MF佐々木陽次(カターレ富山)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 自らが再び纏うことを夢見ていた青赤の若武者たちとピッチ上で対峙する。「今日のスタジアムの中で一番気合が入っていたんじゃないですか?」という問いかけに、「そうですね」と即答した男は「色々な想いがあって、今日の相手のことを考えても、やっぱり燃えていましたね」と静かに言葉を紡いだ。2017年は「“勝負の年”以上というか、本当に自分がまた上がっていけるか、下がっていくかが明確になる1年」と位置付けている。佐々木陽次(カターレ富山)が挑む決意のシーズンは、“後輩たち”との90分間でその幕が上がった。

 富山から単身で上京したのは15歳の春。ナショナルトレセンにも選出されていた佐々木は、いくつかの選択肢の中からFC東京U-18の門を叩く。同期には武藤嘉紀(マインツ)、廣木雄磨(山口)、松藤正伸(沼津)らの実力者が揃う中、1年時から出場機会を得ると、最高学年となった3年時には10番を託される。橋本拳人(FC東京)とドイスボランチを組むことの多かった当時を、「あの時は流れも何も考えずに『ボール寄こせ。オレがやってやるから』という勢いだけでした」と笑って振り返る佐々木。チームは高円宮杯、Jユースカップと2度の全国準優勝を経験したものの、その年のトップ昇格者はゼロ。それぞれが大学へと進学していく中で、佐々木も東京学芸大学へその進路を定めた。

 大学でも1年の前期リーグ開幕戦でいきなりスタメンに抜擢され、以降も主力としてコンスタントに出場を重ねていく。ただ、チームは2年時を除いて2部生活を余儀なくされ、自身も結果に恵まれない日々が続く。結局、帰るはずだと信じていたFC東京からのオファーは届かず、「あれほど落ち込んだことはなかったですし、ああいう悔しさは本当に思い出したくないですね」という佐々木は徳島ヴォルティスへと加入することになったが、15試合に出場したルーキーイヤーから一転して、昨シーズンは一度もリーグ戦のピッチに立つことは叶わず、「イメージしていた自分とはかなりギャップがあったので、『ここで地元に戻っていいのか』という気持ちもあって凄く迷った」末に、2017年は富山の地で再起を懸けた1年間を過ごすことを決意する。

 地元での躍動を誓った新シーズン。なかなか振り向いてくれなかったサッカーの女神は、佐々木にある“偶然”を用意する。開幕戦の相手はFC東京U-23。「FC東京とのホームゲームとアウェイゲームでは『絶対自分がゴールを決めてやる』という想いは、富山に来ることを決めた時にも思っていた」彼にとって、カターレデビューとしてこれ以上のシチュエーションはない。しかも相手チームを率いる中村忠監督は、ナショナルトレセン時代に指導を受けたこともあり、東京ヴェルディユースへ熱心に勧誘してくれた「本当に色々お世話になった人」でもある。一言では言い表せない感情を内包しながら、佐々木は開幕戦の舞台となった夢の島競技場のピッチヘ歩を進める。

 開始3分。左サイドをドリブルで運び、そのままシュートにトライする。惜しくもGKにキャッチされたものの、積極性をファーストプレーに滲ませる。「周りがいたのもわかっていたけど、最初の1本目は自分でドリブルして、自分でシュートまで持っていくと最初から決めていた」そうだ。「ウチは『どこがリズムを掴むのに重要か』というのはまだまだわからないチームだと思っていて、『どういう流れの時にどういうプレーをする』というのは自分で考えてプレーしているつもりなので、ああいうシュートを打ったというのもあります」とチームのことを念頭に置いた発言を聞き、「大人になりましたね」と口を挟むと、「そうですね。チームのためにどうするべきかというのを考えてやれるのは、勢いだけだった高校の頃から成長した部分かなと思います」と苦笑する姿に、彼が自らの年輪に刻んできた苦労の数が偲ばれた。

 

 カターレは佐々木のスルーパスを起点に獲得したFKで前半の内に先制すると、後半にも追加点を記録し、2-0と開幕戦を白星で飾る。後半アディショナルタイムに交替するまでエネルギッシュに走り切った佐々木は、タイムアップの瞬間をベンチで迎えた。試合終了を告げるホイッスルが鳴ってから1分余り。椅子に座って一人動かず、ピッチを見つめていた姿が印象に残っている。「『認めてもらえなかった』という自分の不甲斐なさと、『それでも俺はやれるんだぞ』という想いはどこかであって、それは過信かもしれないですけど、そういう部分を『プレーで示してやる』という想いを整理しながら、自分に『やれるんだぞ』と言い聞かせて試合に入りましたね」。FC東京という特別な相手に自分の存在価値を証明したかった。それが果たせたか否かは、もちろん自分ではわからない。

 プロとして初めて“古巣”と対戦した感想を、佐々木はこう語っている。「正直に言えば悔しいですけど、今日出ていたメンバーは自分のU-18の後輩に当たるメンバーが多かったですし、みんな良い選手で、『あの年代でもこれだけやれるから、こういう舞台に出てくるんだな』という想いも自分で噛みしめながら、その悔しさを『自分のバネにするしかないな』という感じです」。結果を求めて臨んだ90分間。「今日は本当に何もしていないと自分では思っているので、ゴールやアシストという結果を残さないと意味がないですね」と厳しい自己採点を口にした佐々木だったが、敵将の中村からは試合後に賛辞を送られたという。「忠さんに『今日は活躍したね』みたいに言ってもらえたので、そういうのは素直に嬉しかったです」。ようやくその表情に笑顔が灯った。

 8年ぶりに帰って来た故郷は「やっぱり居心地がいい」ようだ。次節は「友人たちも『見に行くよ』と言ってくれている」ホーム開幕戦。それでも、佐々木はそんな環境に甘えるつもりは毛頭ない。「よく多くの選手が“勝負の年”と言うと思うんですけど、僕にとっての今年は“勝負の年”以上というか、本当に自分がまた上がっていけるか、下がっていくかが明確になる1年かなと思っています。数字という結果を残して上がっていくか、「良い選手だったね」で終わるかの二択だと思うので、それを自分に言い聞かせて、『どっちに傾くのか』という、本当に自分自身との戦いの1年かなと思います」。

 新加入にも関わらず、カターレサポーターがこの日のために用意したチャントが、夢の島のスタンドに響く。「オーオ ヨウジ!オーオ ヨウジ!オーオ ヨウジ!ヨウジ!ヨウジ!」。3月12日。これから同じ時間を共有していくカターレサポーターと、かつて同じ時間を共有していたFC東京サポーターに見守られ、佐々木陽次の『“勝負の年”以上の1年』がスタートした。

■執筆者紹介:

土屋雅史

「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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