医学やトレーニング方法の進歩により、選手寿命が延びているとはいえ、40歳を過ぎても現役なら、まだまだ驚きに値する時代である。

 ところが、40歳はおろか、50歳を過ぎても現役を続け、しかもゴールまで決めてしまうのだから、驚きを通り越して、にわかには信じがたい。もはや漫画の世界である。

 J2第3節、横浜FCvsザスパクサツ群馬で、横浜FCのFW三浦知良が今季初ゴールを決めた。50歳0カ月14日でのゴールは、自身が持つ記録(49歳5カ月12日)を塗り替えるJリーグ最年長ゴール新記録である。


50歳になったカズがJリーグ最年長ゴール記録を更新した「カズは昨年12月からグアムでキャンプをやっており、例年になくいい状態にある」

 横浜FC・中田仁司監督のそんなコメントを裏づけるように、カズはこの試合も含め、今季開幕戦から3試合連続の先発出場。さすがにフル出場こそしていないが、そのプレーぶりから好調さをうかがわせる。

 この試合でもカズはゴールだけでなく、十八番の”連続シザースフェイント”でマークをかわし、左サイドからクロスを上げるシーンを作るなど、スタンドを沸かせた。同じニッパツ三ツ沢球技場で行なわれた松本山雅FCとの開幕戦では、「ディフェンスの部分で貢献はあったが、攻撃での貢献ができなかった」(カズ)のに比べると、ボールに絡むシーンはかなり多かった。

「今日はセンタリングを上げたり、前を向いて味方にパスを出したり、そういうプレーを随所に出せた。自分自身、それを増やしていきたい」

 カズ自身、そんな言葉で手応えを口にしている。

 とはいえ、無粋なことを言えば、さすがの”キング”カズもその動きに全盛期のキレはない。持続的なスピードはともかく、瞬間的なスピードには衰えが目立つ。狭いスペースで相手DFをかわしてゴールを陥れるような芸当は難しくなっている。

 今のカズは、いつでもどこでもゴールを決められるわけではない。50歳がゴールを決めるためには、それなりの条件がそろうことが必要になる。具体的に言えば、時間的にも、空間的にも、ある程度の余裕が与えられること。そして、ワンタッチでシュートを打てること、などだ。

 いかにして、それらの条件をそろえるか。カギを握るのは、2トップを組むFWイバの存在である。

 身長190cm、体重88kgの巨漢FWは、高さとパワーではおそらくJ1を含めても屈指。相手DFを背負ったときの強さは、怪物と呼ぶにふさわしい。カズも「イバの近くにいれば、いいボールが転がってくると思っていた」と語る。

 実際、カズのゴールは、イバのシュートをGKがセーブしたところを左足で押し込んだもの。まさに狙いどおりだったわけだ。カズが振り返る。

「(ゴールまでの)ラインが見えた。力みはなかった。あのくらいの振りでしっかり(ボールに)当たればスピードが出る。当てただけだが、かなり強いボールが打てた」

 ゴール前にいた相手DFの意識はイバに集中しており、ボールが目の前に転がってきたとき、カズは完全にフリー。シュートコースは狭く、決して簡単な場面ではなかったが、さすがは千両役者である。

 この試合で対戦した群馬の森下仁志監督も、「イバへのロングボールが相手のストロングポイントだということはわかっていた」。だからこそ、「受けて守るのではなく、前から(プレスに)行こうと思った」わけだが、これがカズにとっては幸いしたと言える。

 群馬は前線から積極的にボールを追いかけ回した。イバにボールを入れられてから対応するのではなく、簡単に入れさせないことを選んだ。

 この選択は、一定の成果を見せた。だが、一度プレスをかわされてしまうと、相応のリスクが待っているのは当然のこと。横浜FCはイバを中心とする前線にボールが収まってしまえば、比較的スペースがある状態で攻撃を進めることができた。

 また、「受け身にならず、主導権を握って戦う」(森下監督)ことを目指す群馬は、マイボールにしたあとも、短いパスをつないで攻撃を組み立てようとした。しかも、選手はただ足もとでパスをつなぐのではなく、かなり大胆にポジションチェンジを繰り返すことで、横浜FCの守備網に穴をあけようと試みたのだが、その分、ボールを失って守備に切り替わったときのバランスが悪くなり、簡単にカウンターを許すケースが多かった。

 つまり、群馬の戦い方が、カズのゴールに必要な条件をそろえてくれたわけだ。もし群馬が引いて守りを固め、ゴール前に人数をかけることでイバを中心とした横浜FCの攻撃に対抗しようとしていたら、あれほどの余裕がカズに与えられることはなかっただろう。

 さまざまな要因がうまく重なり、50歳でのゴールという世界的に見ても稀な、歴史的偉業は成し遂げられた。

 もちろん、今後、さらに最年長記録が更新される可能性も十分ある。

 カズは「50歳だからというより、FWとして点を取れたことがうれしい」と言い、こう続ける。

「ゴールというのはわかりやすいし、大きなプレーだが、あくまでも結果。若い選手たちと毎日トレーニングをすることが大事であり、その積み重ねがゴールになっている」

 50歳の選手がゴールを決めるのは簡単なことではない。カズひとりの力ではどうすることもできない、いくつかの条件がそろうことが必要だ。

 だとしても、動きのよさを見ていると、さらなる記録更新のときもすぐにやってくるのではないかとさえ思えてくる。それほどに、今季のカズはコンディションがよさそうに見える。

 いやはや、恐るべき50歳である。

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