英国随一のストーリーテラーが、素朴かつ雄弁に綴る“エール”。ローラ・マーリング『センパー・フェミナ』(Album Review)

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 ティーンエイジャーのうちにデビューして以来、10年に渡って活躍し続けているUKフォークの歌姫、ローラ・マーリング。彼女の思慮深く雄弁なストーリーテリングとソングライティングは鮮烈なデビュー時から一貫しているけれども、とりわけ2作目のアルバム『I Speak Because I Can』(2010年)から5作目『Short Movie』(2015年)にかけては、いずれもUKチャートのトップ10圏内に収まる形で高く評価されている。

 ローラ・マーリングの通算6作目となるアルバム『Semper Femina』が、この3月10日にリリースされた。前作『Short Movie』では、その歌心をエレクトリック・ギターのゆらめく音像の中へと広げるアプローチが新鮮だったが、今回はそのスタイルに固執することなく、楽曲によってアコースティックであったり、エレクトリックであったりとサウンドを選び取っている。いずれにしても、その鮮やかで深みのある歌と音の風景が損なわれることはない。

 昨年公開されていたリード曲「Soothing」のビデオは、ベッドの上でもつれあう2人の女性と、それをまるで観客のように見つめる男性たちという構図でドラマが描かれている。女性であること、或いは同性愛者でありセクシャル・マイノリティであることを理由に好奇の目にさらされてしまう社会の様相を伝えているかのようだ。

 ニュー・アルバムの『Semper Femina』では、恋に落ち、すれ違い、心を痛めるといった過程が描かれている。ローラの口から歌われる愛の対象は“She”だ。情景は至って生活感に満ち溢れ、ありふれているがゆえに、リアルでつぶさなストーリーテリングとなっている。つまり、この作品では“女性の恋模様を観客のようにみつめる”という、あの「Soothing」のビデオそのままの構図が、ローラとリスナーの関係として構築されているのである。

 素朴にして雄弁、どこまでも美しいローラ・マーリングの歌のストーリーは、どこにでもありそうな恋模様を生々しい感情の蠢きとして捉えてゆく。2月に公開された新曲ビデオ「Next Time」は、孤独感を引き摺りながら《今度はもう少し上手くいくといいな》と歌われるナンバーであり、孤独な部屋に佇む女性は「Soothing」のビデオに出演していた女性の一人である。ミルクを零して線を引き、己の居場所を確保するという振る舞いも、「Soothing」で歌われていた痛ましい恋模様をなぞるものだ。

 ところで、アルバム・タイトルの『Semper Femina』とはどういう意味だろう。米海軍には“semper fidelis(略してsemper fi)”という忠誠心を表す標語があるそうで、元々はラテン語で“常に忠実な”という意味だ。それになぞらえて言うならば、『Semper Femina』は“常に女性(的)”といった、言葉遊びに近い標語のようなものなのかも知れない。近年はビヨンセ&ソランジュ姉妹らを筆頭に、新たな世代の女性性を打ち出すアーティストたちの表現が活性化しているけれども、ローラ・マーリングは優れたストーリーテラーとして、彼女なりのスタイルで、女性たちやセクシャル・マイノリティにエールを送っているのだ。(Text:小池宏和)


◎リリース情報
New Album『センパー・フェミナ』
2017/3/10(金)RELEASE
TRCP-209 / 2,200円(tax out) / ボーナス・トラック収録 / 歌詞対訳付