日本のマスコミはトランプ大統領のどんな発言、小さな動作にも一喜一憂し、大統領が繰り出す新しい政策に驚きの反応をみせる。日本では、トランプ大統領の政策は予測が不可能だという認識が定着しつつあるようだ。

 ところが現実は異なる。トランプ大統領が進めている政策はすべてすでに発表済みの公約であり、それらを順番に実行に移しているだけである。

 トランプ氏は選挙戦の終盤に「米国有権者たちとの契約」という声明を公表した。もし自分が大統領になったら、就任の当日あるいは100日以内にこういうことを実行する、と約束したリストである。その内容を知っていれば、トランプ大統領の施策に驚かされることはない。すべてそのシナリオ通りだからだ。

 この「米国有権者たちとの契約」の具体的な内容は日本のニュースメディアではほとんど報道されていない。そこで、今回はその全容を紹介しよう。その内容を知れば、トランプ政権の今後の動きもみえてくるはずだ。

あの歴史的演説の場所で政策を表明

 トランプ氏はこの「米国有権者たちとの契約」を2016年10月22日、ペンシルベニア州ゲティスバーグにおける演説の中で発表した。

 ゲティスバーグといえば、1863年にエイブラハム・リンカーン大統領が「人民の、人民による、人民のための政治」をうたった有名な演説をした場所である。リンカーンと同じ共和党の大統領候補だったトランプ氏は、リンカーンにあやかるかのようにゲティスバーグを演説の場所に選び、自らの政策を大々的に表明した。

 10月22日は、大統領選投票日の11月8日まで残りわずか16日だった。自陣営の世論調査などにより、トランプ氏は自分が米国の大統領になることをすでに確信していたのだろう。具体的な政策がぎっしりと盛りこまれた演説は、そんな自信を強く感じさせた。

 トランプ氏は演説の冒頭で、まず次ように述べた。

「私はいま、米国国民のみなさんに、破たんした政治の混乱を乗り越えて、米国の国民性の中核である強い信念と楽観を抱きしめることを求めます。大きな夢を抱いてほしいのです」

「これから明らかにするのは、『米国を再び偉大にする』ための100日間の私の行動計画です。ドナルド・トランプと米国の有権者との契約です」

 そしてトランプ氏は大統領としての具体的な政策をいくつかのカテゴリーに分けて提示していく。

ワシントンDCを浄化する6つの措置

 まずトランプ氏は、「大統領就任の初日、私の政権はワシントンDCの腐敗と特権の癒着を浄化するために、即時に6つの措置をとります」と宣言した。それは以下の6つの措置だった。

