「無口でがんこ」な人が認知症になりやすいのは本当か

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■なぜ「名誉」「地位」にこだわる人は長生きできないのか

現代社会はストレスであふれている。そしてストレスは、心身の両面でさまざまな病気を生む。たとえばストレスは交感神経系を刺激するため、心臓に負担をかける。免疫機能を低下させるため感染症も起こりやすくなる。不眠や不安、うつ病の原因ともなる。まさに「ストレスは万病のもと」なのだ。

ストレスの原因はさまざまだが、同じ出来事でも受け止め方は個人差が大きい。楽天的で前向きな人と、悲観的で悔やみがちな人では、ストレスの受け方も異なる。その違いを生み出しているのが「性格」である。

「性格」とは、人間の感情や意思のパターンである。そのうち感情面に着目したものを「気質」と呼ぶ。気質とは、人が刺激にどう反応するかを見たものだ。「根が明るい」「外交的」「負けず嫌い」「のんびりしている」……。こうした気質によって、その人の行動や意欲が形づくられる。気質とは性格の中核をなすものだと考えられている。

これまでさまざまな研究から、特定の病気については「なりやすい性格」があることがわかっている。気質は、遺伝的(先天的)に決まっている要素が強く、生涯を通じて変わりにくい(安定的)と考えられている。だから性格も変わりにくい。自身の性格を知り、その性格と折り合いをつけることが、健康な長生きの秘訣になる。公衆衛生学の最新の研究成果を紹介しよう。

■高学歴で頭のいい人はボケにくい

老後の心配事について「認知症」をあげる人は多いだろう。厚生労働省によると、85歳以上の有病率は27%。つまり4人に1人が認知症なのだ。

認知症のうち、最も多いのがアルツハイマー型認知症である。国際アルツハイマー病協会によると認知症全体の50〜75%を占める。次いで多いのが血管性認知症で20〜30%とみられている。

この2つは症状の進行に違いがある。血管性認知症は男性に多く、一部の記憶は保たれる「まだら認知症」が特徴だ。一方、アルツハイマー型認知症は女性に多く、脳全体で病変が進行するため、記憶力や生活能力が全体的に低下していく。麻痺などの機能障害がないのに、日常生活ができなくなる。

認知症については、「なりやすい性格」がある。このことは以前から指摘されていた。たとえばノエとコルブという精神科医が1958年に出版した精神医学の教科書には「老年痴呆になるような人は元来、融通の利かない、かたくなな人が多い」と書かれている。

この事実を日本ではじめて証明したのが、1990年に発表された柄澤昭秀博士(東京都老人総合研究所副所長・当時)の研究である。調査にあたり柄澤博士は新しい性格評価表を作成し、「明るい、開放的」「劣等感をもちやすい」「あいそがない」など40項目のチェックリストを用いて、被験者の性格を8つのタイプに分類した(図を参照)。

柄澤博士らは、認知症患者165名とほぼ同年齢の健康老人376名を対象に、40〜50歳ころの性格はどうだったかを近親者に質問した。その結果、認知症患者は健康老人に比べて、同調型と執着型の割合が統計学的に有意に少なく、内閉型、感情型、無力型、粘着型の割合が有意に高かった。

個々の性格特徴についてみると「明るい」「社交的」「開放的」といった項目の該当率は健康老人群で有意に高く、「わがまま」「がんこ」「潔癖」「しゃくしじょうぎ」「閉鎖的」などの該当率が認知症老人群で多かったという。今回の取材で、記者から「無口でがんこだとボケやすいのですか」と聞かれたが、この研究結果をみる限り、その通りだと言わざるをえない。

●「予備能」が多いとボケにくい

「無口でがんこだとボケやすい」といって、急に明るくふるまっても、疲れるだけだろう。何かのきっかけで性格が「変わる」ことはあっても、「変える」ことは難しい。それではどうすればいいのか。性格を変えなくても、認知症を防ぐ方法はある。脳をよく刺激して、「予備能」を増やすことだ。

脳に病変が生じても、それに対抗して認知機能を保持する能力がある。これが「予備能」である。人間は日常、潜在的に持っている能力の10%程度しか使っていない。たとえば肺の場合、平常時の呼吸では、健康診断などで測定した肺活量の10%程度しか使っていない。残りの90%が肺の予備能である。同じことが脳にもいえる。

米ケンタッキー大学のデヴィッド・スノードン教授は1986年に開始した「修道女研究」で、脳の病変と認知機能の関係を明らかにした。

これは約700名のカトリック修道女に協力を求め、生前に認知機能などの検査を行い、死後に脳を解剖調査するものだ。この結果、脳の病変が軽くても重度の認知症という人もいれば、脳に著しい病変があっても知的能力は正常という人もいることがわかった。この差を生むのが「予備能」だと考えられている。脳が多少やられても、健常な部分が残っていれば症状は出ないということだ。

●「1人が好き」でも諦めるな

脳の予備能が多い人の特徴はわかっている。第1に幼少期の成育環境(遊びや学習の機会が多いこと)。第2に学歴が高いこと。第3にアタマをよく使う職業に従事していたこと。第4に中年期から高齢期にかけて社会的ネットワークが豊富で、活動的な生活をしていること。その4点である。

