ソウル光化門前で朴大統領の退陣を求める市民。(全景林/大紀元)

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 3月10日、韓国憲法裁判所が朴槿恵大統領を罷免した。この訳文は判決文の全訳であり、理解の助けとして編集者が適宜注釈等を附している。

判決文

 今から2016ホンナ1大統領朴槿恵弾劾事件(注:2016年に初めて受理された弾劾審判)の宣告を開始します。

 宣告の前に、この事件の進行経過について話します。 

 私たち裁判官は過去90日余りの間、この事件を公正かつ迅速に解決するために全力を尽くしてきました。今まで大韓民国国民の方々も多くの焦燥と苦悩の時間を送られたと思います。私たち裁判官は、この事件が裁判所に受理された昨年12月9日以降、今日まで休日を除く60日余りの間、毎日の裁判官評議を行いました。裁判の過程の中で行われたすべての進行と決定に裁判官全員の議論を経ていない事項はありません。

 私たちはその間、3回の準備期日と17回の弁論期日を定め、請求側証拠の「甲第174号」証に至る書証と12人の証人、5件の文書送付嘱託の決定および1件の事実照会決定、被請求人側の証拠人を「第60号」証に至る書証と17人の証人(注:アン・ジョンボムを重複して計上したため17人となった)、6件の文書送付嘱託の決定および68件の事実照会決定を通して証拠調べを行い、訴追委員と両方の代理人たちの弁論を聞きました。調べた資料は48,000件以上に達し、当事者以外の方が提出した嘆願書などの資料も40箱に達します。 

 大韓民国国民の皆様がご存知であるように、憲法は大統領を含め、すべての国家機関の存立の根拠であり、国民はそのような憲法を作り出す力の源であります。裁判所は、この点を深く認識し、歴史の法廷の前に立つ当事者の心情でこの宣告に取り組む所存であります。私たち裁判所は、国民から与えられた権限に基づいて行われる今日の宣告が、国論の分裂と混乱を終息させることを願います。またいずれの場合も、法治主義は揺れてはならない、我々が一緒に守っていくべき価値であると思います。 

 今から宣告を開始します。 

 (1)本弾劾訴追案の可決手順に関連して欠陥がないか調べる 

 ・訴追議決書に記載された訴追事実が具体的に特定されていない点について説明します。 

 憲法上の弾劾訴追事由は、公務員がその職務の執行において憲法や法律に違反した事実が存在することであり、ここでの法律は刑事法に限定されません。そして弾劾判決の効力は対象者を公職から罷免することであって刑事責任を問うものではありません。したがって、被請求人は防御権を行使することができ、審判対象を確定できる程度で事実関係を記載すれば結構です。 

 この訴追判決の中で憲法違反行為の部分が明瞭に分類されていないことは否定できませんが、法律違反行為の部分と総合してみると、訴追理由を特定することができます。 

 ・次に、この弾劾訴追案を議決した当時、国会法制司法委員会の調査を得ずに提訴状と新聞記事の程度で証拠として提示したという点について説明します。

 国会の意思手続きの自律は権力分立の原則上、尊重されるべきものです。国会法により弾劾訴追発議の際の理由調査がどうであったかについては、国会の裁量の定めるところであって、その議決が憲法や法律に違反したものと見ることはできません。 

 ・次に、この訴追議決が(国会による)何の議論もなく進行されたことについて説明します。 

 議決当時の状況を見てみると、議論せずに採決が行われたのは事実ですが、国会法によると必ずしも議論を経なければならないという規定はなく、事前に賛成または反対の意見を国会議長に通知することで議論することはできます。

 ところが当時、議論を希望した議員は一人もなく、国会議長が議論希望者を阻止した事実もありません。

 ・弾劾事由は個々の事由ごとに議決手続きを経なければならなのにも関わらず複数の弾劾事由全体に対して一括して議決したのは違法ではないか、という点について説明します。 

 訴追事由が複数ある場合において、事由別に投票するか、それとも複数個の事由を一つの訴追案にまとめた上で投票するかは、訴追案を発議する国会議員の自由な意思に委ねられる部分であり、投票の方法に関していかなる明文規定もありません。 

