夜空に光り輝く打ち上げ花火。色が変化するもの、バリバリと音をたてて飛び散っていくもの、花火にもいろいろな種類があります。これらの花火たちは、花火会社がそれぞれ培った技術で作られたもので、花火会社によって得意な花火やオリジナルの花火など特色が現れます。今回は、「『冬の花火会社って何をしているの?』花火の知りたい事が分かる動画を制作している花火師にインタビュー、花火工場も見学してきました」に引き続き、花火師の加藤克典氏に花火会社による花火の違いや花火大会の楽しみかたについて聞いてきました。

加藤煙火株式会社

http://www.katoenka.jp/

◆加藤煙火株式会社が公開している花火関連動画

加藤煙火株式会社が公開しているYouTubeチャンネルは以下のとおりで、花火の仕組みや歴史がわかるムービーが40本以上公開されています。



加藤煙火株式会社 - YouTube



加藤煙火株式会社の花火工場に到着。



花火師の加藤克典氏に話を伺います。



GIGAZINE(以下、G):

よろしくお願いします。今回は、花火会社による花火の違いや花火大会の楽しみ方についてお伺いします。まずは、打ち上げ花火は「どうして広がるのか」や「どうやって色を出しているのか」など基本的な部分の解説をお願いします。

三河花火 最明流 加藤煙火株式会社 加藤克典(以下、加藤):

基本的に打ち上げ花火では3種類の火薬を使っています。打ち上げるための火薬と「割薬」と呼ばれる花火を爆発させる火薬と「星」と呼ばれる光る火薬です。

花火玉の下に付いているコブのような部分に、打ち上げるための火薬が入っています。



加藤:

花火が上がっている間は、火は導火線を伝って中心に向かっており、上がりきったタイミングで中心にある割薬に火が付くように導火線は調整されています。割薬に火が付くと一瞬で玉全体に火が回り、星にも火が付きます。 割薬は気化してガスとなり、玉内部の圧力が増していき、玉の皮が内部の圧力に耐え切れなくなると一気に爆発して星を飛び散らせます。

中心部や星の間にある細かい粒状の火薬が「割薬」です。



大きな粒の火薬は「星」と呼ばれる色を出すための火薬です。この花火の場合は、星と割薬を交互に重ねることで、八重芯と呼ばれる3重の円が見られる花火だということがわかります。



G:

色が変わる花火の星はどのような仕組みになっているのですか?

加藤:

火薬は外側から順番に燃えていくので層状にすることで色を変化させることができます。



G:

点滅する花火というのも見ることがあるのですが、色の出る火薬と色の出ない火薬を重ねているのですか?

加藤:

いいえ。点滅する花火は、光ったりくすぶったりという状態の変化を繰り返す火薬を使っており、層状に重ねて作るものではありません。

G:

「どういう色を使うのか」「どう光らせるのか」など、花火会社によっていろいろ工夫がありそうですね。花火会社によって最も違う部分というのはどの部分でしょうか?

加藤:

星に使う火薬の配合が全てです。

G:

同じような色の花火でも会社によって火薬の配合が違うのですか?

加藤:

はい、違います。火薬の配合については、各々の花火会社が独自に研究して開発しています。

G:

火薬の配合は企業秘密なのですね。秘密にするということは、簡単に出せない色や光らせ方が存在するということですか?

加藤:

はい、あります。青色が難しいです。

G:

どのような理由で青色を出すのが難しいのですか?

加藤:

色を出すための火薬に対して適切な温度というのがあります。赤色だと許容範囲が広く様々な温度で色を出すことができるのですが、青色はその適切な温度の許容範囲が狭いのです。

G:

許容範囲を外れてしまうと、別の色になるのですか?それとも色が出ないのですか?

加藤:

色が出なくなってしまいます。単に青色で光らせるだけなら、適切な温度に調整すればいいだけですのですぐに作れます。しかし、その青色というのはとても暗いのです。明るく光らせるためには温度を上げる必要があるのですが、そうすると青色が出なくなってしまいます。そこで、様々な材料を混ぜて工夫する必要があるのですが、どれをどういう割合で混ぜるのかというのが秘密となっており、研究しないといけません。

G:

今の時代であれば、化学式からコンピューターに計算させて適切な割合を出すということができそうなのですが、できないのですか?

