Crazy Crazy (feat. Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu) / 原宿いやほい

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 強い作家性を持ちながらも常に大衆を魅了してきたプロデューサーのひとり、中田ヤスタカ。彼の音楽性を語るときによく引き合いに出されるのが、印象に残る“短い反復”を多用するメロディであったり、造語を用いた“キャッチーな歌詞”であったり、日本人に馴染みのある“ヨナ抜き音階”であったり、踊りやすい“四つ打ち”のリズムだったりする。しかし今現在、彼自身が曲作りに重きを置いている点は若干だが変化しつつあるように感じる。2017年に発表された彼の主な作品を聴き、今現在の彼のモードを読み取ろう。

(参考:中田ヤスタカはいかにしてエレクトロとJPOPを融合したか “緻密な展開力”と“遊び心”を分析

・きゃりーぱみゅぱみゅ - 原宿いやほい(1月18日リリース)

 昨年、デビュー5周年でベストアルバムを発売し、ひと区切りが付いて以来のリリースとなる今作。<あの交差点から始まった>という印象的なフレーズは、彼女が最初に中田ヤスタカとタッグを組んだ「PONPONPON」の歌い出し、<あの交差点で みんながもしスキップをして>と対になっている。きゃりーのシングル曲としては実質的に初となるサビに明確な歌詞の無いドロップを用いたEDM路線であり、彼女の“新しい一歩”が詞にも音にも表れている楽曲だ。ドロップ直前の<いやほい>のレコーディングに何時間も費やしたそうだが(ヤスタカがめちゃくちゃこだわったらしい)、この投げやり感はとてもよい煽りになっている。もはや「サビで何をどう歌うか」ばかりが注目されてしまう彼女に付き纏う呪縛を、ひと言で解き放つパワーがこの<いやほい>に感じとれる。

・Perfume - TOKYO GIRL(2月15日リリース)

 2014年の「Cling Cling」以降のシングル曲では、サビ始まりではなく、イントロ→Aメロと展開していたPerfume。いきなりサビから始まることでインパクトを残すスタイルではなく、別の方法でリスナーを引き込むスタイルを模索しているようだ。イントロは非常に印象的である。他の音を削いでリズムのみで、しかも四つ打ちではなく2ステップ系の“特徴的なリズムパターン”である。このようなドラム使いはそもそも中田ヤスタカ自体に珍しいことである。壮大なストーリーを予感させる長編映画のプロローグのようなこの幕開けからは、製作陣のただならぬ意気込みを感じる。

 Aメロではほぼ歌とキーボードのみという思い切った決断をしている。余程、歌声や音色に自信がないとできないことだ。付属DVDでのPerfume本人たちのコメントによれば、「レコーディング時にはAメロはもっと音が多かったが、出来上がったものを聴いてみたらかなりの要素が削がれていた」という。つまりAメロのこの“余白”の多さは、サビを盛り上げるためにあとから意識的に引き算され強調されたものだということだ。テンポがそれほど速くないので間延びしてしまいそうだが、前半<太陽が〜熱帯魚>では生のピアノに限りなく近い音、リズムが合流する後半<平凡を〜泳げたら>では柔らかい電子音に変化させることで、それを防いでいる。こうして強調された緩急により、サビは”TOKYO”をタイトルに冠すのに申し分のない広がりを得ている。

 “特徴的なリズムパターン”と“余白”。この2つがこの曲のポイントであり今までのPerfumeに無かった新しい要素だ。

・三戸なつめ - パズル(2月22日リリース)

 イントロは非常に“ヤスタカ的”なノリのよいビートだが、Aメロに入り<冒険すればきっと>と歌われると、逆に“非ヤスタカ的”な音へガラッと変化する。生のギターとピアノが主役となるアコースティックなサウンドだ。三戸なつめの楽曲の特徴のひとつとして挙げられるのがこの“生のピアノ”の音である。2ndシングル曲「8ビットボーイ」のイントロでは小刻みなピアノの打鍵音が、3rdシングル曲「I’ll do my best」ではピアノの打鍵後の豊かな響きが、そしてこの「パズル」でもピアノが使われているが、比較的低い音の鍵盤による深く延びのある共鳴音が曲の多くを占めている。これにより、骨格としての曲の形はダンス・ミュージックなのだが、実際は非常にオーガニックで温かみのある歌モノのポップスの要素で充満している。音の響きを楽しむ曲なのだ。キャッチーであることが是とする今のJ-POP−−それはまさしく中田ヤスタカ自身が作りあげた状況である−−を考えるならば、この曲は少々物足りなく感じるかもしれない。しかし、そういう現状を打破する駒の一つとしてこの曲は聴かれるべきだ。サビの最後の詞にはこうある。<次へと進みたいでしょ>。

・三戸なつめ - ハナビラ(2月22日リリース)

 「ハナビラ」と聞いてまず思い浮かべるのは、「さくら」や「東京喫茶」といった純日本的な言葉をタイトルに取り入れていた初期のcapsule、とくに2ndシングル『花火』あたりにこの曲の醸しだすイメージは似ている。非常に“情景”を喚起させるタイプの楽曲だ。サビの細切れのメロディーからは舞い散る桜の花びらを、淡々と進むアコギの2コードのバッキングからは時の流れを、傍で微かに鳴っているストリングスからは切なさを感じる。全体的にピアノもアコギも裏打ちで弾かれているため、その分キックが目立つ。これにより、少し散り始めた春の桜並木をゆっくりと歩いているような感覚に浸れるのだ。我々が思う典型的「ヤスタカ像」を払拭してくれる曲作りを、三戸なつめの楽曲には感じとれる。4月26日発売のファーストアルバム『なつめろ』に期待できるのは、こうした「情景」や「季節感」を感じ取ることができるアプローチだ。

 短期間でヒット曲を量産してきた分、既存のイメージに囚われがちな彼だが、きゃりーの“サビに歌詞のない”EDM路線、Perfumeが取り入れた“特徴的なリズムパターン”と“余白”、三戸なつめに感じる“ピアノの響き”や“季節感”。これらはどれも“脱ヤスタカ”サウンドである。2017年、中田ヤスタカは変わろうとしている。(荻原 梓)