 ・8人の裁判官による宣告が9人で構成される(裁判所からなされたことは)、裁判所から公正な裁判を受ける権利を侵害したのではないか、という点について見てみましょう。

 (韓国)憲法裁判所は、憲法上9人の裁判官で構成されています。ところが、現実的に裁判官が公務上の出張や病気、裁判官退任後の後任裁判官任命までの間の空白など、様々な理由により裁判に関与することができない場合が発生する可能性はあります。憲法と法律では、このような場合に備えた規定を設けています。

 弾劾の決定をする際は、6人以上の裁判官が賛成しなければならず、裁判官7人以上の出席で事件を審理することができると規定しています。

 9人の裁判官がすべて臨席した状態で裁判をすることができるまで待たなければならないという主張は、現在のように大統領権限代行が憲法裁判所長を任命することができるか議論がされている状況では、最終的には審理をしないという主張になり、弾劾訴追による大統領の権限停止状態という憲政の危機的状況をそのまま放置する結果となります。

 8人の裁判官でこの事件を審理して決定するため、憲法と法律上何の問題もない以上、憲法裁判所としては憲政の危機的状況を継続して放置することはできません。

 従って、国会の弾劾訴追可決手順に憲法や法律上の違法はなく、他の適法要件にいかなる欠陥もありません。

 

 (2)弾劾事由について

 まず、弾劾事由別に被請求人の職務執行において憲法や法律に対する違法行為の有無について見てみます。

 ・公務員任免権を乱用して職業公務員制度の本質を侵害したという点について説明します。

 (韓国)文化体育観光部のノ・テガン局長とジン・チェス課長が被請求人の指示によって問責・人事(注:人事異動と思われる)され、ノ局長は最終的に名誉退職し、長官だったユ・ジンリョンは免職され、大統領秘書室長ギム・ギチュン氏が第1次官に指示して1級公務員6人から辞表を提出させて、そのうちの3人の辞表が受理されたという事実は認められます。

 しかし、この事件に現れた証拠を総合しても、ノ局長とジン課長がチェ・ソウォン(前注:チェ・スンシルの改名後の名前)の私益追求の妨げとなったため被請求人に人事されたと認めるには証拠不足で、ユ・ジンリョンが免職された理由やギム・ギチュンが6人の1級公務員に辞表を提出させた理由も明らかではありません。

 ・メディアの自由を侵害したという点について説明します。

 請求人は、被請求人が圧力を行使し、世界日報の社長を解任したと主張しています。世界日報が青瓦台民政首席秘書官室で作成されたジョン・ユンホィ文献を報道した事実、そして被請求人がこれらの報道に対し青瓦台(大統領官邸)文書の外部への流出は国基を乱す行為であり、検察が徹底的に捜査して真実を明らかにすべきだとして文書の流出を非難した事実は認めます。

 しかし、この事件に現れたすべての証拠を総合しても、世界日報に具体的に誰が圧力を行使したのかは明らかにならず、被請求人が関与したと認めるに足りる証拠はありません。

 ・次にセウォル号事件に関する生命権保護義務と職責誠実義務違反の点について説明します。

 2014年4月16日にセウォル号が沈没し、304人が犠牲となった惨事が発生しました。当時、被請求人は官邸に留まっていました。

 憲法では、国家は、個人が持つ不可侵の基本的人権を確認し、これらを保証する義務を負うと規定しています。

 セウォル号沈没事件は、すべての国民が大きな衝撃と苦痛を抱えた惨事という点で、どのような言葉でも犠牲者を慰めるには足りません。

 被請求人は、国家が国民の生命と身体の安全保護義務を忠実に履行することができるように権限を行使し、職責を履行しなければならない義務を負担します。

 しかし、国民の生命が脅かされる災害状況が発生した際、被請求人が直接的に救助活動に参加しなければならないなど、個別・具体的な行為義務まで負うとは解釈しがたいのです。

