男性介護者が気をつけるべき6つのこと

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介護を語る上で欠かせない言葉に、「2025年問題」がある。約800万人いる団塊の世代が、75歳を迎えるのが2025年。この歳を超えると、急速に介護や医療が必要になる人が増え、家族への負担も大幅に増えると予想されている。

企業や社会にとって、その2025年を前に仕事と介護を両立させる仕組みづくりが喫緊の課題となっている。介護離職をなくすためにはどうすればいいのか。また、今後増えると見込まれる、男性介護者が気をつけなければいけないこととはー。

現在、人材育成やコンサルティング事業を展開する企業を経営し、事業構想大学院大学で特任教授などを務める傍ら、私生活では20年以上にわたり母親の介護を続ける酒井穣氏。そして、実家・鹿児島で要介護の父親、老老介護を行う母親を支えながら「IT業界の女帝」として日本のスタートアップシーンをリードしてきたウィズグループ代表の奥田浩美氏。

東京ウィメンズプラザで開催されたイベント「変わる・変える・男性の介護〜『他人ごと』ではない『自分ごと』の介護とは?〜」で、両氏に介護問題解決のヒントを聞いた。

1. 介護離職をしない

昨今の高い未婚率や兄弟姉妹数の減少傾向、専業主婦というリソースの低下、施設入居の難しさなどを背景に、働きながら介護を行う人は確実に増加傾向にある。これにともない、従来の主たる介護者であった女性に加え、男性も介護を担うようになってきた。特に東京都では、介護による男性の離職者が全国を上回るペースで増加している。

「何よりもまず、絶対に介護離職してはいけない」と酒井氏はいう。介護には3つの負担がある。肉体的・精神的・金銭的な負担だ。負担を減らしたいがために選択する離職だが、結果的に「肉体的・精神的・金銭的負担の3つ全て上がってしまうことが明らかになっている」と指摘する。

「介護離職をして、その後、新たな職場で仕事を得たとしても、年収は男性で4割減、女性で半減というデータもある。これもあくまで次に仕事が見つかった場合。現実は、再就職まで1年以上かかっているケースが大半で、金銭的な負担が確実に増す」

しかし問題は個人の金銭的負担にとどまらない。介護離職は国にとっても大きな問題だ。労働力の喪失による経済成長の妨げ、さらには、税収の減少というかたちでじわりと日本にきいてくる。「介護離職を…」と考えた時、一回立ち止まる。この勇気が必要だ。



2. 「あいうえお」に縛られない

奥田氏は「私たちは『あいうえお』に縛られすぎている」という。「あいうえお」というのは、「あ:あきらめ」「い:いいわけ」「う:うしろむき」「え:えんりょ」「お:おもいこみ」のことだ。中でも、文化的背景から、昔から受け継がれてきて、現代にそぐわない価値観や評価軸からくるおもいこみは介護分野において非常にやっかいだ。

「『昔はこうだった』ということにわざわざ聞く耳を持たなくていい。だって、昔はヘルパーさんもいなかったし、システムも今とはまるで違うはず」と奥田氏はいう。

また、酒井氏も「実際、プロの介護専門職の方にお願いするだけで、親戚から怒られてしまうようなケースも聞く。しかし、そういうことの積み重ねが、介護者を追い込み、介護殺人や自殺につながってしまう」と警鐘を鳴らす。

だから、人を動けなくする「あいうえお」から、自ら解放される。そして、とにかく動いてみて、自分自身が納得・満足できるか、そこを目指してみる。

3. ためいきが出るところにチャンスがある

「なぜ転倒を回避できなかったのだろう」「どうして夜中の排泄を予知できなかったのだろう」

介護に向き合う人びとにとって、ためいきは避けて通れないものだ。しかし、奥田氏は指摘する。「ためいきがあるからこそ、そこからソリューションが生まれる。ためいきの交換をしていくことによって、同じ課題で人や地域同士がつながることができる」。

