宅配業界に潜入して見えたものは(写真/アフロ)

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 ネット通販の拡大によって、宅配市場は急成長を遂げたが、現場のドライバーたちにとっては、ただ負担が増すばかりだった。アマゾンやユニクロへの潜入取材で話題を呼ぶジャーナリストの横田増生氏が、ヤマト運輸・佐川急便に潜入して記した著書『仁義なき宅配』(小学館刊)の取材で体感した現場の過酷さとは──。

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 宅配便をめぐるニュースが毎日のように新聞やテレビをにぎわしている。ヤマト運輸の宅急便の値上げ、受け入れの総量規制、宅配業界の取扱個数が過去最高に達したこと──など。昨年末には、佐川急便のドライバーが荷物を足蹴にした映像が流れ、駐車禁止の佐川のドライバーが身代わり出頭させていたこともニュースになった。

 宅配関連のニュースが数多くある中で、最も重要なのは、ヤマトが労働者7万人超に過去2年にさかのぼってサービス残業代を支払うというニュースである。

 なかでもサービス残業が多くなるセールスドライバーの数は5万人超。一人当たり50万円を支払うとしても、250億円超の支払いとなる。250億円という数字は、ヤマト運輸の今期の予想営業利益である580億円の2分の1近くに相当する金額である。ヤマト運輸を傘下に収めるヤマトホールディングスの売上高に占める人件費の割合は約5割を占める労働集約型の企業である。未払い残業代の支払いは、単に次期の決算数字が違ってくるだけでなく、今後の財務諸表にも大きな影響を与えることになる。ヤマトの経営を根幹から覆すような破壊力のあるニュースなのだ。

 ヤマト運輸は、自社のホームページで3月4日、「一部の報道機関において、当社の未払い残業代の精算に関する報道がありましたが、記事に掲載されている『未払い残業代』については、当社からの発表に基づいたものではありません」として、まだ支払いの時期を正式に発表していない。

 しかし、私の手元には、「平成29年1月18日付」で「人事戦略部」が出した「神奈川主管支店の皆さまへ」と題したA4サイズ2枚の社内文書がある。それによると、「平成27年1月度〜平成28年12月度の2年間」にわたり、サービス残業代を支払う、とある。「支給日は、3月24日の予定です」と明記してある。また、すでにサービス残業の支払いの手続きを終えたという元ドライバーからも話を聞いて、サービス残業代の計算をした資料も手にしている。

 ヤマトが近々に、労働者に対して巨額のサービス残業代を支払うということは、疑いのない事実である。私が『仁義なき宅配』を書いたのは2015年。こだわったのは、現場にどこまで近づけるのか、ということだった。

 ヤマト運輸の配送車への横乗りから、佐川急便の深夜の長距離トラックの横乗りまでやった。ヤマトと佐川の集配センターでの夜勤のアルバイトとして合計3か月潜入取材をして分かったことは、いずれの現場でもギリギリのやりくりが求められていた、ということだった。

 横乗りをしたヤマトの集配車のドライバーは、その夏の繁忙期に連日200個の宅急便を配り続け、くも膜下出血で倒れた。佐川の長距離トラックに同乗した時は、ドライバーと一緒に800個以上の荷物を手積み、手降ろしして、3日で関東―関西間を往復してへとへとになった。

 ヤマトの旗艦センターである羽田クロノゲートでアルバイトとして働いた1か月間は、夜10時から朝6時まで、クール宅急便の仕分け作業をやった。日給は、夜間手当を含めても9000円に届かない。そのアルバイト代の安さに、日本人だけでは成り立たず、半分近くを東南アジアからの留学生が占めていることを知った。

 そうした現場での取材から見えてきたのは、宅配便という社会のインフラが、砂上の楼閣の状態にあり、いつ崩壊してもおかしくないという事実だった。そこで描いた最悪のシナリオが今、現実のものになりつつあるのを目の当たりにしている。

※週刊ポスト2017年3月24・31日号