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東京工業大学(東工大)とNTTは3月14日、電荷とスピンの両方の時間応答信号を同時に計測できる「スピン分解オシロスコープ」の開発に成功したと発表した。

同成果は、同大理学院 物理学系の橋坂昌幸 助教、同 藤澤利正 教授、NTTの村木康二 上席特別研究員らによるもの。詳細は3月13日付(英国時間)で英国科学雑誌「Nature Physics」(オンライン速報版)に公開される予定。

近年のインターネットの発達に伴うデータ爆発への対応として、半導体には大量のデータ処理を高速に実現する技術(超高速信号処理技術)と、より電力を消費しない技術(低消費電力技術)の2つの方向性が考えられてきた。超高速信号処理技術としては、LSIの電極(半導体素子全体)に電圧をかける従来のエレクトロニクスではなく、素子内に直接信号を入力してやることで、部分的なON/OFFを発生させると、電荷の濃淡が発生し、それを信号として使うことで、単独の電子よりも速く運動する「プラズモニクス」の活用が期待されている。一方の低消費電力化としては、電子が有する電荷ではなく、スピンの濃淡を信号として用いる「スピントロクニクス」の活用が期待されており、すでにMRAMやHDDヘッダとしての実用化も進められている。しかし、いずれにしても、超高速か低消費電力化の二者択一で、両方を同時に実現できていなかった。

そこで研究グループでは、両方の特徴を有する新たな領域「スピンプラズモニクス」の開拓に向け、エレクトロニクスの基本である波形計測を実現するためのオシロスコープとして、電荷信号とスピン信号の両方を一度に計測することが可能なオシロスコープ技術「スピン分解オシロスコープ」の開発に挑んだという。

スピン分解オシロスコープの原理としては、プラズモニクスとスピントロニクスの構成要素を踏まえたものとなっている。プラズモニクスはアップスピンとダウンスピン電子数の和によって計測される。一方のスピントロニクスはアップスピンとダウンスピン電子数の差によって計測される。つまり、アップスピンとダウンスピンを別々に計測し、その後、足し算と引き算を実施することで、プラズモニクスの電荷信号、スピントロニクスのスピン信号を形成しようというものとなる。

今回の研究では、1GHz程度の動作周波数のGaAs素子を用いて、回路上にプラズモンの波形を計測する時間分解電荷計と、スピンのアップ/ダウンを分けるフィルターを構築。具体的には、前段にスピンフィルタを配置し、アップスピンを分離。ダウンスピンはそのまま計測をして、アップスピンは時間分解電荷計にまわし、そちらで計測を実施。アップスピンでもダウンスピンでも測定が可能であることが確かめられたとする。

実際の値としては、電荷とスピンが届いた測定タイミングと、文献値による電子の速度(16km/s)とを比較したところ、電荷波束の速度は電子の約30倍となる480km/s、スピン波束の速度は同約3倍となる65km/sであることが確認されたという。

ちなみに、このスピン電荷分離現象について、橋坂氏は、「朝永-ラッティンジャー液体を象徴するような学術的な価値がある現象」としており、学術的な価値という点でも意味のある成果であることを強調。今後、電荷とスピンを使い分ける素子などの実現につながる期待がでてきたとするほか、次の研究のステップとして、スピン電荷分離現象が1次元電子系の振る舞いであることから、1次元電子系としての詳細な振る舞いの解明を目指したいとしていた。

(小林行雄)