分には楽しいのです。やっている選手にとっては、たまったものじゃないですけどね。まあでも、オリンピックはスポーツの”ショー”ですから、勇者たちにはぜひ難関に挑んでいただきたいものです。


多くのファンが欲しているのは、スリリングな展開なんですよね さて、こういうウォーターハザード絡みのコースは、日本にもあるにはあります。ただ、そのほとんどはバブル期に造られたコースで、今や改修されてしまっているところも少なくありません。しかも、その改修が半端なく、簡単に言うと、距離を縮めたり、肝心の池を埋めてしまったり、その池を浅いバンカーにしてしまったり、といった感じでしょうか。

 オリンピック競技に使うなら、再度大改造の必要があります。その結果、以前このコラムでも紹介した(※2016年12月8日配信「大先生設計のコースでプレーしたくありませんか?」)、「東の井上誠一、西の上田治」という巨匠が設計した伝統的な林間コースが、試合会場の候補になりやすくなったのです。

 日本の巨匠が設計したコースは、プレーするうえでは、戦略性も、景観も、コンディションもよく、何ら問題はありません。けど、テレビ中継となると、難易度を伝えるのが難しいのです。

 実況で、「あの御神木を超えるには、高いボールで240ヤードを打たねばなりません。はたしてどうか?」って言われても、全部が緑色の林にしか見えませんからね。どんだけすごいショットが必要か、たとえそれが実践できたとしても、どんだけすごいショットだったのか、視聴者には伝わりにくいのです。

 その点、アメリカのウォーターハザード中心の戦略的なコースは、最初からテレビ中継を考慮して造られています。最初にテレビを意識してコースを設計したのは、ロバート・トレント・ジョーンズ・シニアと言われています。それ以前は、「加罰型」と言われる、ミスをしたらペナルティーを課せられる設計というか、そうした思想がメインでした。

 それに比べて新しいタイプのコースは、ウォーターハザードを越えてロングホールで2オンしたら、バーディー、イーグルのご褒美がもらえます。そういうコースは「英雄型」と言われています。

 その”英雄”を実践して、スター選手になったのが、昨年亡くなられたアーノルド・パーマーです。パーマーは、記録よりも記憶に残るゴルフをして、人気面ではジャック・ニクラウスさえも凌駕しました。

 ゴルフのテレビ中継が始まったのはちょうどその頃で、ショーアップされたウォーターハザードのコースは大人気となります。その思想は、ピート・ダイに引き継がれ、グリーンに乗せないとすべて池ポチャという、アイランドグリーンを完成させるに至ります。

 ところで、我らが巨匠・井上誠一先生は、林間コースばかり造っていますが、そういうウォーターハザード思想に乗り遅れたのでしょうか?

 実は、そんなことはないのです。昭和37年(1962年)、井上先生は欧米のゴルフ場の視察旅行に出掛けています。そして、多大な影響を受け、ウォーターハザードとテレビ中継の重要性を痛感するのです。

 外遊後、その完成形として代表されるコースが、愛知県の南山カントリークラブ(1975年開場)です。上がり3ホールは池絡みなど戦略的なコースとなっており、しかもその3ホールにはテレビ中継用のケーブルを埋設してあると、もっぱらの噂です。

 晩年、井上先生は体を壊して、ほとんど現場に足を運ぶことができませんでした。それでも、浜野ゴルフクラブ(千葉県)、スターツ笠間ゴルフ倶楽部(茨城県)、大原・御宿ゴルフコース(千葉県)など、池絡みで美しく、非常に戦略的なコースを造っています。

 だから、もうちょっとだったのです。井上先生があと10年長生きしていたら、日本でもオリンピックのテレビ中継に耐えうる、立派なウォーターハザードのあるコースができていたかも……。

 テレビ中継に関して言えば、ゴルフに詳しい人ほど、その視聴の本質をよくわかっていません。それは、プレーヤーや運営のことばかり考えているからです。

 オリンピックとなれば、何億人というごく普通の視聴者が「あの池を越えられるのかぁ〜」という、非常にわかりやすいシーンを期待しているのです。

 というわけで、東京オリンピックはどのコースに決まろうと、せっせと池でも掘りますか……って、もう遅すぎだってばぁ〜。

木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

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