神木隆之介「衣装を着ることで、初めて自分の居場所がある」――笑顔のウラにある孤独と恐怖。
「僕、打ち上げが苦手なんです。そこにいるときは“役”ではないので」――。口調も表情も明るく柔らかい“いつもの”神木隆之介のまま。ふと漏らした言葉の奥にほんの一瞬、彼が抱えてきた孤独が顔をのぞかせた気がした。映画『3月のライオン』で演じた桐山 零は、高校生にして将棋のプロ棋士として活躍し、“天才”“未来の名人”と周囲の期待を背負う青年。神木が演じることが発表され、ビジュアルが解禁されると「イメージ通り」「原作そのまま」といった称賛の声がわき起こったが、見た目だけのことではない。幼い頃から第一線で活躍してきた男だからこそ表現できる、葛藤や覚悟がスクリーンに焼き付いている。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



有村架純が相手だったからこそ出せた、絶妙な空気感



――映画『3月のライオン』は、『ハチミツとクローバー』でも知られる羽海野チカさんの人気漫画を原作に、孤独と葛藤を抱えた零の成長を描きます。将棋の対局はもちろん、学校、家族とのやり取り、そして零がたびたび世話になる3姉妹が暮らす川本家など、とにかく多くの人々と出会い、さまざまな形で“対話”をしますね。



本能的に演じていた気がします。原作を参考に「零だったらこんなふうに接するのではないか?」とボンヤリとイメージしつつ、あまり考えすぎずにみなさんの前に自然にいました。

――たとえば、あかり(倉科カナ)、ひなた(清原果耶)、モモ(新津ちせ)の川本3姉妹の前にいる零からは、安心感やその場にいることの幸福が伝わってきました。

3姉妹とのシーンは、まったく役作りをしていません。3人がとにかく仲が良くて、たまに僕が入れないくらいなんです(笑)。でも、そこにいることはできるし、温かさを感じる。「もうそのまま、零と3人の関係だ」と思いました。



――ひとりずつ、対峙してみての話を聞いていきたいところですが、個性的&魅力的な人たちが多すぎて、とても時間が足りません(苦笑)。撮影の始まりはどのシーンからだったんですか?

学校の屋上での林田(高志)先生(高橋一生)とのシーンです。最初は「どれくらいの距離感で?」と悩んだのですが、原作でも、零と先生はどこか“コンビ”のような感じを出すんです(笑)。なので、既に何回か話したことがあるのだろうという前提で始めました。実は、その翌日には【後編】の学校シーンの撮影もあって。



――クランクインして2日目にして【後編】の撮影? シーンごとに零の心理状態はまったく異なるので、そこまでの変化を予測しつつ演じるというのは難しそうですね。

零が先生に「学校辞めます。もう決めました」「先生にはわからないですよ」というやりとりのシーンで…。「きちんと気持ちの変化がつながるのかな?」と思いましたが、完成した映画を観たら、しっかりつながっていて、さすが大友(啓史)監督だなとホッとしました。

――向き合ってみて、最も難しさを感じたのは、どなたとのシーンですか?

「難しい」とはまた違うのですが、宗谷(冬司)名人とのシーンでは、加瀬 亮さんが完全に“鬼”の空気をまとっていました。こちらもただ「鬼だ…」と思わざるをえない、無言の静かなる恐怖がある。ただ、対局で零はそこに“新しい感情”――つい夢中になってしまうような楽しさをも見つけるんです。それをどう見つけるのか? ということは考えました。

――そうしたいくつもの対峙の中でも、“これまでに見たことのない神木隆之介の表情”という点で、義姉・幸田香子(有村架純)とのシーンが印象的でした。

零としては(肌の露出の多い)香子をまともに見られないという気持ちがあり…。僕自身としては、相手が有村さんで、お互いによく知っていて、まったく気を遣わなくていい関係なので、あのシーンでも、とくに緊張したりすることもなく演じることができました。