 また、被請求人は憲法上、大統領としての職責を誠実に遂行する義務を負担します。

 ところが、誠実の概念は相対的かつ抽象的であり、誠実な職務遂行義務のような抽象的な義務規定の違反を理由に弾劾訴追をするには難しい部分があります。

 憲法裁判所はすでに、大統領の誠実な職責遂行義務は、規範的にその履行が貫徹されないため、原則として司法判断の対象となることができず、政治的無能や政策決定上の誤りなどの役職実行における誠実さの問題は、それ自体では訴追事由になることができないとしました。

 セウォル号事故はその悲惨さが言い尽くせませんが、セウォル号惨事の当日、被請求人が職責を誠実に遂行したかどうかは、弾劾審判手続きの判断対象となりません。

 

 (3)被請求人の親友であるチェ・ソウォンの国政干渉問題と権利の濫用について

 被請求人に報告されている書類のほとんどは付属秘書官であったジョン・ホソンが被請求人に伝えたが、ジョン・ホソンは2013年1月頃から2016年4月頃まで、様々な人事資料、閣議の資料、大統領の海外歴訪日程やアメリカ国務長官との会見資料など、公務上の秘密を含む文書をチェ・ソウォンに伝えました。 

 チェ・ソウォンは、その文書を見てこれらに関する意見を与えたり、内容を変更したり、被請求人のスケジュールを調整するなどの職務活動に関与することもありました。

 また、チェ・ソウォンは公職の候補者を推薦し、そのうちの何人かは、チェ・ソウォンの利権追求を手伝いました。

 被請求人は、チェ・ソウォンからケイディ・コーポレーションという自動車部品会社の大手企業への納品を頼まれてアン・ジョンボムを通して現代自動車グループの取引を依頼しました。

 被請求人は、アン・ジョンボムに文化と体育関連財団法人を設立するように指示し、大手企業から486億ウォンを受けて財団法人ミール、288億ウォンを受けて財団法人Kスポーツを設立しました。

 しかし、2つの財団法人の従業員任免、事業の推進、資金の執行、業務指示など運営に関する意思決定は被請求人とチェ・ソウォンが行い、財団法人に出捐した企業は全く関与できませんでした。

 チェ・ソウォンはミールが設立される直前に、広告会社であるプレイグラウンドを設立して運営していました。 チェ・ソウォンは、自分が推薦した役員を介してミールを掌握し、自分の会社であるプレイグラウンドと請負契約を締結するようにさせ、利益を取りました。

 そしてチェ・ソウォンの要求に応じて、被請求人はアン・ジョンボムを介してケイティに特定の人員2名を採用することにした後、広告関連業務を担当するように要求しました。 その後、プレイグウンドはケイティの広告代理店に選ばれてケイティから68億ウォンに達する広告を受注しました。

 また、アン・ジョンボムは被請求人の指示で現代自動車グループにプレイグラウンドの紹介資料を送信し、現代とKIA自動車は新広告会社であるプレイグラウンドに9億ウォンに達する広告を発注しました。

 一方、チェ・ソウォンはKスポーツ設立一日前にザ・ブルーKを設立し、運営しました。

 チェ・ソウォンはノ・スンイルとパク・ホンヨンをKスポーツの職員として採用し、ザ・ブルーKと業務協約を締結させました。

 

 被請求人は、アン・ジョンボムを介してグランドコリアレジャーとポスコがスポーツチームを創立するようにさせ、ザ・ブルーKがスポーツチームの所属選手のエージェントや運営を任せるようにしました。

 チェ・ソウォンは、(韓国)文化体育観光部第2次官キム・ジョンを介して地域スポーツクラブ全面改編に関する文化体育観光部の内部文書を受け取り、Kスポーツがこれに関与してザ・ブルーKが利益を取る方案を用意しました。

 また、被請求人はロッテグループ会長と個人的に会い、5大拠点体育人材育成事業と関連し(韓国)河南市に体育施設を建設するための資金支援を要求し、ロッテはKスポーツに70億ウォンを送金しました。

