東京都庁

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「そんなの、警察にだって消防署にだってあるじゃないですか!」

 東京都職員が安く買い物できる制度があるという情報について、都庁職員に問い合わせたところ、第一声がこれだった。公務員は安く買い物ができて当たり前、と言いたげだ。

「それに“安く買える”といったって、8%程度の割引ですよ。インターネットで探せばもっと安くていいものがいくらでもある。カタログが配られますけど、だいたい皆捨ててますよ」(同)

 なるほど、それもそうか。入手していた情報は、デパートや家電量販店で都職員は安く買い物ができるというものだったが、確かにネット上には量販店より安く買えるサイトはいくらでもある。

 だが、捨てられるものを印刷しているのだったら、少なくとも資源の無駄だ。そう思って、東京都庁に赴いた。以前はフリーパスで行くことができた「都民情報ルーム」だが、現在は住所、電話番号、行く先などを用紙に記載して、入庁証を首から提げて行くように変わっていた。

 事前に得ていた情報では、職員が安く買い物ができる制度を運営しているのは、「東京都福利厚生事業団」だった。情報ルームを見回してみたところ、関連する書籍は見当たらない。受付の女性に訊いてみると、逆にこう問い返された。

「東京都福利厚生事業団って、職員向けの団体ですよね。職員の方ですか?」

 筆者が「職員向けの団体だとしても、都民にも見る権利があると思いますよ」と言うと、女性はどこかに電話をした後に、書棚から持ってきた『職員ハンドブック2015』を開いて指し示した。

「東京都福利厚生事業団は今、東京都人材支援事業団となっておりまして、ここにその内容が書かれています」

 会員は東京都の一般職員と退職者。事業の内容としては、保険事業、融資事業のほか、確かに「ショッピングあっせん」というものもある。都庁を離れ、ネットで調べてみたところ、『IBUKi(いぶき)』という冊子に割引価格での買い物情報があることがわかった。

●都民には見せられない?

 そこで、発行元である一般財団法人・東京都人材支援事業団に連絡し『IBUKi』を見せてほしいと頼むと、会員にしか見せられないとのことである。

「都民には見せられないものなのですか?」

 そうたたみかけても、返答は同じだ。 東京都庁職員労働組合に連絡しても、見せられないとのこと。知人に都職員の家族がいたので訊いてみたが、「見たことはあるが、今持っていない」とのこと。 東京都の職員なら誰でも持っているはずのものが、どうしても手に入らない。都民に対しては、それほど禁断の書なのだろうか。

 今一度、東京都人材支援事業団のホームページで資料をたぐっていくと、基本財産は東京都から2億円が出資されていることがわかった。

「都民の税金が投入されている団体でつくられている冊子を、都民が見られないのはどうしてですか?」

 改めて東京都庁に連絡して言うと、東京都人材支援事業団から連絡が来た。『IBUKi』を渡すことはできないが、閲覧をさせてくれるという。

●大幅値引きのオンパレード

 東京都人材支援事業団は都庁から新宿駅を挟んで反対側、歌舞伎町にある「ハイジア」というビルにある。都庁から1キロほど離れた場所だ。

 閲覧をしに来たことを告げると、男女2人の職員が現れ『IBUKi』を差し出した。1月1日発行の「2017年1号」。通巻では「310号」となる。ごく薄いパンフレットだ。

 筆者が『IBUKi』をめくり始めると、その2人の職員が同じテーブルに付いた。男性と女性は上司と部下であることが窺えた。私が見るのと同じページを女性職員は開いて確認する。冒頭の都庁職員の「8%程度の割引」というのは、真っ赤な嘘であることがわかった。