――こちらは“イケない関係”のふたりを見ているようで、ドキドキしましたけど(笑)。

僕も、ほかの方がお相手だったら、戸惑ったと思います(笑)。有村さんだったからこそ、遠慮なく芝居をすることができました。

――香子は既婚の棋士・後藤正宗(伊藤英明)と不倫関係にあり、そんな香子に「もうやめなよ」と言う零の表情や口調も印象的でした。これまでの作品で見せてきたものとは違う、新たな神木さんが映っていたように思います。

それはすごくうれしいです! 意識的に「これまでと違うものを…」と考えていたわけではないですが、シーンの性質上、これまでにないニュアンスだったのではないかと思います。

――零と香子は、血のつながらない姉弟の関係というだけでない“何か”を感じさせます。それは、原作でさえ、まだ深くは描かれていない部分であり、あかりが零と香子のまとう“空気”を「姉弟のそれではない」と漏らしたりしていますね。

恋人みたいだけど姉弟みたいだし、他人みたいだけど家族みたいに見えればいいね、という話を有村さんとした覚えがあります。いろんな面があって、シーンごとに関係性も違うんです。

――零の部屋のシーン、外でのシーン、電話で話すシーン…。「あ、いまは普通に家族だ」と感じさせるときもあれば、「男と女」を感じさせるときもあったり…。

歯車が合っているようで合っていなくて…でもやはり合っているのか…と、 どのようにも受け取ることができますし、何とも言えない――そんな瞬間を散りばめられたらと思っていました。それは僕と有村さんがもともと、仲が良いからこそできたことなのかなと思います。



幼い頃からプロの世界に身を投じ…桐山 零との共通点



――大友監督が以前、幼い頃から芸能の世界で生きてきた神木さんと、将棋だけに打ち込んできた零の生き方が重なるという意味のことをおっしゃっていました。神木さん自身、演じるうえでその点は意識されましたか?

監督にそう言われて気づきました(笑)。零の抱えている孤独は、家族を事故で失ったところから発していて、そこはさすがに僕にはわからない。それ以外で、生活リズムというか、ひとりでいるときのマイペースな感じ、ゆっくりと時間が流れるようなところは似てるかな? と思いつつ、しかし、どのような立ち居振る舞いをしたらいいのかなと悩んでいて。

――そうしたら、大友監督から「ふたりは重なる」と指摘が?

そうなんです。「神木と零は似てるじゃん。若い頃からプロで…」と言われて、そこか! と。“プロ”というところで、新しい共通点を見いだして、そこは対局シーンなどで、相手と向き合うときに意識するようになりました。

――具体的には?

(零も自分も)“子ども”ではないという意識。相手に対し、決して容赦はしないという姿勢。どうやって立ち向かっていくかという気持ち――プロ意識を持って盤の前に座れるか? 僕の場合はカメラの前に立てるか? そこが“勝負”だなと思いました。

――プロとしての意識という部分での共通点はわかりました。一方で、零は家族を失った傷、そして引き取られた先の家庭を“壊した”ことへの葛藤を抱え、悩みに悩める10代です。意識的にそうしているのかもしれませんが、普段の神木さんからは、そうした屈託や苦悩が一切、漂ってきませんね。

そう言っていただけるとうれしいです!(笑)



――うれしいですか?(笑) 実際、挫折したり、苦悩したり、「この仕事辞めてやる!」と思ったりしたことは…?

ないんです。すべて楽しかったです。もちろん、仕事なので大変なときはあるのですが、役作りも含めて、自分の中で苦労だと思うことがなくて。

――大変なことでも、ご本人が苦労と受け止めていないのかもしれませんね。

それはあるかもしれないです。孤独もあまり感じないほうだとは思います。それこそ零が抱える孤独や心の傷は、僕には計り知れないものですし、それを受け止めて表現するのは難しかったです。

――零のことを周囲は「天才」「未来の名人」と言い立てます。それは純粋に称賛や期待の言葉だと思いますが、受け止める側はどんな気持ちなのだろうかと…。

零の場合、才能以前に将棋にしか自分の居場所を見いだせず、やり続けていたら強くなって…。それを軽く「天才」と言いますが、その裏にどれほどの努力があったのか…。周りは知らないからこそ、簡単にそう言えるというのはあると思います。それをプレッシャーにしてしまうか、軽く受け流すかはその人次第だと思いますが…。



「もう後戻りはできない」俳優として生きる決断



――零ですら、プロになったのは中学生のときですが、神木さんは2歳でこの世界に入り、それからずっとプロとして俳優を続けているわけです。ご自身でプロということを意識されたり、「この先もずっと俳優として生きていく」と決断されたのはいつ頃ですか?