加藤:

2種類程度の材料を混ぜた場合にどうなるというのは、ある程度予測もできるのですが、7〜8種類、多い時には10種類くらい混ぜているので、複雑過ぎて計算や化学式では答えを出すことができないそうです。

G:

経験でしか得られないのですね。

加藤:

はい、実際に打ち上げてどんな光り方をするか見てみないとわからないです。

G:

加藤煙火でも研究をされて独自の配合をされているということですね。

加藤:

はい、いろんな色を昔から改良してやってきているのですが、銀色が変わった時が一番お客様の反応が変わりました。

G:

印象が変わるくらい全く違う銀色を開発されたのですね。

加藤:

自分たちが見てても、「別会社が上げたんじゃないか」というくらい、違いのある銀色が出てきました。

加藤煙火株式会社がYouTubeで公開している動画で、銀色(動画では白と解説されています)を使ったオリジナル花火がどのようなものか見ることができます。

【シーズンズスノー】 加藤煙火株式会社 公式プロモーションビデオ - YouTube

【雪割草 Yukiwarisou】加藤煙火株式会社オリジナル花火 - YouTube

【シルクフラワー】加藤煙火株式会社オリジナル花火 - YouTube

G:

他にもなにか加藤煙火ならではというような色や光り方をする花火はありますか?

加藤:

点滅系の花火に自信があります。

G:

どのような特徴があるのですか?

加藤:

明るくてキレが良いと思います。点滅に関しては、かなり良いものが作れていると思っています。

写真は、加藤煙火株式会社が担当した安城産業文化公園デンパークのイベント花火より。



G:

点滅の仕方までも会社によって違うのですね。今度から気を付けて見てみたいと思います。他にも、会社独自の花火というと、スマイルやドラ猫などマークやキャラクターを表現する花火がありますが、加藤煙火ではオリジナルのものはありますか?

加藤:

みかんがあります。

【みかん Mikan】加藤煙火株式会社オリジナル花火 - YouTube

「みかん」を作られた尾崎正仁氏に話を伺います。



G:

みかんはどのようなアイデアで作られたのでしょうか?

加藤煙火株式会社 尾崎正仁(以下、尾崎):

スマイルやハートなど平面のものは、見る方向によって形が変わってしまいます。正面から見ると絵をして見えるのですが、横からみると縦に一直線なってしまい形を見る事ができません。そこで、「どこから見ても作品として見られるように立体のものを作ってみようかなぁ」ということで、作ったのがこの立体みかんです。

G:

加藤煙火では、平面だけでなく立体のものも作ってるのですね。

尾崎:

「お客様がどこにいてもきれいに見えるものを」というのを狙っています。

G:

設計図など書かれたりするのですか?

尾崎:

まずは図面に書き、その通りに玉を詰めて試し打ちで上げてイメージ通りに出ればいいんですけど、駄目だったら設計図を書き直して……と、試行錯誤して作っています。

G:

他にも新しいものを作っていたりするのですか?

尾崎:

はい、先日試し打ち で上げてみたものがいい感じかなと。まだ、量産化できるほど確立できていないので、具体的にいつということはまだ言えませんが、新作を作っているところです。

G:

絵が見える花火を作るにあたって難しいところはありますか?

尾崎:

花火の星は粒が大きく数に限りがあるので、細かい部分の表現ができません。特徴をうまくつかんで、元の絵じゃないけど元の絵が想像できるようにデフォルメするのが難しいところです。

G:

ちょっと、素朴な疑問を質問してよろしいでしょうか。一面に広がる花火も、絵が見える花火も打ち上げる花火の玉は同じ丸い玉を上げているかと思うのですが、絵以外の部分の隙間がかなりあると思います。そこには何が詰められているのですか?