(1)連邦議会のすべてのメンバーの任期を制限する憲法修正案の提案

(2)軍事、公共安全、公衆衛生を除くすべての連邦職員を自然減の形で減らすための新規採用凍結

(3)連邦政府の新規制を1つ作る際には必ず既存の規制を2つ撤廃することの義務づけ

(4)ホワイトハウスや議会のメンバーが退官後にロビイストになることを5年間禁止

(5)ホワイトハウスの職員が退官後に外国政府ロビイストになることを禁止

(6)外国ロビイストが米国選挙に資金を提供することを禁止

米国の労働者を守る7つの行動

 トランプ氏はさらに、大統領就任の初日に始める「米国の労働者を守るための7つの行動」を以下のように挙げた。

(1)北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、あるいは撤退の意図を表明する

(2)環太平洋パートナーシップ(TPP)からの離脱を発表する

(3)中国を通貨レート不正操作国に指定するよう財務長官に指令する

(4)米国人労働者に不当な影響を及ぼす、すべての外国の貿易不正慣行を認定し、商務長官と米通商代表にそれらの不正慣行を即時に終わらせることを命令する

(5)シェールオイル、石油、天然ガス、精炭などを含む米国エネルギー資源の生産に対する規制を解除する

(6)キーストーン・パイプラインのような重要なエネルギ―・インフラ計画を承認し、それを阻んできたオバマ・クリントン陣営による障害を取り除く

(7)国連の気候変動対策への数十億ドルの資金提供を止めて、その資金を米国の水資源や環境インフラの是正のために使う

安全保障と憲法の統治制度を回復させる5つの行動

 トランプ氏はさらに演説を続け、「大統領就任の初日、私は安全保障と憲法上の法の統治を回復するために5つの行動をとります」と語った。5つの行動とは以下の通りである。

(1)オバマ大統領が発した違憲の執行令、覚書、指令のすべてをキャンセルする

(2)最高裁判所の故スカリア判事の後任を、私がリストアップした20人の判事たちの中から選ぶプロセスを開始する

(3)「聖域都市」(違法入国者の取り締まりをしない米国内の地方自治体)への連邦資金の供与をすべて停止する

(4)米国内の200万人以上の犯罪歴のある違法入国者を国外に追放する。それら違法入国者を自国に受け入れない国には、米国への入国査証を発行しない

(5)身元審査を適切に行えないテロ懸念地域からの米国入国を一時停止する。同時に今後米国入国者へのすべての身元審査を厳重に行う

100日以内の成立を目指す10の法案

 トランプ氏は最後に、「私は議会と協力して次の立法措置案を議会に提出し、政権の最初の100日以内にその成立を目指します」と断言した。その立法措置案として挙げたのが、以下の10項目である。

(1)中間所得層の税金の負担救済と簡素化(4%の経済成長率、2500万人分の雇用の創出を目指す減税措置をとる)

(2)企業外国移転法の撤廃(米国企業が海外移転のために米国内の従業員を解雇することなどに特別税をかける)

(3)米国エネルギー・インフラ法の制定(今後10年間に官民共同で合計1兆ドルのインフラ建設投資を実現する)

(4)学校自由選択・教育機会法の制定(子供を通わせる学校の種類を両親に自由に選ばせる)

(5)オバマケアの撤廃と代替法の制定(オバマ大統領の医療保険改革制度を全廃し、政府の介入の少ない制度に代える)

(6)適正子供医療保険法と高齢者医療保険法の制定(子供と高齢者の公的医療保険を、税制面での優遇と組み合わせて制度化する)

(7)違法入国停止法の制定(メキシコとの間に違法入国を防ぐ壁を建設し、メキシコ政府に経費を負担させるとともに、違法入国常習者への刑罰を重くする)

(8)共同社会安全回復法の制定(麻薬や暴力の犯罪を減らすために、連邦、地方での捜査や検挙の活動を厳しくする)

(9)国家安全保障回復法の制定(オバマ政権時代の財政赤字削減のための国防費削減措置を撤廃する)

(10)ワシントン腐敗浄化法の制定(特別利益団体に絡む腐敗を撲滅する)

 以上が、トランプ候補が掲げた「選挙公約」である。公約をすべて発表した後に、トランプ氏は以下のように訴えた。

「これが私の誓いです。もし私たちがこれらの通りに進めば、もう一度、人民の、人民による、人民のための政府を作り上げることができるのです」

 トランプ氏は、まさにリンカーン大統領の演説を模して演説を終えた。トランプ氏はこの「米国有権者との契約」を、選挙に勝利した翌日の11月9日の演説でもそのまま繰り返した。

実は非常に手堅いトランプ政治

 トランプ大統領の就任から約2カ月が過ぎたいま、この公約の内容を点検すると、その多くが驚くほど着実に実行されていることが分かる。

 オバマケアの撤廃、メキシコとの壁の設置、TPPからの離脱、NAFTAの見直し、テロ懸念国家からの米国への入国の一時禁止、違法入国者への取り締まり強化、インフラ建設、米国企業の外国移転の抑制・・・反対も激しく意外性のあるこうした新措置は、いずれもトランプ氏の大統領就任前に具体的に誓約されていたのだ。誓約に記されていたのにまだ手がつけられていない主要政策は、中国の通貨レート不正操作国指定ぐらいであろう。

 この「契約」リストをみながらトランプ大統領の新政策、新措置を追ってみると、破天荒にみえるトランプ政治が実は非常に手堅く、当初の計画に沿って進められていることが分かるのである。

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筆者:古森 義久