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●安定を目指す経営
いまの東芝の姿は、背骨にもメスを入れた外科手術により、立ち上げることさえやっとの状態だといえよう。

2017年3月14日に行われた記者会見で、東芝の綱川智社長は、「新生東芝」という言葉を使いながら、社会インフラ事業を主軸とする事業計画を打ち出した。

だが、4月1日付けで分社化するメモリ事業の売却、そして、ウェスチングハウスによる海外原子力事業の売却は、いずれもマジョリティにはこだわらない外部資本の導入が前提だ。完全売却も視野に入れているとされ、東芝にとっては、同社の成長を支える最後の背骨にもメスを入れた大手術ともいえる。

これにより、1兆円近い売上高を誇るコア事業は東芝から消える。個別事業の売上高では、ビル・施設事業の6400億円が最大規模。綱川社長は、「新生東芝には、メモリ事業や原子力事業といった1兆円近い売上高を誇るような核となる事業はなくなる。2000億円〜5000億円レベルの事業において、計画を確実にやり遂げることが重要である」と、新生東芝の基本姿勢を示す。

発表した中期経営計画は、2019年度の売上高が4兆2000億円、営業利益が2100億円。2016年度業績見通しでは、メモリ事業およびウェスチングハウスを含めた売上高が5兆5200億円であることに比べると、新生東芝の事業規模は、3年後の計画でも、この約4分の3にまで縮小する。

○過度な成長を求めた過去の経営から決別

「今回打ち出した方針を確実に実施していくことが、過度な成長戦略を求めた過去の経営との決別につながり、健全な経営体制の第一歩になると考えている」と綱川社長は語り、2018年度からの成長戦略も、「安定成長」と表現したように、あえて「安定」の2文字を入れた。成長戦略にも堅実性を持たせるのが新生東芝の姿勢だ。

かつての東芝は、エネルギー、メモリ(ストレージ)、そして将来のヘルスケアの成長によって、1兆円規模のコアビジネスを3本とすることで、安定的な経営体質と、持続的な成長を描こうとしていた。そこに、「TOSHIBA」ブランドの顔となる白物家電とPC、テレビが脇を固める構図は、描いた絵としてはまさに上出来だった。

だが、その絵の表面には見えなかった下地に、不正会計処理という問題を抱え、さらに成長を支えるはずの海外原発事業の中核的存在であるウェスチングハウスの減損処理が浮上。東芝の屋台骨を揺るがすことになった。

2016年度は、ウェスチングハウスにおける減損などで7170億円のマイナスが発生するが、メモリ事業では1654億円、社会インフラを中心とした新生東芝の領域では1416億円の営業利益となり、あわせて3070億円の利益を創出している。「3000億円以上の営業利益は、東芝にとって過去最大の営業利益になる」という言葉にも、綱川社長の悔しさがにじむ。

●注力事業は4領域
名門・東芝は、東証2部への降格が決定し、今回の中期経営計画も2部降格を前提にしたものだとする。そして、3月15日付けで、審査中というステータスで監理銘柄に指定されたことも見逃せない。東京証券取引所および名古屋証券取引所の今後の審査で、内部管理体制などについて改善がなされなかったと認められる場合には、上場廃止が決定するという瀬戸際の事態にまで追い込まれている。

「社会に対する信用を確保しつづけ、上場廃止にはならないように努力をしたい」(綱川社長)と語るのが精一杯だ。

○新生東芝の注力事業は4領域

新生東芝は、社会インフラ、エネルギー、電子デバイス、ICTソリューションの4つの事業で展開することになる。

2019年度の業績見通しのうち、社会インフラの売上高が1兆9650億円、営業利益は880億円を見込む。公共インフラ、ビル・施設、鉄道・産業システムに加えて、東芝テックによるリテール&プリンティングで構成。「2019年度の売上高の約半分を担う事業」(綱川社長)となる。水処理や受配電、道路、防災、放送、防衛、航空管制、気象、郵便、金融などの公共インフラの更新、高度化需要獲得、保守ビジネスなどの安定収益事業が軸だ。

水処理や物流の公共インフラは、2016年度の売上見通しの3600億円から、2019年度には3800億円へと拡大。昇降機や空調などのビル・施設では、6400億円から7700億円へ、電池や鉄道システムなどの鉄道・産業システムは3100億円から3600億円へと拡大する。POSや複合機などを扱う東芝テックによるリテール&プリンティングは、2016年度見通しで5000億円の売上高を誇るが、2019年度の目標は非公表。だが、社会インフラ全体の公表値から逆算すると約4500億円規模と想定され、成長事業には位置づけてはいない。

2つめのエネルギーの2019年度の売上高見通しは1兆500億円、営業利益は450億円。「海外エネルギー事業のM&Aで失敗した過去を反省して、新たな体制で進んでいく」とし、火力・水力・地熱、電力流通、国内原子力に加えて、「水素社会に向けた新たな芽として、次世代エネルギーに投資する」と述べた。