 ・次に、被請求人のこのような行為が憲法と法律に違反するかを説明します。

 憲法は、公務員を「国民全体の奉仕者」と規定し、公務員の公益実現の義務を明らかにしています。この義務は国家公務員法及び公職者倫理法等を介して具体化されています。

 被請求人の行為は、チェ・ソウォンの利益のために大統領の地位と権限を濫用したものであり正当な職務遂行と見なすことができず、憲法、国家公務員法、公職者倫理法等に違反したものです。

 また、財団法人ミールとKスポーツの設立、チェ・ソウォンの利権介入に直接・間接的に支援を与えた被請求人の行為は、企業の財産権を侵害しただけでなく、企業経営の自由を侵害したものです。

 そして被請求人の指示や放置に応じて、職務上の秘密に該当する多くの文書がチェ・ソウォンに流出したことは、国家公務員法の守秘義務に違反したものです。

 ・これまで説明した被請求人の法違反行為が被請求人を罷免するほど大きいかについて説明します。

 大統領は、憲法と法律に基づいて権限を行使しなければならないだけでなく、公務遂行は透明に公開し、国民の評価を受けるべきです。

 ところが被請求人は、チェ・ソウォンの国政介入の事実を徹底的に隠し、それに関する疑惑が提起されるたびにこれらを否定し、むしろ疑惑提起を非難しました。これにより、国会などの憲法機関による牽制やメディアによる監視作用が正常に機能することができませんでした。

 また被請求人は、ミールとKスポーツ設立、プレイグラウンドとザ・ブルーKとケイディ・コーポレーションへのサポートなど、チェ・ソウォンの私益追求に関与・支援しました。

 被請求人の憲法と法律に対する違反行為は、在任期間中に継続的に行われ、国会とマスコミの指摘にもかかわらず、むしろ事実を隠蔽して関係者を締めつけてきました。その結果、被請求人の指示に従ったアン・ジョンボム、キム・ジョン、ジョン・ホソンなどが腐敗犯罪容疑で拘束起訴されるという重大な事態にまで至りました。

 これらの被請求人の違憲・違法行為は代議民主制の原理と法治主義の精神を毀損するものです。

 一方、被請求人は国民への談話で真相究明に最大限協力すると述べたが、検察と特別検査の調査に応じず、大統領官邸への家宅捜索をも拒否しました。

 この訴追理由と関連した被請求人の一連の言動を見ると、法律違反行為が繰り返されないようにする憲法保護の意志が表れていません。

 最終的に、被請求人の違憲・違法行為は国民の信任を裏切るもので、憲法保護の観点から容認できない重大な法律違反行為だと見なければなりません。被請求人の違法行為が憲法秩序に及ぼす否定的な影響と波及効果が大きいため、被請求人を罷免することにより得られる憲法保護の利益は非常に大きいと言えます。

 (4)裁判官全員の一致した意見で主文を宣告

 主文、被請求人である大統領・朴槿恵を罷免します。

 本判決には、ギム・イス裁判官とイ・ジンソン裁判官の補足意見として、セウォル号の惨事に関連して被請求人は生命権の保護義務に違反していないが、憲法上の職務遂行誠実義務及び国家公務員法上の誠実義務に違反した事実は認められるものの、そのような事由だけでは罷免の理由を構成するのは難しいとするものがあります。

 [省略](注:補足意見の趣旨として、被請求人の生命権保護義務違反を認めていない点では法廷意見と同じだが、被請求人が憲法上、大統領の誠実な職責遂行義務と国家公務員法上の誠実義務に違反したものの、この事由でただちに罷免の理由を構成するのは難しいというもの。しかし将来の大統領が国家の危機的状況で職務を不誠実に実行しても構わないという誤った認識が遺産として残され、多くの国民の生命と安全が失われる不幸なことが繰り返されることのないよう、被請求人の誠実な職責遂行義務違反を指摘する、という内容。)

 また、この弾劾審判は保守と進歩という理念の問題ではなく、憲法秩序を保護する問題で政治的弊習を清算するために罷免決定をするしかないというアン・チャンホ裁判官の補充意見があります。

 これにて宣告を終了します。

(翻訳・斎潤/編集・文亮)