ドラマ『カルテット』(TBS)第9話の、大人の男女のあたたかくもやさしい物語にもらい泣きしつつ、こういう人間関係が築けるようになれるのも、酸いも甘いもかみ分けてきた大人ならではなんだよなーと生きる希望の灯をともそうとした矢先、目にしたのがデイリー新潮の「『情熱大陸』プロデューサーが吉田沙保里に暴言 ディレクター激怒」の記事です。

これは週刊新潮の3月9日号に掲載されている記事の転載で、『情熱大陸』(MBS)の吉田沙保里さんの回を担当したAさんというフリーのディレクターが、Bさんという社員プロデューサーの発言に怒って番組を卒業した、という話を紹介しているものなのですが。
なんだか、どっと疲れが出るような、脱力が極まりない内容でございました。

番組制作に携わっていた別のスタッフであるCさんが、試写の感想として、「吉田沙保里さんがとてもかわいく見えた」というような発言をした。
それに対し、Bさんが「じゃあ、Cさん、イケるんですか〜?」と返した。
これにAさんは激しい怒りを感じるとともに深く傷ついた、とのことで、その胸のうちと顛末を事細かに書いた上で「あなたとはもう一緒に仕事はできないのでやめます」と、関係者をCCに入れて本人にメールした、と。うむ。

いい年をした大人の男性が「なんだよ〜。本気でかわいいって思うなら、じゃあお前、付き合えばいいじゃ〜ん」という、アホな小学生のような軽口を言っていると知るのは、男性との友好な人間関係を望んでいる女性として、非常にガッカリです。でもまぁ、私たちがいないところで、男性たちがそういうことを言っているんだろうなぁということは薄々こっちも感じているわけですが。

「ブスのくせにおしゃれしちゃって」「デブのくせにそんな食べちゃって」「ババアのくせに若作りしちゃって」「バカなくせに張り切っちゃって」

ブス、デブ、バカ、ババアという4B悪口は破壊力が高く、女性に与えるダメージは絶大。そして、私たちは、そういことを陰で言われていたら嫌だなぁと、気にしながら、ときに怯えながら常に生きているわけです。でも、そう思われてもしかたがないという心当たりもある。
事実かそうでないかといえば、事実だったりするので。

私たちはブスでも少しでもかわいくなろうとおしゃれするし、デブでもおいしいものを食べたらSNSにアップするし、ババアになってもおばさんにはなりたくないと思っているし、バカでも仕事を一生懸命頑張って活躍したいと思っているから。

そして、きっと言っているんだろうなぁという、想像しているぶんには、まだ希望があるわけです。でも、実際に「言ってましたよ!」と聞かされて、やっぱり!と正解を喜ぶ気持ちにはなれません。むしろ、あ……それ、聞きたくなかったわ……となる。

そんなことだから、リアルに出会う男性よりも、テレビの中の高橋一生さんや松田龍平さん(しかも演じている役柄)に恋していたほうがよっぽど幸せや、と思っても致し方ないではありませんか。

Aさんご本人としては、「そういうこというのはよくない!」というスタンスなんでしょうが、それは余計な正義を振りかざす学級委員のようで、これまた小学生のよう。

もう、思い出すのです。学級会のときに手をあげて「あずきちゃんのおうちは貧乏だから、クラスのみんなで給食費を分担してあげたらいいと思います!」と発表してくれた友達とか、勇気を出して告白してフラれた男の子に「あずきちゃんがブスだからって、そんなに冷たくしなくてもいいじゃない! チョコレートくらい受け取ってあげればいいでしょ!」と怒ってくれた友達とか。
気持ちはありがたいけれど、そんなことしてくれなくていいのよ……と、そっと目を閉じたくなる状況を。

ご本人のAさんも、まさか自分がBさんに送ったメールが世間にさらされるとは思わなかったでしょうし、本来なら、まったく無関係な私たちに送られてきたものではありませんから、勝手に知って、勝手に凹んで、勝手にガッカリするというのもアホすぎます。

でも、CCをつけてますからね……。私たちに見せる気はなかったとしても、関係者には「悪いのはBさんです」ということを伝えて共有したかったのでしょう。そこで「うわ、コワいメール受け取っちゃった! でもちょっとおもしろいから除霊も兼ねて友達に転送しちゃお」という人が出たとしても不思議ではない。

このご時世、文書に残したものが流出しないと思っていたならうかつすぎるし、秘密の話は「誰にも言っちゃダメだよ」という魔法の言葉とともに、あっという間に広まるものなのです。

こんなときに、こんなことを、こんな立場のあなたが言うことは人として最低だし、そんな人とは仕事はできない、というメールを送るときに、Bさんが反省して謝罪するよりもずっと、この話が吉田沙保里さんの耳に入る可能性のほうがよっぽど高いということに、Aさんは気づけなかったんでしょうか。前人未踏の偉業を成し遂げたすばらしい女性を、こんなアホみたいな話に巻き込んで……一滴の敬意も感じられません。

感情が高ぶっているときにメールを書いてはいけない、ということをしみじみと思い知らされる事件でもありました。

もうひとつ、自分が仕事を辞めるタイミングで、相手への怒りを関係者全員にぶちまけるっていうのも、大人気ないんじゃないかなぁ……って思うんですよね。そういう人って、ちょいちょい出現しますけど。あの人が嫌いだから辞めるってのはどうなの?という話はその2で。

もはや頼れるものはスピリチュアルな世界しかないとそっちに流れていく女性が多いのも、いたしかたなしではなかろうか。