脳の予備能は、生涯を通じた神経入力量、つまり脳への刺激の合計で決まる。脳に刺激が入ると、神経細胞(ニューロン)の密度が高まり、シナプス(ニューロン同士の網)が形成される。これらが脳の予備能をつくるからだ。

このため内向的で非社交的な性格の人は、刺激が少ないために認知症のリスクが高い。だからといって悲観することはない。1人でいることが好きなら、1人でできることを確実に行えばいい。他人とかかわらなくても心身の活動性は高められる。

1日30分の速歩きを週3回、1年間継続することで脳の海馬の容積が2%も増えるという研究結果がある。海馬の容積は60歳を過ぎると毎年1%ずつ減るといわれているから、こうした有酸素運動はとても有効だ。脳血流が増えるので、血管性認知症のリスクも減る。

知的活動も有効だ。クロスワードパズルなどを頻繁に行っていた高齢者では認知症の発生率が低かったという研究結果もある。一方で、「ぼーっとテレビをみる」というのはリスクを高める。テレビをみるなら、能動的に楽しめる番組がいい。クイズや落語のような集中力の必要な番組がいいだろう。もちろん本や雑誌を読むのもいい。

「ボケたくないから」と修業のようにパズルや運動に打ち込むのはおすすめできない。ストレスは悪影響があるからだ。脳の健康は人生を楽しんだ結果の「ご褒美」だと考えたほうがいい。

■「離婚男性」は心筋梗塞が1.7倍に悪化

心筋梗塞や脳梗塞にも、発症しやすい性格がある。とりわけ「抑うつ・不安」といった心理的問題は、心筋梗塞の発生に大きな悪影響をおよぼしている。その影響は、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病のような古典的な危険因子と同程度だという研究者もいるほどだ。

英国のヘミングウェイとマーモットは世界中の11の研究データを解析して、すべての研究で「抑うつと不安レベルの高い人」では心筋梗塞の発生率が高まることを突きとめている。このうち1996年に発表されたデンマークのベアフットらの研究では、心筋梗塞や狭心症の既往がない730名を対象に27年間の追跡調査を行っている。その結果、男女とも抑うつ得点の高い群ほど心筋梗塞の発生率は高く、最低と最高の群では2倍近い格差があった。

日常生活でのストレスも関係している。たとえば心筋梗塞の発症率や死亡率は、職種や職階で大きく異なる。驚くべきことに、管理職など階層の高い人ほど、発生率や死亡率は低い。

また配偶者との離別・死別を経験した人は、心筋梗塞の死亡率が高まる。大阪大学の磯博康教授らの研究によると、結婚している男性に比べて、離婚した男性の死亡率は1.5倍に増えた。死因別にみると、心筋梗塞の死亡が1.7倍に増えたが、がん死亡は増えなかった。これは男性だけで、結婚している女性と離婚した女性との間では、死亡率に差は出なかったのである。

男女差の原因は不明だが、人間はストレスを受けると交感神経が興奮する。血圧や血糖値が上昇し、血小板が固まりやすくなる。どれも心筋梗塞のリスクを高めるというわけだ。

ストレスへの受け止め方は改善できる。たとえば、ひと昔前のアメリカでは「タイプA(攻撃的でせっかち)」と呼ばれる行動パターンが成功の条件だと礼賛されていた。だがタイプAの人はストレスを溜めやすく、心筋梗塞の発症率も高かった。そこでリラクセーションや認知行動療法が積極的に導入された結果、心筋梗塞の発症率も死亡率も劇的に減ったのである。

●「性格」でがん発生を防げるか

ここまで「認知症」と「心筋梗塞」のリスクについてみてきた。もうひとつの国民病といえば「がん」である。

私の所属する研究室では「宮城県コホート研究」と呼ばれる長期縦断研究を行っている。1990年に宮城県内の14町村に住む40歳から64歳までの全住民にアンケート調査を依頼し、約4万8000人(全住民の92%)から有効回答を得た。それ以降、がんの発生状況を調査しつづけている。この調査によると、性格と発がんリスクとの間に関連は認められていない。

また国立がん研究センター東病院の1178名の肺がん患者を対象にした中谷直樹氏(現・東北大学准教授)の研究によると、無力感や絶望感といった「気の持ち方」は予後に影響をおよぼさないことがわかっている。

なぜ心筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患では心理要因がリスクを高めるのに対して、がんは無関係なのか。がんの成長には時間がかかる。胃がんの場合、1個のがん細胞の誕生から人が死ぬまで、16.5年から33年を要する。心理的な要因の変化で、がん細胞の分裂・増殖のスピードが変わることがあるかもしれないが、分裂・増殖そのものを停止させることは無理だろう。その点が、リスク(交感神経の働き、血圧、血小板の固まりやすさなど)が常に変化する循環器疾患との違いだと考えられる。

憂鬱で悲観的な人はがんになりやすく、明るく楽天的な人は免疫力が高いからがんになりづらい――。そうした考え方は事実とは異なるのだ。

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東北大学大学院 医学系研究科 教授 辻 一郎
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野教授。1957年、北海道生まれ。83年東北大学医学部卒業。2002年より現職。著書に『健康長寿社会を実現する』(大修館書店)、『病気になりやすい「性格」』(朝日新書)などがある。

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(東北大学大学院 医学系研究科 教授 辻 一郎 構成=山田清機)