高校に入って、卒業するまでの時間がすごく大きかったです。高校で同じクラスに山田涼介くんや知念侑李くん(ともにHey! Say! JUMP)、歌舞伎役者の中村隼人くんもいて、みんなそれぞれのジャンルで活躍しているので。

――周りの存在が刺激に? 誰よりも小さい頃から活躍されてきた神木さんが、周りの人々の活躍を目にして、役者として生きていく決断をするというのは、ちょっと意外な気もします。

時期が大きかったのだと思います。高校生の頃は、いろんなものに興味を持つ時期だと思うのですが、そこで頑張っている人たちの姿を見て「僕もこの道でやっていくんだな」と思いました。

――学業との両立ではなく、この道1本に絞ると?

そうですね。大学に進学することもできたのだと思いますが、「このまま役者をやりたい」という想いと、「もう後戻りはできない。これで生活していくんだ」という想い。やはりそれも、近くで頑張っている人たちを見ていたからこそ、「続けていこう」と思えたんだと思います。



――恐怖や不安はありませんでしたか?

不安定な職業なので、漠然とした不安はあります。自分に期待もありつつ、「これからどうなっていくのだろう?」と思うこともあります。役の衣装を着て、初めて自分の居場所があると思うと少し怖いんです。私服のときは自分の居場所がないような気がして…。

――“役割”がなくなって素の自分に戻るのが?

そうなんです。なので、打ち上げが少し苦手なんです。そこにいるときは“役”ではないので。役を演じていないなら、自分がそこにいてもいなくてもいいような気がして。

――もともと、仕事とプライベートの区別があまりないほうですか?

分けているつもりではありますが、現場で衣装を着ると“必ずそこにいなくてはいけない存在”ですよね。そのような意味で、現場では居場所が確保されている。しかし、衣装のまま帰るわけにはいかないので、私服に着替えるのですが、そうしたら「どっちでもいいのかな」と思うこともあります(苦笑)。

――映画の中で零は、川本家や学校で、“期待の天才高校生棋士”という以外の桐山 零としての居場所を見つけていきますが、神木さんは…(苦笑)。

現場のシチュエーションと衣装があって、初めて自分の居場所を見いだしたのかと思うと怖いです(苦笑)。打ち上げの話に戻ると、衣装のまま打ち上げをしたいくらいです(笑)。私服で打ち上げに行くと、本当に仲の良い共演者やスタッフさんともどう接していたか一瞬、わからなくなるときがあります。



【プロフィール】
神木隆之介(かみき・りゅうのすけ)/1993年5月19日生まれ、埼玉県出身。幼い頃からCMなどに出演し、1999年、ドラマ『グッドニュース』(TBS系)で俳優デビュー。映画『妖怪大戦争』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作に『桐島、部活やめるってよ』、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』、『バクマン。』、『太陽』、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』など。スタジオジブリの『借りぐらしのアリエッティ』、細田 守監督『サマーウォーズ』、新海 誠監督『君の名は。』など、声の出演作品も多数。
【Twitter】@kamiki_official


■映画『3月のライオン』
【前編】3月18日(土)/【後編】4月22日(土)
2部作連続・全国ロードショー!
http://www.3lion-movie.com/index.php



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■応募方法:ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT


■受付期間:2017年3月15日(水)12:00〜3月21日(火)12:00

■当選者確定フロー
・当選者発表日/3月22日(水)
・当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し)のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
・当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから3月22日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただきます。3月25日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

■キャンペーン規約
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