出澤剛LINE社長(43歳)。オンザエッジ入社。ライブドア社長を経て、NHNとの統合により、同社の2014年4月よりLINEの社長に就任。新サービスの名前は、クローバ。スマホや専用デバイスに向かってクローバと呼びかけるサービスとなる。

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■AI技術を組み込んだ五感認識プラットフォーム

現地時間(3月1日16時)、2月27日よりバルセロナで開催された世界最大のモバイルビジネスの見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC2017)」。この見本市は、かつて文字どおり携帯電話などのビジネスのためのものだったか、ここ数年はモバイルという枠を超えて、自動運転やAI(人工知能)ロボット、5G(第5世代移動通信システム)やVR(仮想現実)、先端医療やインダストリアル4.0など、すべて経済成長要素を飲み込んだカタチとなっている。今年は10万人を超える来場者が世界中から集まってきた。

3日目のカンファレンスのKeynote10で「Conversational Commerce(会話型コマース)」をテーマにしたセッションが開催された。Twilio Kik、Boxeverといったメッセンジャーアプリ・サービスの各国プレイヤーに続き、4番手として登場したのが、日本のLINE社の出澤剛(いでざわ・たけし)社長だ。ここ出澤氏は、同社の従来のメッセジャーサービスとは異なる、AI技術を組み込んだ五感認識によるIoTプラットフォームサービスをこの初夏に公開すると発表した。

今回、特別に単独インタビューを行い、新サービスの内容や思いを含めて語ってもらった。

このサービスは、クラウドAIプラットフォーム「Clova(クローバ)」というもの。AI(人工知能)を組み入れ、音声以外の人間の五感を感知コントロールすることで、生活の中のあるあらゆるIoT機器につなげていくというコンセプトを持つサービスだ。

「クローバ」と、スマートフォンや専用デバイスに話しかけると、音声で会話をしたり、ニュース、天気・占い情報、コマース、カレンダー、翻訳などサービスを利用したり、音声で家の電気のオンオフなどを行うホームコントール、音声専用コンテンツを読み聞かせできるオーディオブックなどを利用したりできるという。近い将来には、Amazonエコーのような音声によるオンラインショッピングも可能かもしれない。

■「Clova」サービスは「OK Google」のアジア版?

難しく考えずに「OK Google」のアジア版と考えるとわかりやすいだろう。この「Clova」というサービスは、兄弟会社である韓国のNAVER社との共同事業だという。NAVERの持つ検索技術とコンテンツ、およびビッグデータ技術を共同で開発推進することで、中国を除くアジア圏にそのマーケットを広げていきたいという。

もっともこの「Clova」は、音声認識だけで、リモコンのように操作する単純なサービスとは異なる。「Clova Brain」というAIの心臓部があり、このクラウド AI プラットフォーム上で、リコメンドやパーソナライズされて最適なユーザー体験を提供していくという。デバイス、インターフェース、コンテンツ・サービスまで最適化されるというから期待が高まる。

また、LINEとしては、音声認識だけには、こだわっていない。

「人間の五感でコントロールできるものを目指します。音声と視覚はかなり近く、次にタッチするという触覚を考えます。いずれ臭覚や味覚を使ったコントロールを考えています」(出澤社長)

しかし、このAIおよび音声認識の分野は激戦区だ。米国の3大巨人はすでに取り組んでいる。Googleの「OK Google」、Appleの「Hey Siri」、Amazonの「Allexa」などのサービスはここ1〜2年新しいコンシェルジュ型のAIロボットの可能性として、注目を集めてきた。いくら業績好調のLINEといえども、果たして彼らに勝てる見込みはあるのだろうか?

「我々には韓国のNAVER社と兄弟関係にあり、ポータル検索の技術や日本語、韓国語などアジア圏の言語に関しては優位なポジションを持っている。またカルチャーや慣習など、提供するコンテンツサービスにおいて優位性を持っています。それに(勝ち目がないと)黙っていれば、日本は沈没するだけじゃないですか? それに対する我々の挑戦がクローバです」(出澤社長)

■アジア市場は米国系サービスには渡さない

今年の初夏(6月頃か)には、このサービスをスマートフォンで利用するための「Clovaアプリ」と同社のデバイスとなるスマートスピーカー「WAVE(ウェーブ)が日本と韓国で発売される予定だ。

また、パートナーシップの開拓にも懸命だ。すでにソニーモバイルコミュニケーションズ、玩具のタカラトミー、LG、ウィンクルといった企業との提携も発表された。なんとしてでも、アジア・マーケットだけは、米国系サービスには渡さないという意気込みだろう。今後どんどん、スマホに限らず、あらゆるIoTパートナーに対して広げていきたいという。

現在、日本だけでもユーザーが6800万人といもいわれるLINEだが、キッズや40代以上、シニアなどには、まだまだ同サービスの未利用者が多い。セキュリティや、操作の理解力はそう簡単には浸透しない。しかし、音声認識ならば、もっと広いユーザーを取り込める可能性は高い。

「このClovaによる売上目標はどうなっていますか?」の問いにはこう語る。

「いまはまったく考えていません。このサービスは、他のモノやサービスと連携していくことになります。新しいコネションが増えて、そこから新しいビジネスが生まれ、新しい収益や儲かる構造が生まれくるはずです。なので、そのタイミングを待ちます」(出澤社長)

出澤社長の控えめで謙虚な表情の中に、その自信が窺えた。

音声による呼びかけは少々恥ずかしいが、この夏からオフィスや家庭で「クローバ」という呼びかけが広がっていくのだろうか?

(占部雅一=文)