尾崎:

割薬です。たくさん入るので、少し威力を弱めたものを入れることでバランスを保っています。

加藤:

割薬が多いということで、こういう型物の花火は音が大きいんですよ。

G:

そうなんですね。この点も次見るときは気をつけて見てみたいと思います。もう1つ質問です。花火玉には大きさがあって尺玉と呼ばれる直径30cmの大きな玉もありますが、絵を尺玉で上げるというのはできないのでしょうか?巨大なスマイルが出ても面白いと思うのですが。

尾崎:

絵の場合、向きによって見える見えないがあるので、コストパフォーマンスが悪いですねぇ。やるとしたら、小さい玉を詰めて、たくさんの絵を一度に上げるというものになると思います。実際、そのようなものは上げたことがあります。

加藤:

みかんは尺玉でも上げてますよ。

G:

尺玉のみかんは迫力ありますね。是非、見てみたいです。他に、なにか面白いエピソードがあれば、お願いします。

尾崎:

こういう絵をやって欲しいというリクエストが多く寄せられるのですが、「作れるだろうけど、これ打ち上げたら次から仕事来ないだろうなぁ」というようなものもあったり、最近だと「(^o^)」といった顔文字のリクエストも来ます。これもやろうと思えばできるのですが、年代や対象者が限定されるものは花火大会では上げにくいかなと。

G:

できないということではなく、会場中の皆が知っているようなものが優先されるのですね。

尾崎:

一瞬で消えるものですし、形も一定ではなく崩れたりもします。それでも、すぐにわかるものでないと上げてもお客様にウケないですので、ハートやスマイルなどわかりやすいものを多く上げています。

G:

ありがとうございました。それでは、加藤氏に花火について質問の続きをお願いします。花火を光らせる星を作るにあたって、何か他に工夫されていることはありますでしょうか?

加藤:

星を作る場合に考えないといけないのが、星の大きさです。おのおのの色を同じ明るさで光らせようとすると材料の量が違ってくるので、単純に必要な材料だけで星を作ると、いろいろな大きさの星になってしまいます。そうすると複数の色を同時に光らせる花火を作った場合、星を詰める作業が困難ですし、きれいな形に広がりません。ですので、「この花火の星の大きさはこれ」というふうに決めて調整する必要があります。

G:

複数の色を同時に出す花火は、適当に星を詰めるだけで簡単なほうだと誤解していました。

加藤:

さらに言うと、色によって燃える時間が違います。彩色(いろいろな色が混ざったもの)の花火をよく見てみると、赤色や黄色は早く消えて、緑色が最後まで残ります。しかし、これをそろえる会社はきちっとそろえてきます。評価の高い花火を作るとなると同時に光って同時に消えることが重要になってくるので、燃焼時間をそろえる工夫もしないといけません。

G:

彩色系の花火の見方が変わりました。これからはカラフルな色の花火は、消え方にも注目してみます。続いての質問なのですが、三重芯・四重芯など、多重の芯が入った花火を見ることもあるのですが、いっそのこと1.5尺玉で十重芯のような大きな玉で多重芯を作ってみたらいいんじゃないかと思ってるのですができないのですか?

加藤:

星を並べることはできると思いますが、恐らくはつぶれてしまうと思います。星は金属の粉を混ぜて作るので、星の多い玉は重くなります。重くなると打ち上げる際に、星や花火の玉そのものが自重でつぶれてしまい、形が崩れるだけではなく、打ち上げた時に爆発してしまう危険性があります。

G:

「器を大きくすればたくさん詰め込める」というような簡単な話ではないのですね。他に、花火大会や会社によって花火に違いというのはありますか?

加藤:

これは地方による違いになるのですが、花火を打ち上げるには打ち上げ場所から客席まで間を空け、安全を確保しなければいけない保安距離というものが定められています。この保安距離は使う花火玉の大きさによって変わるのですが、県単位でルールが違っており、例えば愛知県では、7号玉(直径約21cm)・8号(直径約24cm)ともに同じ保安距離で打ち上げることができるのですが、他県だと7号玉は○m、8号玉は○mと距離が違う場合があります。同じ保安距離であれば大きな花火を打ち上げるほうがお客様も喜んでもらえるので、弊社では7号玉はほとんど作っておらず、8号玉を作る機会のほうが多いです。

G:

地方によって、花火の大きさにも特徴があったりするのですね。花火大会でここを見ると面白いというものはありますか?

