「Thinkstock」より

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 コスト・マネジメントの手法に原価企画というものがある。これはトヨタ自動車が考え出した手法で、現在は世界中の多くの製造業に広がっている。

 原価企画とは、文字通り原価、すなわちコストを自らつくり出すというものだ。通常のコスト・マネジメントは、「発生するコストをどう管理するか」と受動的に考えるのが普通であるが、原価企画は「コストを自らつくる」と能動的に考えるところが画期的である。

 この考え方、実はキャリアや人生を考える上でも役に立つ。今回は、コスト・マネジメントの手法から人生訓めいたものを読み取ってみたい。

●コストをつくり込む

 まずは原価企画の説明から始めよう。

 人手による作業が中心だったかつての製造業では、製造現場における原材料の無駄遣いや作業効率などが管理上の大きな関心事だった。そこでは、原材料の使用量や作業時間などに目標値を設定し、その通りに労働者を働かせるノルマ管理が管理の主体だった。これは、製造段階でコストを管理する余地が多分にあったことを意味する。

 ところが製造現場において機械化、コンピュータ化が進んだ現在においては、原材料は正確に計量され、予定通りに消費される。人に取って代わったロボットは文句一つ言わずプログラムされた通りに作業をこなす。このように自動化が進んだ製造現場では、ノルマ管理の意味はほとんどない。すべての作業がほぼ予定通りに実行されるからだ。

 このことは、製造段階でのコスト削減余地がほとんどなくなってしまったことを意味する。機械化・コンピュータ化が高度に進んだ製造業においては、製造コストの90%以上が製造段階より前の製品企画や設計の段階で決まるといわれている。従来のように製造段階でコストをどうこうしようとしても手遅れなのだ。

 そこで登場したのが、原価企画である。原価企画では製品の企画・設計段階において目標コストを定め、それを実現するように使用する原材料や生産計画を徹底的に考えるのである。企画や設計というコスト発生の源流に遡って、「コストをつくり込む」ということだ。英語では「target costing」というが、コストを狙い通りにするニュアンスがよく出ている。

 この原価企画が、トヨタのコスト競争力を支えているのである。

●人生も自らつくるもの

「自らつくる」という点では、人生も似たところがある。人生には、病気や災害など、人間の力ではいかんともしがたいものがあるのは事実だ。抗うことのできない運命はしようがない。しかし一方で、自らの意思でつくれる部分もある。

 今年の正月も多くの方々から年賀状をいただいたが、そのなかで気になるのは、友人からの年賀状のなかにしばしば同じフレーズを目にすることだ。

 それは「相変わらず」というフレーズである。

「相変わらず研究所にいます」「相変わらず○○の開発をしています」「相変わらず○○会社で営業しています」等々。文面からは必ずしも満足していない様子がにじみ出ている。

 一方で、自ら立ち上げたビジネスでバリバリ働き、休暇で行ったと思われるイタリアやドバイと思しき写真を数多く載せてくる友人がいる。こちらはいかにも充実した日々を送っていそうだ。妬まれやしないかと心配になるくらいである(本人は本人なりにいろいろ大変だとは思うが)。

 後者の友人がなぜそのような人生を送っているかといえば、本人がそういう人生をつくってきたからだ。リスクを顧みず会社を辞めたのも、自らビジネスを立ち上げたのも、それを成功させたのも、すべて彼自身なのである。そうしようと決め行動したのも自分だし、何も行動を起こさずに相も変わらぬ日々に甘んじているのも自分自身だ。

「自らビジネスを立ち上げても、成功しなかったらどうするんですか?」と聞く人がいるが、「成功するかしないか」なのではない。「成功させるかしないか」なのである。主語はすべて自分なのだ。

 私は若い会計士から「どうやって独立したのですか?」という質問をときどきされる。そのときの私の答えはいつも決まっている。「独立しようと思ったから」。それ以外の答えはない。

 コストも人生も、すべてが自らの意思でどうにかなるものではない。むしろ、どうにもならないことのほうが多いかもしれない。だからこそ、どうにかなるところぐらいは能動的につくり込んでいくことが重要なのだと思う。

 実は、「どうにもならない」というのも、自分でそう思っているだけかもしれない。限界の多くは自分でつくっていたりもするのだ。

 言うほど簡単なことではないが、主語をすべて自分にしてみると、今よりも能動的に人生をつくっていけるかもしれない。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)