写真はグランプリを獲得した『一念無明』より

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 第12回大阪アジアン映画祭の受賞結果が11日、発表された。最優秀作品賞にあたるグランプリ発表時、審査委員のホー・ユーハン監督(マレーシア)が「グランプリは……『ラ・ラ・ランド』!」と今年の米アカデミー賞授賞式で起こった珍事を再現する一幕があった。続いて、ウォン・ジョン監督『一念無明』(香港)を正式発表し、大阪の映画祭らしく笑いと感動に包まれた授賞セレモニーとなった。

 『一念無明』は、中国返還後の暗澹(あんたん)とした香港社会を背景に、母親の介護疲れの果てに事件を起こして精神病院に入院していた主人公が退院後、仲違いしていた父親の極狭アパートに身を寄せて人生の再起を図る重厚な人間ドラマ。ウォン監督は28歳で、長編初監督作となる。

 同作は、香港映画発展局が新人の育成を目的に行っている製作支援プロジェクト「ファースト・フィルム・イニシアチブ」のサポートを受け、25万8,000ドル(約3,000万円。1ドル115円計算)の助成金で製作。企画に惚れ込みショーン・ユー、エリック・ツァン、エレイン・ジンら香港スターが出演しているのも話題だ。

 今の香港社会を冷静に捉え、その中で起こる家族間の確執という普遍的な問題に真っ正面から取り組んでおり、28歳とは思えぬ骨太な作品はアジア各国で話題に。中華圏版アカデミー賞こと台北金馬奨では、新人監督賞と最優秀助演女優賞(エレイン・ジン)を獲得。4月6日に発表される香港電影金像奨では、香港在住の作曲家・波多野裕介のオリジナル作曲賞を皮切りに計7部門にノミネートされている。

 賞状と副賞50万円を受け取ったウォン監督は「この映画は香港を舞台にしたローカルな物語ですが、上映後に観客の皆さんから『家族を思い出した』と声をかけていただいた。私は改めて映画には力があると信じています。例え文化背景が異なる場所で上映しても、私たち人間が持っている情感、愛と憎しみ、痛みは共通なのだと思いました」と喜びを語った。

 今年はコンペティション部門作品16本のうち、『一念無明』をはじめ5本が香港映画だった。香港映画界は中国返還後に衰退が叫ばれ、そのため、政府が映画発展基金と称した支援政策に乗り出していた。香港特別行政区政府・駐東京経済貿易代表部シェーリー・ヨン首席代表によると「この20年で約80億円を投じた」という。

 その成果が実を結んできたようで、従来の香港映画の流れを組んだエンターテインメント作品から、『一念無明』のような若い才能による社会派の良質な作品が生まれている。昨年の大阪アジアン映画祭で上映されて話題を呼んだ、2025年の香港の未来予想図を描いた自主映画『十年』も7月22日に日本公開が決まっている。

 同映画祭プログラミング・ディレクターの暉峻創三氏は「本来、コンペティション部門の選出は、特定の国に偏らない方がいいのですが、これは現在、歴史的な変化を遂げつつある香港映画の新しい創造・変化のその勢いが、ダイレクトにプログラムに反映されたと理解していただけたら幸いです」と語っている。今後の香港映画界の復興に注目だ。

 またこの日は東日本大震災から6年の節目だった。大阪アジアン映画祭でもあの日、スクリーンが揺れ、会場を飛び出した観客も多かったという。インディ・フォーラム部門の日本映画を対象に、エキサイティングかつ独創的な作品に贈られるジャパン・カッツ・アワード(米国ニューヨークのジャパンソサエティが審査)を受賞した『恋とさよならとハワイ』のまつむらしんご監督は「あれ以来、フィクションを作ること、映画を作ることをより考えるようになったと思います。そのような日に賞をいただけたことは意味あることだと思っています。これからも変わらぬ覚悟と意欲を持って映画制作に臨んでいきたいと思います」と力強く挨拶した。(取材・文:中山治美) 

受賞結果は以下の通り。

■グランプリ(最優秀作品賞)
ウォン・ジョン監督『一念無明』(香港)

■来るべき才能賞(コンペティション部門作品を対象に、アジアの映画の未来を担う才能ある人物に授与)
フィッシュ・リウ『姉妹関係』(マカオ・香港)

■スペシャル・メンション
アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督『暗くなるまでには』(タイ・オランダ・フランス・カタール)

■ジャパン・カッツ・アワード
まつむらしんご監督『恋とさよならとハワイ』(日本)

■ABC賞(大阪・朝日放送が最も優れたエンターテインメント作品に授与。副賞・テレビ放映権として賞金100万円)
デレク・ツァン監督『七月と安生』(香港・中国)

■薬師真珠賞(大阪・薬師真珠が最も輝きを放っている俳優に授与)
イザ・カルサド『至福』(フィリピン)

■観客賞
キーレン・パン監督『29+1』(香港)