独特の生態系を持つガラパゴス諸島では、何百年にわたって存続してきた種が残り数頭になり、絶滅するかどうかの瀬戸際に追い込まれることが多々あります。その中でも有名なのがガラパゴスゾウガメの亜種であるピンタゾウガメの「ロンサム・ジョージ」と、エスパニョーラゾウガメの「ディエゴ」です。どちらも1世紀近く生きた固体として絶滅の危機に類しましたが、近い亜種のメスをあてがわれながらも子孫を残さずに生涯を終えてしまったジョージと異なり、ディエゴはわずか1頭で300頭〜800頭の子孫を残すことに成功し、自らの種族を救った絶倫ガメとして知られています。

Meet Diego, the Centenarian Whose Sex Drive Saved His Species - The New York Times

https://www.nytimes.com/2017/03/11/world/americas/galapagos-islands-tortoises.html

エスパニョーラゾウガメ(Chelonoidis hoodensis)は、1970年代に残り数十頭まで生息数の減少が確認されたゾウガメの一種で、その時点でエスパニョーラゾウガメの生き残りのほとんどが、メスだけだったとのこと。ディエゴはサンディエゴ動物園で飼育されていたオスのエスパニョーラゾウガメで、1977年にガラパゴス諸島にある飼育センターに保護されることとなりました。ガラパゴスゾウガメの平均寿命は100歳以上と言われていますが、すでに100歳以上だったディエゴは、絶滅を回避するためにメスをあてがわれたメスと繁殖を始め、種族を絶滅の危機から救ったことで知られています。

ボランティアの手で捕獲され、ディエゴのもとに送られるメスのエスパニョーラゾウガメ。



ディエゴの種族の生息数は、すでにガラパゴス諸島エスパニョーラ島で1000頭以上にまで回復していることが確認されています。なお、ディエゴから生まれたエスパニョーラゾウガメの子孫は、ディエゴに似た固体が増加していますが、これは集団遺伝学で「ボトルネック効果」と呼ばれる現象が起こっているものと見られます。なお、ボトルネック効果によって増加すると遺伝的多様性の低い集団になり、疾患や気候変動などに弱いという欠点を抱えてしまいます。しかし、あまり知られていないものの、ディエゴのほかに「No.3」と呼ばれていたオスのエスパニョーラゾウガメも存在しており、現在のエスパニョーラゾウガメがすべてディエゴの子孫というわけではありません。

同じく100歳以上だったピンタゾウガメ(Geochelone abingdoni)のロンサム・ジョージは、保護されてからもメスと交尾することはほとんどなく、ピンタゾウガメの種は絶滅してしまった可能性が高いと見られています。なお、死亡したジョージは検死解剖が行われたのですが、生殖器に影響する身体構造上の疾患を抱えていたことがわかっています。科学者の調査によると、ガラパゴス諸島では、記録を取り始めてから確認された115種の動物種のうち11種類が、すでに絶滅したことがわかっています。

「ロンサム・ジョージ(独りぼっちのジョージ)」の剥製。



ピンタゾウガメとエスパニョーラゾウガメが絶滅に追い込まれたのは、19世紀ごろに捕鯨船や海賊が食糧として乱獲したことが原因のひとつとして知られています。この2種はほかのガラパゴスゾウガメより甲羅が小さく、船内に運びやすかったため、捕獲の対象にされていたようです。捕獲されたカメは船内で生かされ、航海中の新鮮な肉の供給源とされていました。一方で、船がトラブルに見舞われたときは、船外に投げ捨てられることもあったそうです。

ゾウガメの肉を食べた記録としては、ガラパゴス諸島に自らの名を持つ研究所を残しているチャールズ・ダーウィンのものも存在します。ダーウィンは「私たちは完全にゾウガメに生かされていた。むね肉のローストは新鮮で非常においしい。若いゾウガメは優れたスープになる」と記録しています。また、ダーウィンは1839年当時にゾウガメが乱獲されていたことにも言及しており、ピーク時に約20万頭のゾウガメが乱獲によって死んだと述べています。