「介護というと、これまで女性しか集まらなかった。しかし、『介護の課題のソリューションを見つけましょう』『技術を使って介護状況を改善しましょう』という話をすると、どんどん男性がで出ててくれるようになった。男性は”社会性の動物”なんです。だからこそ、そのチャレンジの主体となってくれる男性が、今後この分野で活躍できるんです」

「ためいき」を見逃さない。ためいきが大きければ大きいほど、そこにはイノベーションのシーズが埋まっている。

4. プレイングマネージャーではない、「マネージングリーダー」であれ

酒井氏は、自身の介護経験を活かしてKAIGO LABというメディアを立ち上げ、KAIGO LAB SCHOOLの学長としても介護問題に取り組んでいる。これまで多くの男性介護者を研究してきた氏によると「男性介護のほうが破綻しやすい」と危惧する。残念ながら、介護殺人や虐待などのニュースは男性介護者に多いのも事実だ。

そんな男性介護者に勧めるのは、「マネージングリーダーになれ」ということだという。つまり、なんでも自分でやってしまうプレイングマネージャータイプよりも、ひとりひとりの介護に関わってくれる人たちの特性や強みを把握しながら、人材をうまく使い、目的や成果に結びつけていくというやり方だ。仕事場で得たマネジメント理論こそ、介護の場に応用できるはずなのである。



5. 介護人脈をつくる

介護はチーム戦だ。孤立して戦えるものではない。ひとりで抱え込まず、プロや周りのひとたちの助けを得ながら向き合っていく。これこそが男性の目指すべき介護者のあり方だ。では、どうやってその介護人脈を見つけていくのか。

統計的な事実ではないものの、介護現場からの聞き取りで見えてくる男性介護の特徴があると酒井氏はいう。それは、「介護に限らず、男性はとかく見栄を気にするので、SOSを発することに恥ずかしさを覚え、すべて自分で片付けようとしてしまう」ことだ。結果的に周囲に相談をすることができず、介護を抱え込んでしまう傾向があるという。また「男性はまじめすぎて一生懸命になり、頑張りすぎる特徴がある」とも指摘。しかし、大事なのは結果であり、プロセスではない。

具体的なアクションのとり方としては、介護のプロに助けを求めるだけではなく、家族会のような介護情報の集まるところに参加すること。男性は新たな集団に入ろうとするとき、マウンティングがあり、それが嫌で足が遠のいてしまうことも多いそうだ。

しかし、男性は一旦覚悟を決めたら勉強を楽しめる側面をもつ。介護のための多くの「知」を集めていくことを目的に、同じ悩みを持つ仲間を作るためにも介護人脈を作っていくことが肝要だ。

6. 成長の機会ととらえる

介護はときに介護者から時間や労力だけでなく、仕事や人生まで巻き取ってしまうことがある。しかし、それは気持ちや準備の仕方次第で、回避したり、乗り越えたりすることが十分に可能だ。

周囲の助けを獲得しつつ、自らの介護の量を減らしていく。そして、目標を立て、その達成を楽しむくらいの気持ちで臨む。特に男性介護者は、自らが仕事上で学んだ理論や経験が大いに活かせる。

酒井氏は最後にこう述べた。「『介護とは、すべての人に与えられる絶好の成長のチャンス』である」、と。

酒井穣(さかいじょう)◎BOLBOP代表取締役。事業構想大学院大学・特任教授。NPOカタリバ理事。ビジネスパーソンに向けた介護情報サイトKAIGO LAB主宰。自身の20年以上に及ぶ介護経験を、お蔵入りさせるのではなく、広く介護に悩んでいる人々と共有したいという「想い」からKAIGO LABを立ち上げた。誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指す。

奥田浩美(おくだひろみ)◎ウィズグループ代表取締役。株式会社たからのやま代表取締役。IT関連の巨大カンファレンスを運営し成功に導くかたわら、起業家のスタートアップ支援を積極的に行う。また、自身が5年以上の遠距離介護のさなかであり、介護関連のプロジェクトを開始。介護分野におけるロボット検証・共創の取り組みをはじめ、ITを通じて地域格差や高齢者問題などの社会問題を解決する取り組みを行っている。