窓際の逆襲? 「SNS弁慶」の時代

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SNS社会で活躍する窓際ビジネスマン

僕はFacebookなどのSNSを日常的に使っています。SNSにおける「発信」の魅力は、自分にとって都合の良いものだけ投稿すればいいというところです。ほとんどの人は、失敗したことや恥ずかしいことをわざわざ投稿しないと思います。うまくいったことや自慢したいことだけ発信していても、それ自体は「嘘」をついていることにはなりません。ただし、まぁなんというか、人生全体は美化されているわけです。なので、僕はFacebookのトップ画に、自分の投稿は見栄を張るために都合よく演出されたものであることを注意書きしています。SNSって、そういうものですよね。

そんなSNSの登場によって、あるビジネスマンたちにスポットが当てられるようになったのではないかと思っています。それは、大手企業・大企業で暗に「窓際」と呼ばれる人たちです。

たとえばFacebookなどは、起業家やフリーランス、政治家のような「個人の名前で仕事する人たち」にとって便利なビジネスツールになっています。ちょっとした「SNS社会」のようなものが形成されていて、たしかにそこから新しい仕事が生まれるようなこともありました。

ところが、大企業に就職していった友人たちの多くは、SNSをビジネスツールとして使っていません。ほとんどなにも更新されていなかったり、投稿があったとしても家族のことやプライベートなことばかりです。おそらく、仕事がSNS社会とはあまり関係のないところで完結しているのだと思います。仕事は会社が信用や実績で取ってくるわけだし、社内で役割や評価がきちんとつくられていきます。守秘義務のことなどもあるでしょうが、SNS社会の中で何かを頑張ってアピールする必要性がありません。

それにもかかわらず、大きな組織に属していながら、SNSで活発に自分の仕事に関する情報を発信したり、議論したり、共有したりしている人たちがいます。SNS社会でいきいきしている大手企業のビジネスマンの一部は、企業の「窓際族」と呼ばれる人たちなのではないかと僕は推測しているのです。

■「所属名がやたらと長い」人たち

従来、「窓際族」とは、社内の主要な事業部から外れて肩書だけを与えられた人たちのことを指しました。仕事らしい仕事を与えられない人だけではなく、すぐには売上にはつながらないけれども必要な新規事業の開発や外部連携、市場調査などを行う戦略部門の中間管理職に、厄介払い的に充てられるといった人もいるようです。

しかし本来このようなポジションには、目先の利益にしばられずに柔軟に活動できる、真の優秀な人材が就くべきです。高い能力があって、大きな余裕もある。このような人たちの戦略部門での活躍が、組織の硬直化を避けて企業の長期的な発展を可能にするのだと思いますが、そこに厄介払い的な人事をしてきた日本企業の多くが、衰退の憂き目にあっているのでしょう。

いきいきと日々SNSで情報発信している大手企業のビジネスマンの投稿を見ても、所属している会社の事業やサービスに直接関係するものはあまりありません。それよりも、「こんなイベントに登壇しました」とか「◯◯フォーラムで有意義な議論をしました」といった社外活動の報告が大半を占めています。

そんな人達の会社での所属を見てみると、○○○○○開発○○とか、○○連携○○ユニットとか、やたらと長い名称だったり、カタカナがふんだんに使われた名前の部署だったりします。あくまで肌感覚ですが、SNS社会で活発に情報発信や活動する人たちと、この「所属名がやたらと長いこと」には比例的な関係があるような気がしてなりません。

全てではないと思いますが、このような「名称がやたら長い」場所が、組織の中で「特殊な人材の受け皿」として機能しているというのは事実であり、一部の大企業的文化の中では「窓際」と呼ばれて存在していきているようです。

さて、そんな「窓際」にはどんな人たちが配置されるのでしょうか?

もちろん本当に「仕事ができない人」たちもいるでしょう。しかし、昔から「窓際」が担ってきた機能の一つに、能力は高いが「組織が扱いづらい人」たちの居場所になってきた、という歴史もあるようです。どれだけ高度な採用基準や手法をもって人を採用していっても、組織には、システムになじまず「異常な動き」をするアノマリー的な人が存在してしまいます。しかし、必ずしも能力が低いわけではなく、簡単にクビにするわけにもいきません。

このような人たちが、一定の自由度のあるポジションを与えられながら「別枠」として泳がされておくことによって、組織全体の調和をたもちつつ、時には本当に次の世代につながる何かを革新的にうみだしたりもするのが、アノマリー的人材の価値だと思います。

SNS弁慶と「窓際の逆襲」

窓際の人たちが、組織の変革やサービスの革新を行った、「窓際の逆襲」と言うべきケースは、昔からいろいろあるようです。革新的なことは、中心(メインストリーム)からではなく周辺(アウトサイド)から起こるもの。現状うまくいっているものや、継続して徐々に拡大していくほうがいいようなところからは、当然大きな変化は生まれません。しかし、いつかは衰退し、大きな構造の転換や代替えのようなものが必要になってきます。そんなときは、中心が腐っていき、あまり重要視されなかった周辺の新しい要素がそれに取って代わることで、組織の再生が可能になったりもします。

それまでの間、組織にとって「扱いづらい人」たちは、「窓際」といった社内レッテルを貼られつつも、堂々と存在し続けている必要があります。しかし、年がら年中会社の中で肩身の狭い思いをして過ごすのは、辛いものがあります。

そんな人たちにとってユートピアとなりつつあるのが、今日のSNS社会なのではないでしょうか。会社から与えられたポジションを活用して、さまざまな分野と交流や情報交換ができ、自分の活動を社外の多くの人に知ってもらうこともできます。イベントなどで登壇するだけではなく、メディアから取材される機会も得やすいですし、なによりも、社内に居るだけではできない偶発的な出会いやネットワークを作っていくことも容易で、そんな想定外のつながりから新しいサービスや事業が生まれるというようなケースも多々あるようです。

もしかすると、社内の人たちからは、オンラインだけで威勢のよいただの「SNS弁慶」に見えているのかもしれません。しかし、業界・業種の枠を超えた連携や偶発的な活動の種は、このようなオンラインならではの自由空間にこそたくさん散りばめられています。SNS社会によって、「窓際の逆襲」は格段に起きやすくなっていると思います。

逆襲を果たしたSNS弁慶は、次にやがてリアル弁慶へと変容していくのかもしれません。ただし、本当に仕事ができないだけの人もたくさん紛れ込んでいると思うので、そこは要注意です。

(若新 雄純=文)