「副作用のないがんの治療法」。言うだけなら一言であるが、現代医学にとって、高くそして険しい大目標の一つである。その為の足掛かりとして今回九州大学などが開発したのが、「がん細胞の温度に反応し、その部位にだけナノ微粒子が集まる」というナノテクノロジーだ。

 薬剤治療にせよ放射線治療にせよ、がん治療の厄介なところは、「がん細胞にダメージを与える過程で、正常な細胞にも害を及ぼしてしまう」ということにある。

 これを乗り越えるために目下研究されているのが、DDS、ドラッグ・デリバリー・システムという技法だ。名前はシンプルであるが、体内の薬剤の運搬・分布を、量的にも、空間的にも、そして時間的にも制御するという、なかなか奥の深い技術である。

 ところでがん細胞というものは、温度が高いらしい。部位にもよるが、たとえば乳がんの場合、他の部分の体温よりも2度も高い熱を持っているのだそうだ。

 今回の研究は、そこに目をつけた。DDSは、もちろん血管を通じてターゲット部位に薬剤を到達させるのであるが、研究グループは、温度に反応して分子が集合し形やサイズを変化させる「温度応答性ナノ微粒子」を開発、これをDDSに導入した。

 がん細胞は、温度が高いという特徴のほかに、細胞間の隙間が広い、という特徴も持っている。「温度応答性ナノ微粒子」は、がん細胞に到達すると、その温度に反応し、隙間に入り込んでがん細胞に対し作用を及ぼし始める。それにより、周囲にダメージを与えないがんの薬剤治療が可能になる、というわけである。

 研究は現状、マウスを対象に行われているが、これが人間の患者でも実用化できれば、投与量も少なく済み、身体への負担の少ないがん治療が実現できることになる。

 なお、この研究の詳細は、アメリカの科学誌「Nano Letters」オンライン版で公開されている。