ハリルホジッチ監督は本田圭佑への信頼を強調する【写真:Getty Images】

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「若手は精神面で準備ができていない」。ハリルが示した懸念

 16日、日本サッカー協会(JFA)はロシアワールドカップアジア最終予選のUAE戦(アウェイ)およびタイ戦(ホーム)に向けた日本代表メンバーを発表した。ACミランの本田圭佑がメンバー入りするかどうかに注目が集まったが、日本代表の選手リストにはその名前が含まれていた。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はなぜ所属クラブで出場機会に恵まれない選手を代表入りさせたのだろうか。(取材・文:舩木渉)

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 W杯まで残り1年となった。ブラジルでの惨敗は記憶に新しく、時の流れの速さを感じさせる。

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、16日に行われた記者会見の冒頭で「我々はW杯に向かう最終直線に入りました」と語った。アジア最終予選は折り返しを迎え、1つの負けがW杯出場権獲得に向けて命取りになる状況だ。

 今回招集された日本代表メンバー25人の平均年齢は27.6歳(3月16日時点)で、ハリルホジッチ体制になって最も平均年齢の高いチームになった。昨年11月のオマーン戦に向けて選ばれた25人の平均年齢は26.9歳(2016年11月11日時点)で、わずか4ヶ月しか経っていないが、メンバー全体の年齢層が上がったことがわかる。

 ハリルホジッチ監督は記者会見の中で「経験」という言葉を繰り返した。昨年何度か若手を招集したことにも触れ、「もしかしたらまだ精神面で準備ができていないかもしれないと感じました」と語っている。

 アウェイであろうと勝ち星を落とせない状況を考えれば、より安定したパフォーマンスを発揮出来る経験豊富な選手たちを集め、過酷な環境でも“戦える”チームを作る現実的な考えは十分に理解できる。そしてアジア予選というチームの単純な実力差以上に苦しい戦いを切り抜ける力は、一朝一夕で身につけられるものではない。

「本田の代わりをできる選手がいるのか」

 ハリルホジッチ監督は本田圭佑や長友佑都ら、これまで長きにわたって日本代表を支えてきたベテラン達への信頼を強調した。たとえ所属クラブで出場機会が少なくとも、彼らの経験を信じて招集し続けている。

「本田の代わりをできる選手がいるのか考えなければなりません」

 この一言に「俺なら本田の代わりになれる」と一発で解決策を提示できる若手選手はいないだろう。

「私は若い選手でも使ったりしてきましたが、選手たちのメンタル面などいろいろな面を準備しなければいけない。若手を使った時、少し準備をしなければならない。試合が終わった後、少し敬意を持ちすぎて相手を恐れていると感じることがあった。そういった意味でも本田のような選手はこれからも必要だと思います」

 予想できないイレギュラーがいつでも起こりうる、過酷なアジア最終予選を勝ち抜くにあたって、日本の若い選手たちは“戦う”準備ができていないと、ハリルホジッチ監督の眼には映ったのかもしれない。

 今回の招集メンバーで注目を集めたのは、今野泰幸や高萩洋次郎といった30代の選手たちの代表復帰だった。前者はW杯でプレーした経験があり、後者はアジアで数々の修羅場をくぐり抜けてきた稀有な存在。苦しい戦いが予想される前回対戦で敗れたUAEとのアウェイゲームで必要な経験が、彼らの中に秘められている。

 そして、海外組への信頼へも顕著になった。FWとして登録された7人は、全員ヨーロッパのトップリーグでプレーする選手だった。「点をあまり取っていない」と得点力に懸念を示したが、それでもトップレベルでチーム内の競争に身を置く彼らへの信頼は根強い。

誰よりも戦う準備をしていた本田。代役は見つからず

 特にハリルホジッチ監督が名指しで信頼を強調したのは、本田圭佑と長友佑都の2人だ。彼らは所属するミランとインテルでともに出番が少なく苦しんでいるが、「この2人はヨーロッパでもビッグクラブにいる。そこでトレーニングするだけでも違うと思います。彼らの代表への意欲も感じました。ここ10年くらい、ずっと彼らが代表に入っています。プレーだけでなくその存在が重要だと思ってます」と、やはり経験の部分を評価されている。

 ただ、「より良い選手が現れたら、私も彼ら(本田や長友)を呼ばないかもしれません」ともハリルホジッチ監督は語る。メンバーから外れた若い選手たちの奮起を待っているのだ。特に記者会見で名前を挙げられた大島僚太や井手口陽介、小林祐希、柴崎岳らはまだ世界で“戦う”準備ができていないと判断されている。

 W杯出場権は誰かがプレゼントしてくれるものではなく、自ら勝ち取らなければならない。ハリルホジッチ監督はそのための準備は数年前からしなければならないと指摘した。その準備を周到にしてきたのが本田であり、長友であったということだろう。

 ブラジルW杯を終えた直後からロシアW杯を見据えてきた本田は何をしてきたか。ミランではベンチ生活にも腐らず努力を続け、日本代表で先発を外れても、ベンチからチームメイトを鼓舞し、途中出場でも存在感を発揮した。

 これだけでもハリルホジッチ監督が「本田の代わりをできる選手がいるのか考えなければならない」と言うわけが理解できる。常にピッチで戦う準備ができているのが、サムライブルーの背番号4だった。もし高いレベルで信頼に値する他の選手がいれば、本田の招集を見送る判断もできたはずだ。結局、本田に代わる選手はいなかった。

指揮官が抱く危機感。若手は一層の奮起を

 UAE戦だけでなく、今後のイラク戦やサウジアラビア戦もアウェイでの難しい戦いが予想される。残された少ない時間でより高いレベルで世界と戦うチームを作れるかが、W杯出場権獲得の行方を左右する。

 ただ、予選を終えた後の戦いを考えれば、経験豊富なベテランだけでなく、将来を担う若手の台頭も不可欠。技術的に非常に高いレベルにある選手も多いだけに、ハリルホジッチ監督の言う「精神面での準備」が鍵になるだろう。

「W杯に出場するということはスポーツの面だけでなく、選手たちにとっても非常に大きなことになると思う。なぜなら前回のW杯で大きな傷を負ったからです。前回のW杯の悪い思い出を消すためには、まず今回のW杯に出場すること。日本サッカー界のことを考えても非常に重要な時期に差し掛かっていると思います。代表はその国のサッカーを反映するものです。それを見せるのも代表に責任があります」

 今回メンバーから外れた選手たちは、ここで何を思い、どう行動に移していくのか。ハリルホジッチ監督はUAEのような手強い相手との戦いを絵を描いて、若い選手がその場にふさわしくないと感じたのだろう。一方で、現在のチーム作りには「経験を積んだ選手と若手の融合」というテーマも掲げられており、チャンスはそこかしこに転がっている。

 指揮官の危機感とチーム作りにおける意図は、UAE戦とタイ戦という最終予選の重要な局面に向けたメンバー発表で明確に示された。W杯まで残された時間が1年しかないとなれば、この時期に若くて頼もしい選手が出てきてもよいはずだ。Jリーグでプレーする選手や若手選手たちには一層の奮起が求められる。「日本人であればJリーグでプレーしても海外でプレーしても、全員が代表候補」なのだから。

(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