火力・水力・地熱事業の売上高は3300億円から3100億円へ減少。電力流通は、2500億円から2700億円へ拡大。国内原子力は1500億円から2000億円へと拡大する。次世代エネルギーについては、2021年度に250億円の売上高を見込んでいる。

3つめの電子デバイスの売上高見通しは8000億円、営業利益は480億円。これを「メモリ無き後の半導体事業の姿」と綱川社長は位置づけ、ディスクリートおよびシステムLSIで構成する半導体の売上高は3700億円から4400億円に、エンタープライズ用途を中心としたハードディスクは、今後の市場縮小を見込んで4600億円から3600億円へと減少する。

「電子デバイスは、新たな車載関連、制御関連デバイスの開発で収益性を高めたい。ハードディスクは、市場が縮小するが、データセンターには必要な製品であり、しっかりとやっていく」と述べた。

●「再度チャレンジ」綱川社長
そして、最後のICTソリューションの売上高は2800億円、営業利益は120億円を見込む。「IoTおよびAIを活用したデジタルサービスを顧客ととも共創することを目指す」とし、システムインテグレーション事業やデジタルソリューション事業を核に、年平均成長率約5%を見込んでいる。

○メモリと原子力売却 2つの異なる狙い

新生東芝の前提となるのは、メモリ事業の売却と、ウェスチングハウスの売却だ。

綱川社長は、これを、「海外原子力事業のリスク遮断」と「財務基盤の早期回復と強化」という言葉で表現。同じ株式売却でも、片方はリスクとな事業を切り離し、もう片方は優良事業の株式売却益で財務体質を改善するという異なる狙いを持つ。

「海外原子力事業のリスク遮断」とするウェスチングハウスの株式売却においては、「東芝グループにおけるウェスチングハウスの位置づけを大幅に見直し、戦略的選択肢を積極的に検討する」とし、株式のマジョリティ売却などによる非連結化を含めた再編検討を加速するという。

問題は、経営不振の温床となったウェスチングハウスに売却先が存在するのかといった点だ。だが、綱川社長は、「サービスや燃料などの安定した事業があり、可能性はある」と語る。一部には、連邦倒産法第11条(チャプター11)よる破産申請も視野に入れていると言われるが、それについては、「現時点では決まったことはない」と回答する。米政府の債務保証などもあり、一筋縄ではいかない問題を抱えているのは事実だ。

そして、「財務基盤の早期回復と強化」とするメモリ事業の売却では、4月1日付けで分社化する東芝メモリにおいて、マジョリティ譲渡を含む外部資本の導入も検討しているとし、「これによって、メモリ事業の成長に必要となる経営資源の確保と、東芝グループの債務超過を解消して財務体質を強化する2つの狙いがある」と位置づける。

また、綱川社長は、「メモリ事業は、今後も年間3000億円程度の設備投資がないと成長が続かない。だが、東芝にはそれができない。適切なパートナーと一緒に勧めていくことが正しい判断である」と説明。「オープンな入札を開始しており、3月末までに条件が揃う。半導体技術は国の安全にも絡むことであり、売却先は、政治的問題になる国を避けるという点にも考慮する。メモリ事業の売却は、2017年度の早い時期に決めたい。メモリ事業への外部資本の導入により、2019年までの資金収支は、確実にプラスになる」と語る。

入札企業には、海外勢の名前が取りざたされるが、「日本の企業が入札しているかどうかを含めて、どこが入札しているのかは、具体的な名前はいえない」とする。半導体技術の流出を懸念する動きも、入札に影響を及ぼすことになる。

○「再度チャレンジ」する

前任の室町正志氏の社長時代の2015年12月に、東芝は、「新生東芝アクションプラン」を打ち出した。バトンを受けた綱川社長も、就任発表会見では、「私に課せられているのは、室町が先頭になって取り組んでいる新生東芝への路線を引き継ぎ、新生東芝アクションプランによるステイクホルダーの信頼回復、強靱な企業体質への変革である」としていた。だが、このプランはとん挫した。そして、今回の会見では、この「新生東芝」とは違う、新たな「新生東芝」が打ち出された。

「また、振り出しに戻ったといえる状態。新たな気持ちで『新生東芝』に挑む。言葉は同じだが、再度チャレンジする」と綱川社長は語る。

新生東芝は、「再び成長をできる姿」を確立することが最優先事項だ。だが、東芝には、これからの成長を担う柱となる事業が見当たらない。「新生東芝は、社会インフラを核とした事業領域に注力する」と綱川社長は語るが、柱がなく、成長を牽引する事業が見当たらない東芝の姿には疑問符がつく。外科手術から復帰し、東芝が再び立ち上がった新たな姿を見せるには、多くの時間を費やすことになりそうだ。

(大河原克行)