FC東京には前田遼一(09年、10年)、ピーター・ウタカ(16年)、大久保嘉人(13年〜15年)と3人の元J1得点王が在籍【写真:Getty Images】

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チームメイトに3人の元J1得点王。昨季以上の厳しい立場に

 オーストラリア代表のネイサン・バーンズが、FC東京U-23の一員としてJ3開幕戦に出場した。チームメイトに元J1得点王が3人揃い、昨年以上に厳しい状況に置かれている今、彼は何を思いJ3のピッチに立ったのだろうか。(取材・文:舩木渉)

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 快晴の江東区夢の島競技場。2017年のJ3開幕戦で、その場に似つかわしくない名前がコールされた。

 ネイサン・バーンズ。

 ヨーロッパでのプレー経験を持ち、オーストラリア・Aリーグの年間MVPにも輝いた歴戦のストライカーだ。外国人選手として考えるならば、J1でプレーしているべき実力者である。

 しかし、現在所属するFC東京の前線でポジションを獲得するのが容易でないことは誰の目にも明らかだ。前田遼一、大久保嘉人という元日本代表の2人加え、元ナイジェリア代表のピーター・ウタカの加入も決まった。

 バーンズにとってみれば、3人の元J1得点王と競争しなければならないことになる。どの選手にも定位置が約束されているわけではないが、ポジション争いの激しさは他クラブのそれとは比較にならないだろう。

 ストライカーではなくウィングとして出場しようにも、FC東京の両サイドの選手層は厚い。日本代表経験のある永井謙佑をはじめ、中島翔哉や阿部拓馬といった個性の強いアタッカーたちが揃っている。

 それを証明するかのように、バーンズは第3節までを消化したJ1でいまだ1試合もベンチ入りできていない。そして、12日に行われたカターレ富山とのJ3開幕戦に、FC東京U-23の一員として先発出場した。

 昨年もAFCチャンピオンズリーグ得点王という実績を誇るブラジル人FWムリキがJ3でFC東京U-23の試合に出場した。ただ、バーンズの場合とは事情がまったく違う。

 ムリキはFC東京加入直後で、負傷明けということもあってJ3出場はコンディション調整の意味合いが強かった。その後のJ1での活躍を期待され、ポジティブな意味合いで選手本人の志願で実現した出場だった。

 一方、バーンズの場合は身体の状態に全く問題はなく、単純に試合勘とフィジカルコンディションの維持が目的のJ3出場だったと見られる。このあとオーストラリア代表に招集される可能性もあり、J1で出番を得られない状況が招いたイレギュラーだったと言えるかもしれない。

自ら志願してJ3へ。若手の前で見せた真のプロ意識

 そんな状態でJ3の試合に出場することに、バーンズ本人の葛藤はなかったのだろうか。

「もちろん簡単でない部分はあるけど、今日に関しては自分が望んでプレーしたんだ。初めての選手たちとのプレーでわからない部分も多くあったけど、まずは自分がプレーする機会を得ること、そこでしっかりと結果に結びつけることが大事なので、それに集中したいと思っている」

 小柄なオーストラリア人ストライカーは、J3でのプレーを"It's good, fun"、つまり「楽しかった」と振り返った。ピッチでプレーする機会を欲していた純粋な気持ちから出た言葉だろう。

 ただ、バーンズの実力がJ3において“オーバースペック”であることは否めなかった。初めて同じピッチでプレーする選手がほとんどだった影響もあるが、判断スピードやテンポ、細かな部分の正確さなどのレベルが周囲とかみ合わず、苛立ちを見せる場面もあった。

 ボールを持っていない状態で相手DFのマークを外し、最終ラインの裏へ飛び出そうとパスを要求しても、周りの若い選手たちがそれについていけず、精度の高いパスが出てこない、あるいはタイミングが遅れてしまいオフサイドになるというシーンは1回や2回ではない。唯一プレーのテンポが合っていたのが15歳の久保建英というのも皮肉な話だ。

 それでもバーンズは「彼らは上手いし、J3でプレーできるのはいいことだと思う。若い選手たちは常に学んでいた」とクラブの将来を担う若手たちへの気遣いを見せたうえで、自分は少ないチャンスをものにすべく全力で準備する、本物のプロフェッショナルとしての姿勢を貫いていた。

 シーズン開幕後に加入したウタカはまだフィットしていないが、コンディションさえ整えばじきにJ1で活躍し始めるだろう。そうなればバーンズにめぐってくるチャンスは今よりも少なくなるかもしれない。

「最後まで戦い続ける。契約がある限りは絶対に諦めない」

 だが困難にぶつかるたびに懸命な努力でその壁を乗り越えてきた28歳は、「僕は自分の能力を信じている。もしチャンスがあれば自分の良さを見せて結果に結びつけたい。出場機会があれば、いつでもいいプレーをする自信がある。フットボールには常にチャンスが転がっているものだからね。それをしっかりと掴みたい」と周囲の心配を意に介さない。

 昨年も出場機会に恵まれずJ3に出場したこともあった。出番が少なかった影響でオーストラリア代表から外れたこともあった。そんな苦しい時期を経験しても、腐らず、貪欲さを失わず、常にチャンスをうかがっていた。

 いまのJ1でベンチ外が続く状況を考えれば、移籍して環境を変える選択肢もあるのではないか。そんなことを思って、最後に彼に尋ねてみた。だが、予想に反してバーンズの口から出てきたのは固い決意のこもった言葉だった。

「今シーズンはFC東京との契約があるから、最後まで戦い続ける。もし最終的にクラブからいらないと言われたら、新しいクラブを探すことも選択肢になる。だけど、契約がある限りは絶対に諦めないよ。それが僕の仕事だからね。フットボールの世界が変化するスピードは本当に速い。1週間なんてすぐだ。絶対に諦めないよ!」

 取材対応を終えた後、勝利のために力を尽くしている選手に失礼な質問をしてしまったと感じ、「先ほどは失礼な質問をしてしまい申し訳なかった」と謝罪した。するとバーンズは「ノープロブレム、君の質問は良かった。全く問題ないよ」とこちらをフォローしてくれた。

 真のジェントルマンにして、真のチームプレイヤーであるバーンズは、どんな状況に置かれようとひたむきに努力を続ける。「絶対に諦めないよ!」と力強く宣言した彼の表情はプレーする喜びに溢れていた。

(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