【値引きリスト】

・積水ホームテクノのユニットバス:57%オフ
・東京ガスリモデリングによるリフォーム:50%オフ
・有楽町にある新出時計店のダイヤの指輪、パールネックレス:50%オフ
・小田急百貨店(新宿店)の紳士服:20%オフ
・同店のタオルギフト、寝具ギフト、食品ギフト:5〜20%オフ
・同店の宝飾品:5〜10%オフ
・京王百貨店(新宿店・聖蹟桜ヶ丘店)の紳士服、宝石、貴金属、メガネ:20%オフ
・松屋銀座店のフランスベッド:20%オフ
・同店でeddyの牛革のランドセル:32%オフ
・久月と吉徳の各店で人形:20%オフ
・京王運輸による引っ越し:20%オフ
・JTB首都圏都庁内店で、沖縄3日旅行を申し込むと、通常価格5万7800円〜12万4300円が、都職員なら5万2100円〜11万3500円
・日本旅行都庁内支店でニュージーランド6日旅行を申し込むと、通常価格42万2900円〜49万9900円が都職員なら38万610円〜44万9910円
・大竹しのぶが歌う、1月26日開催の新日本フィルハーモニー交響楽団第568回定期演奏会は、S席8000円が7000円に、A席7000円が6300円に
・サンリオピューロランドの入場料:大人3800円が2000円に

 フリーの多目的ローンも安い金利で利用できる。
 
・中央労働金庫:変動金利で2.35%
・東京都職員信用組合:固定金利で2.6%
・セディナ(三井住友フィナンシャルグループ):固定金利で2.4%
・みずほ銀行:変動金利で2.495%

 ちなみにセディナで一般人がフリーローンを利用すると、金利は10.8〜16.8%だ。みずほ銀行で一般人がフリーローンを利用する場合、10万円以上100万円未満の借り入れなら、金利は14%だ。

 都庁第一本庁舎32階にあるウエルシアでは、医薬品や日用品も都職員は安く買える。

・8640円のマカ皇帝倫SIXTEEN(メタボリック)が4980円
・記憶力増強維持に役立つという、5292円のイチョウ葉エキス(アサヒフードアンドヘルスケア)が3990円。
・脂肪を落とすという、8100円のナイシトールZ(小林製薬)は6480円

 家電製品は、東京都人材支援事業団に直接購入を申し込むかたちになっている。

・メーカー希望小売価格が7万7760円のLEDシーリングライト(NEC)は2万9800円 ・同7万8840円の加湿ストリーマ空気清浄機(ダイキン)は4万3500円
・同3万2184円のヘッドストレッチャー「ドリーミンヘッド」(MTG)は2万4084円

●意味不明のこんな注意書き

 欄外には、一見すると意味不明なこんな注意書きもある。

「製品の仕様等は、カタログ等で十分ご確認ください。製品確認の際、本誌(コピー含む)は持参しないでください」

 要するに、購入前の製品確認のために家電量販店などに行く場合、『IBUKi』を持って行くなということだ。門外不出の『IBUKi』なのだから、当然の注意だろう。

 ここに紹介したのは、ほんの一部である。「天丼てんや」で500円以上利用の場合、250円引きになるクーポンまで付いている。ありとあらゆるものが、割引価格で利用できるのだ。

 閲覧が終わると、男性職員が言った。

「差し支えなければ、どのような目的で閲覧されたのか、教えていただけませんか」

 筆者はこう答えた。

「この財団には東京都から2億円が出資されているので、都民として見る権利があると思って拝見しました。本来なら、閲覧だけでなく、この冊子をいただいてもいいくらいだと思います。でも、この内容では、なかなか見せられないですよね」

 女性職員は、こちらが見て気の毒になるほど、みじめに俯いていた。東京都の職員は、一般行政部門、教育、警察、消防、病院、交通、水道、下水などすべてを含めて、現在16万7000人ほど。このスケールメリットを考えれば、各企業が割引に応じるのはビジネスとしては当然だ。

 だが東京都人材支援事業団には、東京都から2億円が注ぎ込まれているのだ。自分たちでもやましいからこそ、『IBUKi』を都民の目から隠しているのだろう。東京都には、まだまだ隠された闇がありそうだ。
(文=深笛義也/ライター)