商店に集うナイジェリア商人。中国人店員は片言英語で対応

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 移民や就労目的で、世界各国に中華ネットワークが拡大しているのは多くの人が知るところだ。ところが昨今、津動く国内への外国人の流入が社会問題を引き起こしている。中国広東省・広州市の各地に増殖している「アフリカ村」のひとつに、ノンフィクション作家の安田峰俊氏が飛んだ。

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 場末の路地の横幅は1メートルにも満たなかった。ヒビ割れた路面に散らばる生ゴミの腐臭。すすけた壁の安アパートの一階で、パクリ玩具や怪しげな食品を売る雑貨店。「余所者」の私の闖入を、住民がいぶかしげな目でじろりと眺める。

 ここは広東省広州市の三元里だ。一般の中国人すら滅多に足を踏み入れない城中村(チェンジョンツン、中国版のスラム)地帯である。私の目の前を、そんな場所にはどう見ても不似合いなアフリカ系の男が早足で歩いている。迷路さながらの路地だが、ずいぶん慣れた足取りだ。私は彼を見失わぬよう、薄暗いスラムの小径を必死でたどり続けた──。

 広州市では近年、アフリカ系外国人の増加による住民トラブルが社会問題化している。そこで現地に飛んだ私は、市内で見かけたアフリカ人の後をつけ、彼らのコミュニティがどこにあるのか突き止めようと考えたのだった。

 数キロにわたり男を追うと、やがて中国らしからぬ英語の看板を出すアフリカ人向け食堂が何軒もある通りに出た。瑶台西路という場所だ。路上では十数人のアフリカ人が昼間から青島(チンタオ)ビールを飲んで騒ぎ、非日常的な光景が広がる。さらに男の尾行を続けると、彼の姿はある安ホテルに吸い込まれていった。

 ロビーをのぞき込む。巨大な荷物を抱えた大量のアフリカ人がたむろしていた。私の観察中にも、続々と黒い肌の男女が入ってくる。近隣の複数の安宿もここと同様の状況らしく、おそらく1キロ四方ほどの地域だけでも100人近くが滞在していると見られた。

「瑶台西路界隈にいるのはナイジェリアの商人だ。中国で買い付けた100元(約1700円)の衣服をナイジェリアで売れば、7000ナイラ(約2500円)になる。ガーナやカメルーンなど近隣国に持っていってもいい。中国製品はよく売れるからね」

 近所で数年前から同胞向けの食堂を経営する、ナイジェリアのオニチャ出身のマーティン氏が話す。広州のアフリカ人は、同国の出身者が最も多いという。

 最近は人民元の高騰で商売が厳しいが、数年前はもっと利幅が大きかったため、街は現在以上に多くのナイジェリア人で溢れていた。

「中国に来るのは南部のイボ族が多い。国家のポストを(ブハリ現大統領も属する)北部のイスラム系の部族が握っているので、われわれは中国に来てカネを稼ぐしかないんだ」

 とは、同国ラゴス市出身のイボ族商人・マース氏の弁だ。2か月間の中国滞在で中古衣料品を大量に買い付けるのだという。

●やすだ・みねとし/1982年滋賀県生まれ。ノンフィクション作家。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。著書に『和僑』『協会の民』『野心 郭台銘伝』など。

※SAPIO2017年4月号