ITスタートアップの組織的「稚拙さ」 ウーバーの危機で露呈

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ウーバーのトラビス・カラニック最高経営責任者(CEO)は先週、自身の右腕となる最高執行責任者(COO)を「積極的に」探していると発表した。焦るのも無理はない。同社はここ最近、次から次へとスキャンダルに見舞われているからだ。

先月には、自社のベテラン運転手と報酬をめぐり口論になったカラニックが暴言を放つ場面を捉えた映像が撮影された。また同時期には、同社の人事部が職場でのセクハラを組織的に隠蔽(いんぺい)していた疑惑が、元従業員の女性エンジニアの告発によって明るみに出た。

さらにウーバーは、グーグルから自動運転技術に関する企業秘密を盗んだとして訴えられ、裁判所から自動運転車の開発差し止めを命じられる恐れに直面している。

これに追い打ちをかけるように発覚したのが、ウーバーが内部で使用していた「グレイボール」と呼ばれるソフトウエアの存在だ。同社はこれを使い、サービス提供が禁止されているパリなどの都市で警官が使うアプリに、実際は存在しない「幽霊車両」を表示させ、取り締まりを回避していた。

ウーバーは、成長と利益のためならどんなこともいとわないのか。「素早く行動し破壊する」は、肝に銘じるべき唯一のモットーなのだろうか。

グレイナーの企業成長モデル

企業の成長過程を5組の原動力と危機からなる段階に分けた米経営学者ラリー・E・グレイナーの1972年の論文は、今や企業経営者の必読書となっている。当時の米国では、戦後20年の高度成長期を経たフォードやゼネラル・エレクトリック(GE)などの大企業が危機に陥っていた。

こうした企業は世界各地に進出していたが、現地の経営陣は高い自由度をもって事業を運営していたため、本社は一貫した戦略を効果的に遂行できず、日本企業などの台頭に対抗できずにいた。

経済学者の間では、米国の競争力低下は避けられないとの見方が広がっていたが、グレイナーの考えは違った。彼は、こうした企業は単に成長過程にあると考えたのだ。

それまで合併吸収を繰り返してきた大企業は、現地の経営陣に迅速な経営判断を任せるために分権的組織構造を導入していた。だがグレイナーは、この「権限委譲」段階は既に時代遅れになっていると考えた。

企業が危機に陥った理由は、競合に対抗するために必要な全社的「調整」機能が欠けていたからだった。そこで注目されたのが、マトリックスと呼ばれる新しい組織構造だ。

マトリックス組織とは、指揮命令系統を従来の階層型ではなく、縦・横の格子状にした組織構造で、各マネジャーが2つの所属を持つことを特徴とする。洗濯用洗剤の現地マーケティング部長は、現地支部長の部下となると同時に、製品の世界展開を監督する本社の洗剤部門部長の部下にもなる。「地球規模で考え、足元から行動する」ことを可能とする構造だ。

だが、どんな組織構造にも寿命はある。インターネット時代の到来により、多くの大企業が、シリコンバレーの「破壊的」新興企業に脅かされるようになった。こうした企業は、シンプルな組織構造と、野心的な創業者、そして忠誠心の強い従業員らを武器に、既存産業を次々と乗っ取っていった。

大企業の間では今、シリコンバレー式の敏捷性を組織に取り入れる動きが主流化している。GEは「リーン・スタートアップ(無駄のない起業)」というビジネス開発手法を従業員数33万人の自社組織に適用した。これは、グレイナーの企業成長モデルでの最終段階、つまり「調整」から「協働」への移行に当たる。

だが相手に学んでいるのは既存企業のみではない。ウーバーもまた学んでいる。ただ、ウーバーが位置している成長段階は、大手企業とは真逆、つまり第1段階に当たる。