加藤:

全国各地の花火会社が1つの花火大会に集まり腕を競う「競技花火」を行っている花火大会があります。秋田県大仙市で行われる「全国花火競技大会」が有名ですが、弊社は三重県伊勢市で行われる「伊勢神宮奉納全国花火大会」に毎年参加しています。競技花火大会では、普段見ることのできない高い技術を使った多重芯の花火や新しい花火を見ることができます。

2016年に行われた伊勢神宮奉納全国花火大会の大会プログラムより。



G:

2017年3月18日に秋田県大仙市で行われる「新作花火コレクション」にも出場されますね。

加藤:

はい、この大会では、4号玉10発、5号玉5発の花火を使いテーマを持たせた演出をすることと新しい花火を使うことがルールで決まっていて、それを競います。

G:

今回はどのような花火を打ち上げる予定なのですか?

加藤:

今回は普段試し打ちをしている花火の中からアイデアが浮かび、大会に向けて色など改良を加えたもので、花火の美しさを表現したいと思って作っています。

G:

大会まで日数も近いですし、大会で打ち上げる花火はすでに完成して保管していたりするのですか?

加藤:

今、作っているところですので、見学されますか?

G:

是非、お願いします。

花火玉に火薬を詰める作業場は、万が一の事故の際に被害を最小限に抑えるため、ブロック塀などでしっかりと囲まれ隔離された場所にあります。



新作花火コレクションに打ち上げる花火玉を作っているところなのですが、どのように火薬を詰めているかは秘密ということで、火薬を整える作業工程だけ撮らせてもらいました。実際に、この花火がどのように上がるか大会のレポートをする予定です。



他の作業工程も見学できるとのことなので、玉貼りの作業場へ。花火玉の強度を上げるためにクラフト紙を何回も貼る工程です。



花火玉をころころ転がして、貼ったクラフト紙を整え花火玉をきれいに丸く調整する作業。



良い天気だったので、星がたくさん天日干しされています。



星を回収しているところです。一気に流し入れていますが、星はこの程度では火がついたりはしないとのこと。



星は見ただけは区別できないので、箱に名札を付けて管理します。こちらは、尺玉に使う青色に光る星と書かれています。



G:

新作花火コレクションでどのような花火が見られるかも楽しみなのですが、加藤煙火株式会社で花火大会全体を演出しているような花火大会はありますか?

加藤:

毎年7月末の日曜に愛知県蒲郡市で行われる「蒲郡まつり」では、弊社が打ち上げ花火の演出を担当しています。その他、弊社が全体の演出を担当している花火大会は、吉良花火大会(愛知県西尾市)・関市民花火大会(岐阜県関市)があります。共同で演出していたり、競技大会に参加している花火大会として、豊橋祇園祭(愛知県豊橋市)・岡崎城下家康公夏まつり(愛知県岡崎市)・長良川全国花火大会(岐阜県岐阜市)・東海市花火大会(愛知県東海市)・土浦全国花火競技大会(茨城県土浦市)などがあります。

G:

花火大会の楽しみ方など、読者に伝えたいことはありますでしょうか。

加藤:

花火大会は、花火業者によっての違いもありますが、花火大会自体がどのようなメッセージをお客様に発信しているのかも最近は考えるようになりました。例えば、新潟県長岡市で行われる長岡まつり大花火大会では、「復興祈願花火フェニックス」という花火のプログラムがあります。これは感動できる花火プログラムとしても有名です。どうして感動するかというと、打ち上げられる花火にしっかりと意味付けがされており、ストーリー性があって、見てる人にも理解できるよう情報発信を行っているからです。打ち上がる花火だけでなく、花火大会自体にも意味や特徴があることを調べたりすると、より花火大会を楽しく見る事ができると思います。

G:

ありがとうございました。新作花火コレクションと蒲郡まつりは実際に見に行ってレポートする予定なので、楽しみにしています。

加藤:

よろしくお願いします。ぜひとも楽しんでください。

加藤煙火株式会社が冬のイベントで上げていた花火より。5分間という短いイベント花火でしたが、花火大会の1プログラムをそのまま持ってきたような演出で迫力満点。観客も歓声を上げて楽しんでいました。